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はじめに

 六十をもう十一年も超えて生きてきた。六十七歳で逝った母より長く生きているというのはふとふり返ると感慨である。しかしまた、なんと昔のことをよく覚えているものだ、実はまだほんの少ししか時間は経っていないのだとも思う。

 この六十数年、世相は大きく変わった。幼少期の生活は貧しかったがそれなりの落ち着きがあった。四季のうつりかわりとそれによって画される日々の生活があった。私は、当時の世間の一般的な上昇志向をもったものとして青少年期を生きた。

 その人生は一九六八年を経た七一年を境に少し変わった。一九七一年の転換はだれでもが経験する青年期の悩みのなかでの出来ごとであったが、それがあの時代に促されて起こった。六八年の青年反乱は、いまふり返るなら、経済を第一とする時代から人を第一とする世へ転換してゆく、そのさきがけであった。転換期は、世の既成の権威とその制度から離れたところで生きる者を生みだす。私もまたその端くれであった。

 以来、試行錯誤ばかりである。一人の小さな経験が、この大きな転換の時代の中でのことであると認識できたのは、近年、つまりは二十一世紀になってからである。大きな転換期のなかでの、小さな試行錯誤の一端を、いささかの反省と総括を加え、書きおこうと思う。

制作経過:
2002.1.10 「故郷・宇治」として制作をはじめる。
2006.6.15 「京都という場」「数学と孤独」円空模写追加。
2009.2.5 「専従として」若干改訂。
2010.5、2011.3 写真追加。
2015.12.28 「はじめに」追記。
2017.1 「あとがき」追加。
2018.5.24 「あとがき」追加。全体若干改訂。
2018.7.12 「はじめに」「場を作る」「あとがき」改訂。
2018.10.31 「故郷宇治」改訂。
2019.12.6 「父母の言葉」冒頭改訂。

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