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かた(方)

かた(方)[kata]

◯場所を表す「か([ka])」に手を表す「た[ta]←[te]」が合わさり、「向かう手の方向」を意味する。「向こう」はまた「か(彼)」でもあるので、「か(彼)た(処)」でもある。

※「か([ka])」はタミル語<kan>起源。 ◇ありか。存在する場所 ◇住みか。住むところ。 「た[ta]←[te]」もタミル語<tol>起源。

◆話者から見て明確に指示できる方角。話者のまわりを分けて、そのうちの一つを話者からの「向き」として示す。話者の位置は意識されない場合や、明確でない場合にも用いられる。しかし、明示されてなくても、つねに何か方角を定める座標が前提になっている。

▼もののある場を話者からの向きとして示す。 ◇『古事記』中・歌謡「はしけやし我家(わぎへ)の迦多(カタ)よ雲居立ち来(く)も」 ◇『竹取物語』「此の吹く風はよきかたの風なり」 ◇『枕草子』一六一「職の御曹司をかた悪しとて」 ◇『伊勢物語』一九「昔、をとこ、宮仕へしける女の方に」 ◇『土佐日記』「霜だにも置かぬかたぞと言ふなれど」 ◇東方、西方(相撲) ◇『竹取物語』「唐の方にむかひて」 ◇『万葉集』三二九九(或本歌)「此の加多(カタ)に我は立ちて」 ◇『源氏物語』絵合「ひだりみぎとかた分たせ給ふ」 ◇「母方(かた)」 ◇「まかない方(がた)」「会計方(がた)」

▼方向から意味が展開して、「そのような」と抽象的な方向性で一定の限定をうける「こと」を表す。 ◇『枕草子』三三「烏帽子に物忌つけたるは〈略〉功徳のかたにはさはらずと見えんとにや」 ◇『更級日記』「宮仕への方にも立馴れ」 ◇『源氏物語』帚木「おのづから軽(かろ)きかたにぞおぼえ侍るかし」 ◇『枕草子』一一九「思ひかはしたる若き人の中の、せくかたありて心にもまかせぬ」 ◇『徒然草』七五「まぎるるかたなく」

▼することの方向性から、やり方(かた)。 ◇『竹取物語』「ある時はいはん方なくむくつけげなる物来て、食いかからんとしき」 ◇『宇津保物語』吹上上「ゆく春をとむべきかたもなかりけり」 ◇「考え方(かた)」「書き方(かた)」「作り方(かた)」

▼人を、その人がいる方向で指し示す。 ◇『源氏物語』葵「かくやむごとなき方も失せ給ひぬるを」 ◇「あの方」 ◇『浮雲』二葉亭四迷「あの丸髭に結った方(カタ)は」

▼時間的な方向の意から、頃。時節。 ◇「夕方(がた)」「朝方(がた)」「いずかた」「異方(ことかた)(別の所。別室、または別の家。また、別の人)」 ◇『枕草子』三〇一「いかにして過ぎにしかたを過ぐしけん」.

※「かた」が「かた(型)」と同根なのかは、不明。

したがって「考え方」が同時に「考え(の)型」であるのかないのかについて、日本語が言葉としてどのように構造の中に組み込んでいるのかを、語源から判断することはできない。

西本願寺本万葉集では、「方」と「加多」「迦多」「可多」が併存。一方「形」と「迦多知」(794)も併存し、「方」と「形」に発音上の区別はない。「ひさかたの」も「久堅の」と「久方の」が併存し、「方」と「堅」にも区別がない。さらに「かたまく」に「方設而」(2133)と「片設而」(2,2163)まで併存している。西本願寺本万葉集の万葉仮名では「片」とも発音上の区別はない。

※現代日本語では、上に読み方をつけたように、「かた」と読むときと「がた」と読むときの区別が明確である。「売り方(がた)」といえば相対して売買するときの売る方を表し、「売り方(かた)」といえば売る方法を表す。「売り」が意味の主要な面をなしているときは「方」は接尾語で濁り、「方」が意味の主要な面をなしているときは独立した意味のある名詞として濁らない。おおよそこのように言えるが、さらに研究が必要である。