◯「おも[omo]」は「うむ(生む)[umu]」から転じたことばである。「つくる(作る)[tukuru]」と「ところ(所)[tokoro]」の関係と同じく、ある営みがなされる場やそれを担う人を意味する。
「て[te]」もあることがなされる場を表し、あるときは方向であり、あるときは担い手である。「上手(場所)」、「やりて、シテ(担い手)」などの「て」に通じる。
[te]が担い手を意味するとき、つまり「生む」ことをになう人のときは「面」と表す。[te]が場所を意味するとき。つまり「生む」ことが起こる場所のときは「表」と表す。
◆生産にかかわることがおこなわれる場。またそれを担う人格。 [te]が方向でもあることから、方面。正面に当たる方。ここから顔の正面も意味する。
▼顔の正面。顔面。顔だち。おも。 ◇面をあげる。 ◇『日本書紀』皇極三年六月・歌謡「小林(おばやし)に我を引き入れてせし人の於謀提(オモテ)も知らず家も知らずも」 ◇『万葉集』八〇四「紅の意母提(おもて)の上に何処(いづく)ゆか皺が来たり(山上憶良)」
▽顔むけができること。面目。体面。◇『源氏物語』賢木「いづこをおもてにかはまたも見え奉らむ」
▽顔をかたどったもの。仮面。面形(おもてがた)。めん。また、とくに能面をいう。
▼生産にかかわることがおこなわれる場。公の場。外に現れたところ。近世になるほど「外面、うわべ」といった意味が強まる。
▽物事の外側、前方、上部に現われた部分。相反する面をもった物事を目立つ方向から見て目につく部分。物事の表面、外面。うわべ。外見。見え。 ◇『土左日記』「うちつけに海は鏡のおもてのごとなりぬれば」 ◇『源氏物語』若紫「ただ、海のおもてを見渡したるほど南無、あやしくこと所に似ず」 ◇『行人』夏目漱石「少し滑稽を感じたが、表ではただ『成程』と肯がった」
▽家などの正面。また、店さき。家の前や外の方。戸外。屋外。 ◇表で遊ぶ。表が騒がしい。 ◇表座敷。 ◇『当世書生気質』坪内逍遙「下駄を穿きて、両人街頭(おもて)へ出る」 ◇『五重塔』幸田露伴「戸外(おもて)では無心の児童(こども)達が独楽戦(こまあて)の遊びに」
▽本来のこととして、はっきりと人前に示すに足ること。第一に重んずべきことや公式、正式のこと。
▽名詞に付いて複合語を作る。
ある方向に向かっていること。ある側に面していること。
◇『源氏物語』桐壺「南おもてにおろして」