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命題と条件

命題とは何か

問題を解くときには,まず与えられた条件と証明すべき結論を明確にする.これが基本である.そのために日頃使っている「命題」や「条件」とは何であるのかをはっきりさせよう.「条件」を理解するためにはその前提として「命題」を理解しなければならない.多くの教科書の「命題と証明」の章では「命題」が次のように定義されている.

式や文章で表された事柄で,正しいか正しくないかが明確に決まるものを命題という.命題が正しいことをであるといい,正しくないことをであるという.
「事柄」そのものは定義されていないが,数学的現象について何らかの事実や推論を述べたもの,と言うことである.

定義の分析

この段落は難しければ読み飛ばしてもよいところだ.しかしこの教科書の定義に何かひっかかるものを感じた人はいないだろうか.

これらはすべて当然で自然な疑問である.だが,この問題を掘りさげようと思ったら,数学基礎論の勉強をしなければならない.いずれも数学体系をどのように組み立てるのかという難しい問題なのだ.高校の教科書の定義は厳密な意味で「命題」の定義ではない.実は命題とは「いくつかの公理と論理演算の列」として定義されるのだが,ここではそれ以上追求することはできない.

このように高校数学のなかには,論理的な穴がいっぱいある.それはそれでいいのだ.それは人間が数学的現象を捉えるときの不十分さということであり,さらに学ぶなかで必要なときに解決していけばいいのだ.もし上に書いたようなことが気になる人はさらに勉強を続けてほしい.

まず常識を大切に

高校数学段階ではこれらを問題にする必要はない.まず常識を大切にして「5は3より大きい」は命題である.「5は3より美しい」は命題ではない.このように,

\begin{displaymath}
述語部分が数学的に内容の確定するものを命題という.
\end{displaymath}

と理解しよう.

条件

教科書では「条件」とは何かについて,明確には述べられていない.教科書では命題よりも先に必要条件や十分条件,つまりは「条件」が出てくる構成になっている.そのため「条件」とは何かが明確にならないのだ.「命題」はわかったものとし,これを基本にして順次考えていこう.

さて「16は4の倍数である」は命題である.この16を変数 $x$ に変えた「 $x$ は4の倍数である」は$x$に何が入るのかによって真になったり偽になったりする.この場合は16を$x$に置きかえたが文字は必要に応じて使い分ける.

一般に命題は主部(何について述べるか)と述部(述べた内容)よりなるが,その主部を適当な変数,例えば $x$$a$ などに置きかえたものを命題関数という.そしてこれを $p$ や,変数を明確にしたいときは $p(x),\ p(a)$ のように書く.例えば $p(a)$ :「$a$ は奇数である」のようなものだ.命題関数 $p(x)$ はそれ自体真偽が定まらないから命題ではない. $x$ に値を代入することによって命題になる.「真である」ことを「成立する」ともいう.

この$p(x)$についていえば,$p(3)$つまり「3 は奇数である」は真,$p(4)$つまり「4 は奇数である」は偽である.命題関数というからには何かの値をとると考えることもできる.この場合の値は何かといえば,それは「真」と「偽」だこの二つの値をとる.だから上の例では $p(3)=真,p(4)=偽$ と考えることもできる.

そこで「条件」の定義だが,命題関数 $p(x)$ のことを$x$ に関する条件ともいうのだ.命題の定義にたちかえっていうと,文字を $x$ とすれば,条件とは「$x$ に代入することによって真偽が定まる式や文章」のことである.何となく使ってきた「条件」もこのようにして明確に定義される.

\begin{displaymath}
実数a,\ bに対し\ 2次方程式\ x^2+ax+b=0 は実根をもつ.
\end{displaymath}
は,文字 $a$$b$ に関する条件である.上の書き方では命題関数 $p$
\begin{displaymath}
p(a,\ b) :「x^2+ax+b=0 は実根をもつ」
\end{displaymath}

となる.この条件は 
\begin{displaymath}
a,\ b\ は\ a^2-4b \ge 0\ を満たす.
\end{displaymath}

同値となる.したがって,命題関数$p(a,\ b)$は,$a^2-4b \ge 0$を満たす $a$$b$ なら真,そうでなければ偽となる.

複合命題

「命題」はいくらでも複雜なものがあり得る.いちばん単純なのは「何々(について述べる)」という主題の部分(主部)と「(何々)である」とそのものの内容を述べる述語の部分(述部)から成り立っている断定型である.「3は奇数である」とかのたぐいだ.

これに対して「$x$$x<1$ならば$x$$x<3$である」のような推論型も命題である.推論型の命題を複合型命題ということもある.つまり $p\Rightarrow q$という形をした命題である.ここで$p$$q$は例えば

\begin{displaymath}
p:xは-1\le x \le 2をみたす.\quad
q:xは0\le x \le 1をみたす.
\end{displaymath}

のような何かの条件である.この例の場合$x$についての条件である.このように 命題には事実を述べた断定型と,推論を述べた推論型がある.しかし「3は奇数である」という断定型命題は,「$x$が3ならば$x$は奇数である」と推論型に表されので,基本的に命題は推論型であるとしてもよい.

\begin{displaymath}
p\ ならば\ q \quad すなわち \quad p \Rightarrow q
\end{displaymath}

の形に表される命題を考えよう.このとき 条件$p$ をこの命題の仮定(条件), 条件$q$結論(条件)という.

仮定命題と条件をはっきりと

数学の問題とはこのような複合型命題の真偽の決定問題,あるいは条件が真となる$x$の値の決定問題のいずれかであると言ってもよい.そこで,問題文を読んだならその問題の構造をつかまなければならない.仮定と結論とよく言われるが,仮定とは「何々のとき」「何々とすれば」のように,何ごとかに関する条件が成立するという仮定である.結論はその条件が成立するときに,その結果として成り立つ事実であり,これもまた一つの条件である.

だから問題解決の第一歩は,どのような条件が成立すると仮定するとき,何を決定しなければならないのかを明確にすることである.

2008年京大理系乙の3番は次の問題だった.


例題 1.3       [08京大理系乙]

空間の1点Oを通る4直線でどの3直線も同一平面上にないようなものを考える. このとき,4直線のいずれともO以外の点で交わる平面で,4つの交点が平行四辺形の頂点になるようなものが存在することを示せ.


この問題を決定問題として言いかえると次のようになる.

次の命題の真偽を決定せよ.
空間の4直線が条件: 「1点Oを通りかつどの3直線も同一平面上にない」を満たすなら, 4直線のいずれともO以外の点で交わる平面で4つの交点が平行四辺形の頂点になるようなものが存在する.

このような問題は構造が比較的明確だ.図形的に考えることもできるが,基本的には空間ベクトルの問題として処理するのがよい.そのとき,空間では同一平面上にない3ベクトルは1次独立で,他の任意のベクトルを書き表すことができる,ということに思い至ればよい.

解答      4本の直線の方向ベクトルを $\overrightarrow{a}$ $\overrightarrow{b}$ $\overrightarrow{c}$ $\overrightarrow{d}$とする. ベクトル $\overrightarrow{a}$ $\overrightarrow{b}$ $\overrightarrow{c}$ が表す3本の直線は同じ平面上にはないので, これらのベクトルのいずれも他の二つのベクトルで表すことはできない. つまり1次独立である. 空間は3次元であるから1次独立なベクトルの個数は3個以内である. つまり4個のベクトル $\overrightarrow{a}$ $\overrightarrow{b}$ $\overrightarrow{c}$ $\overrightarrow{d}$は1次独立ではない.

\begin{displaymath}
\overrightarrow{d}
=
\alpha\overrightarrow{a}+
\beta\overrightarrow{b}+
\gamma\overrightarrow{c}
\end{displaymath}

となる実数 $\alpha,\ \beta,\ \gamma$が存在する. どの3直線も同一平面上にないので, $\alpha\beta\gamma\ne 0$である.

各直線上の4点A,B,C,Dを

\begin{displaymath}
\overrightarrow{\mathrm{OA}}=\alpha\overrightarrow{a},\
\ov...
...ghtarrow{c},\
\overrightarrow{\mathrm{OD}}=\overrightarrow{d}
\end{displaymath}

で定める.これらはいずれも原点とは異なる.このとき
\begin{displaymath}
\overrightarrow{\mathrm{OD}}-\overrightarrow{\mathrm{OA}}
=\overrightarrow{\mathrm{OC}}-\overrightarrow{\mathrm{OB}}
\end{displaymath}

より
\begin{displaymath}
\overrightarrow{\mathrm{AD}}=\overrightarrow{\mathrm{BC}}
=\overrightarrow{\mathrm{AC}}-\overrightarrow{\mathrm{AB}}
\end{displaymath}


なので,点Dは3点A,B,Cで定まる平面$\pi$上にある. 四辺形ABCDの2辺ADとBCが平行で長さが等しいのでABCDは平行四辺形である. したがって$\pi$は4直線のいずれともO以外の点で交わり, 4つの交点が平行四辺形の頂点になる. $\pi$は問題の条件をすべて満たす平面である. □

この論証では,次の各命題が同値であることを用いた.

高校数学の範囲では3次行列の逆行列等は習わないので,これは証明なしに使ってよい.が,これらの正確な定義と同値性の証明などについては『数学対話』のなかの「線型代数の考え方」等を参考にしてほしい.

では次の問題はどうだろうか.06大阪府立大後期経済の問題だ.


例題 1.4       [06大府大後期経済]

$x,\ y,\ z$を0でない3つの実数とする. $A=x+y+z$$B=xy+yz+zx$$C=xyz$とおき, 以下の命題を考える.

($p$)
$A=0$ならば,$B<0$である.
($q$)
$A,\ B,\ C$がすべて正ならば, $x,\ y,\ z$はすべて正である.
($r$)
$x,\ y,\ z$の1つだけが正ならば, $A<0$または$B\le 0$である.
このとき以下の問に答よ.
  1. $(p)$が成り立つことを証明せよ.
  2. $(q)$が成り立つことを仮定して$(r)$が成り立つことを証明せよ.
  3. $(q)$が成り立つことを証明せよ.

こうなると問題の分析が難しい.(2)は前提が $(q)$である.そのもとでの$(r)$の成立を示せといっている.このところをおさえることと,命題の否定の作り方を正しくすること.これに注意して解いてみてほしい.


解答     

  1. $A=0$なので,$z=-x-y$である. よって,

    \begin{eqnarray*}
B&=&xy+y(-x-y)+(-x-y)x\\
&=&-x^2-xy-y^2=-\left(x+\dfrac{y}{2}\right)^2-\dfrac{3y^2}{4}
\end{eqnarray*}

    $x,\ y,\ z$が0でない三つの実数なので,これより$B<0$である.
  2. $(q)$の成立を仮定すれば $(r)$が成り立つことを, $(r)$の対偶が成立することを示すことで証明する. 「$A<0$または$B\le 0$」の否定は「$A\ge 0$かつ$B>0$」であるから, $(r)$の対偶は次のようになる.
    (*)    $A\ge 0$かつ$B>0$なら,「$x,\ y,\ z$の1つだけが正」ではない.

    もし$A=0$なら(1)から$B<0$なので,$B>0$のときは$A\ne 0$. よって条件「$A\ge 0$かつ$B>0$」は「$A>0$かつ$B>0$」である. ($q$)が成り立つのでもし$C>0$なら$x,\ y,\ z$はすべて正となり(*)は成立. もし$C\le 0$なら$xyz \le 0$なので,「$x,\ y,\ z$の1つだけが正」つまり$xyz\ge 0$ ではない.いずれの場合も(*)が成立した.

    よって$(r)$が成り立つことが示された.

  3. $A,\ B,\ C$がすべて正なので,特に$C=xyz>0$. よって$x,\ y,\ z$のなかの負のものは偶数個である.

    $x>0,\ y<0$$z<0$とする. $A=x+y+z>0$より$x>-(y+z)$である.$y+z<0$なので


    したがって$B>0$と矛盾した.

    よって$x,\ y,\ z$のなかの負のものは0個,つまりすべて正である.  □

このように問題を読んだらまず次のことを確認する.

  1. 全体に共通な大前提は何か.
  2. 成立が仮定される条件は何か.
  3. 小問に分かれている場合, 各小問における条件の相互関係はどのようになっているか.
  4. その結果として成立することを示すべき結論, あるいは決定すべき事柄は何か.

問題を分析しようという態度が大切である.


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