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たつ(立つ)

たつ(立つ・起つ・建つ)[tatu]

◯「たて(縦)」にする。縦になる。

◆大地に伏せていたものが、天に向かう方向に起きる。伏せているものが立つことから、盛んになる、盛んにする。

▼物や人が、たてにまっすぐな状態になる。また、ある位置や地位を占める。 ▽人が足をのばし大地に垂直の姿勢でいる。 ◇「足が立たない」 ◇『日本書紀』欽明二三年・歌謡「韓国の城(き)の上に徃致(タチ)て」 ◇『源氏物語』松風「『……あはれ』とうちながめてたちたまふ姿にほひ、世に知られずとのみ思ひきこゆ」

▽ある位置を占める。ある立場に身を置く。 ◇「優位に立つ」 ◇「苦境に立つ」 ◇「人の上に立つ」 ◇『古今序』「人まろは あかひとがかみにたたむことかたく あか人は人まろがしもにたたむこと かたくなむありける」 ◇『大和物語』五「后にたち給ふ日になりにければ」

▽植物がまっすぐに生えている。 ◇『古事記』中・歌謡「渡瀬に多弖(タテ)る梓弖まゆみ」 ◇『万葉集』四五「隠口の泊瀬の山は 真木立つ 荒山道の」 ◇『古今集』四二「そこにたてりける梅の花を」

▽山や建物がそびえている。建物の場合「建」をあてることが多い。 ◇『蜻蛉物語』中「暑ければ しばし戸をおし開けて見渡せば、堂いとたかくてたてり」

▽とげ、矢など細長いものがささる。「とげが立つ」 ◇『平家物語』一「神輿にたつ所の箭をば、神人をして是をぬかせらるる」

▼起きあがる、わき上がる。行動する。 ◇「敢然として立つべき時期」

▽退出する。出発する。 ◇『万葉集』三九九九「都方(みやこへ)に多都(タツ)日近づく」

▽横になったり、すわったりしていた人が身を起こす。 ◇『伊勢物語』四「去年を恋ひて行きて、たちて見ゐて見見れど、去年に似るべくもあらず」

▽鳥、虫などが飛びあがる。 ◇『万葉集』三三九六「小筑波の繁き木の間よ多都(タツ)鳥の目ゆか汝を見むさ寝ざらなくに」 ◇『新古今集』三六二「こころなき身にもあはれはしられけりしぎたつ沢の秋の夕暮」

▼作用、状態などが目立ってあらわれる。

▽雲、霧、煙などが現れ出る。 ◇『万葉集』四八「東の野に炎の立つ見えてかえり見すれば月傾きぬ」 ◇『万葉集』三五一五「嶺(ね)に多都(タツ)雲を見つつしのはせ」

▽季節がはじまる。新しい時節が来る。 ◇『万葉集』一五五五「秋立ちて幾日もあらばこの寝ぬる朝明の風は手本寒し」 ◇『古今集』一「春たちける日よめる」

▽風、波などが起こり動く。 ◇『万葉集』三六七〇「韓亭能許(のこ)の浦波多多(タタ)ぬ日はあれども家に恋ひぬ日は無し」

▽月、虹などが高く現れる。 ◇『万葉集』三四一四「伊香保ろの八尺(やさか)のゐでに多都(タツ)虹(のじ)の」

音や声が高くひびく。 ◇『万葉集』四四六〇「音しば多知(タチ)ぬ」

▽人に知れわたる。評判になる。 ◇「うわさが立つ」 ◇『伊勢物語』一七「あだなりと名にこそたてれ」

▽目に見えるようにはっきり示される。 ◇「潔白のあかしが立つ」 ◇『徒然草』九「女は髪のめでたからんこそ、人の目たつべかめれ」

▽催される。 ◇「場が立つ」 ◇「市(いち)が立つ」 ◇『万葉集』三九九一「宇奈比川清き瀬ごとに鵜川多知(タチ)」

▽水が十分に熱せられて湯気やあわが生じる。たぎる。湯や風呂がわく。 ◇「風呂が立つ」 ◇『名語記』四「あつき湯のたつ、如何。これも立也。たちあかる也」

▽(興奮して気持が)高まる。激する。 ◇「気が立っている」 ◇『虎寛本狂言・右近左近』「何とはらの立(たつ)事ではないか」

▽ある気持や状態が生じる。すぐれた性能が発揮される。やってゆく。 ◇「損が立つ」 ◇「弁が立つ」 ◇「筆が立つ」 ◇「役に立つ」 ◇「くらしが立つ」 ◇「方法が立つ」 ◇『徒然草』二二九「よき細工は、少しにぶき刀をつかふといふ。妙観が刀はいたくたたず」 ◇『平家物語』九「さ様にうちとけさせ給ては、なんの用にかたたせ給ふべき」

▼他動詞で。

▽人に知られるようにする。評判を広める。 ◇『古今集』二二九「あやなくあだの名をやたちなん」

▽気持を興奮させる。 『大鏡』三「馬の上にて、ない腹をたちて」

▽使用に間に合わせる。 『仮・昨日は今日の物語』下「我らもおにやけを御用にたち申べし」