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公理系を立てる

射影幾何

ユークリッド空間におかれた平面を,その平面上にない1点から他の平面に射影したとき,線分の長さや角の大きさなど図形の計量的性質は変わるが,平面上の直線や点の結合関係は変わらない.ユークリッド幾何は大きさの概念を含む.それに対して射影幾何は射影で不変な図形の関係のみから成り立つ.

パスカルの方法で構成したモデルはあくまでユークリッド座標空間,正確にはアフィン空間を根拠としている.ユークリッド平面の直線を類別して射影平面の点を得た.これはユークリッド座標空間を基礎にしている.射影空間をそれ自身として定義することはできないのか.

公理の方法

ここで公理の方法を用いる.射影幾何の歴史的内容を十分に研究し,そこから共通の枠組を取り出し,それを公理として設定する.そして演繹的に論を展開する.そのための公理群,それが射影空間の公理である.

公理をてこに論を展開すること自体が,現象としての数学をとらえることの深まりそのものとなる.公理は仮説である.物理学も仮説を設定する.しかし仮説の検証方法は,数学と物理学とでは異なる.物理学は実験で検証される.数学では,矛盾なく数学的現象をとらえることができるかどうかで検証され,それ自体がまた数学的現象の構造を深く識ることになる.

確実なことを改めて取りあげ,そこから厳密な論証で射影幾何を再構成し,そのなかで複比をもういちど定義しなおし,そのうえでパスカルの定理の証明を試みるのでなければならない.そのときに複比の本質をとらえ直さなければならない.複比は本当に長さの比なのか.あるいはそれは外見であってその本質は長さという概念によらないものであるのか.

点と呼ばれるものの集合と直線と呼ばれるものの集合があり,それらのあいだにどのような関係が成り立っていれば射影幾何が定義されるのか.公理を立てる方法というのは,空間的で幾何的な直観を論理的に分析し,その内容を公理に定式化し,そこから論を展開しつつ,また公理そのものの分析を行うという,数学の方法である.

その場合,どのような公理系を設定するのかが重要な問題になる.関連するすべての命題の真偽を決定できるという公理の完全性,公理系のいくつかの公理から同じ公理系の他の公理が導かれることはないという公理の独立性,公理からある命題とその命題の否定が同時に導けることはないという公理の無矛盾性,公理系の設定ではこれらをめざすべきである.

われわれはパスカルの思想やその試論の証明をふりかえり,それを公理的方法でとらえ,そこから射影幾何を定式化することを試みよう.このような研究は十九世紀末から二十世紀初頭にかけてドイツやフランスを中心に行われ,そのからくりはほぼ解明され,まとめられてきた.これらを参考に,定義と公理を定め,基本的な証明を再構成するという方向で考えていきたい.そこで,先に定義した $P^2,\ P^3,\ P^n$はいったんおき,改めてそれらの公理的定義を構成してゆこう.

一般公理

公理を述べるために,まず考える対象と用語を定義する.

定義 5        集合$P$$P$の部分集合からなる集合$L$が与えられている.
i)
点と直線     $P$の要素を点といい$p$のように表し, $L$の要素を直線といい$l$のように表すものとする. $p\in l$であることを,点$p$が直線$l$上にあるといい, 直線$l$は点$p$通るという. 2直線がある点を共有する,つまり双方の上にある点が存在することを, その2直線が交わるという.■
ii)
共点と共線     点の集合が同一の直線上にあるとき,それらの点は共線であるという. 直線の集合が同一の点を通るとき, それらの直線は共点であるという.■

注意 3.1.1        いま前提としたことは,集合$P$とその部分集合からなる集合$L$があり,$P$の要素が$L$の要素である部分集合に「含まれる,含まれない」という関係が定義されている,ということだけである.

したがって,「関係」とは何かということをふくめて,公理の構造をより明確にするために,次のように言葉を定めることもできる.

二つの集合$P$$L$,および$P$$Q$の関係 $\Gamma \subset P\times Q$が与えられている.集合の組 $\{P,\ Q,\ \Gamma\}$において, $p\in P,\ l\in Q$ $(p,\ l)\in \Gamma$となるとき,$p$$l$上にあるといい,$l$$p$通るという.

いかに於いては,関係$\Gamma$を省略し,集合の組を$\{P,\ Q\}$のように書くことが多い.

以上の準備によって次の公理系を述べることができる. 次の公理系がもっとも簡明でしかも論を述べるのに十分なものである, つまり,完全であり,独立であり,さらに,無矛盾であることも,体論などより基本的な体系の無矛盾性に還元して示されることが知られている. これらについては例えば『射影幾何学』[35]などを参照のこと.

公理 1 (射影幾何)        定義5における集合の組$\{P,\ L\}$に対して, 次の三公理を射影幾何の公理という.
I)
相異なる2点を通る直線がただ一つ存在する.
II)
$p_0,\ p_1,\ p_2$を共線でない3点, $q_1,\ q_2$を相異なる2点とし, $p_0,\ p_1,\ q_1$ $p_0,\ p_2,\ q_2$がそれぞれ共線であるとする. このとき,$p_1,\ p_2$を通る直線と$q_1,\ q_2$を通る直線は交わる.
III)
直線上には少なくとも3点が存在する.

定義 6        射影幾何の公理をみたす集合$P$$L$の組$\{P,\ L\}$射影幾何$P$射影空間という. ■

 

射影空間の点と直線を,ユークリッド平面の点や直線で考えるが,これはあくまで象徴的な記号として用いるのであって,ユークリッド平面におかれた図形の点や直線ではない.だから,いわゆる無限遠点もこの平面のなかに書いて考えることができる.そのことをふまえたうえでは,公理II)を図示することができる.

部分空間の定義

部分空間を定義しよう.そのために記号を一つ定める.公理I)によって,射影空間の2点$p,\ q$に対し,$p$$q$を通る直線はつねに存在し,一意に確定する.これを$p\vee q$と表す.一意性から $p\vee q=q\vee p$である.

定義 7 (部分空間)        射影空間$P$の部分集合$S$の任意の2点$p,\ q$に対して,$p\vee q$がすべて$S$に含まれるとする.$P$の直線で集合$S$に含まれるものの集合を$L'$とするとき,明らかに$\{S,\ L'\}$もまた公理系1をみたし射影幾何である.$S$$P$部分空間という. ■

例 3.1.1        射影空間$P$の1点$p$からなる集合$\{p\}$は, $\{\{p\},\ \emptyset \}$の組で射影幾何である. $P$の2点$p,\ q$に対し,$l=p\vee q$とする.$S=l$$L'=\{l\}$として$\{S,\ L'\}$の組は射影幾何である. さらにまた $\{\emptyset,\ \emptyset \}$も射影幾何である. これらはすべて$P$の部分空間である.

定義 8 (交わりと結び)        射影空間$P$の部分空間$S,\ T$に対して集合$S\vee T$

\begin{displaymath}
S\vee T=\{p\vee q\ \vert\ p \in S,\ q\in T\}
\end{displaymath}

で定める.ただし,空集合に対しては $S\vee\emptyset =\emptyset\vee S=S$とする. $S\vee T$$S,\ T$結びという. $p\vee q=q\vee p$から $S\vee T=T\vee S$である.

これに対して集合としての共通部分$S\cap T$$S,\ T$交わりという. ■

命題 16        三つの部分空間$R,\ S,\ T$の結びに関して結合律

\begin{displaymath}
R\vee (S\vee T)=(R\vee S)\vee T
\end{displaymath}

が成り立つ. ■

証明     

\begin{displaymath}
R\vee S=\bigcup_{p\in R}(p\vee S)
\end{displaymath}

であるから,$R,\ S,\ T$が3点$p,\ q,\ r$の場合に示せばよい.

3点が共線で$l$上にあれば

\begin{displaymath}
p\vee(q\vee r)=l=
(p\vee q)\vee r
\end{displaymath}
より成立.

次に3点が共線でないとする. 任意の $x\in p\vee(q\vee r)$をとる.点$s\in q\vee r$が存在して$x\in p\vee s$. もし$s=q$または$x=r$なら $x\in (p \vee q)\vee r$$s\ne q$かつ$x\ne r$とする. 公理II)を

\begin{displaymath}
p_0=s,\ \ p_1=p,\ q_1=x,\ p_2=q,\ q_2=r
\end{displaymath}

で用いる.2直線$r\vee x$$q\vee p$は交わる.交点を$y$とする. $y\in p \vee q$$x\in y \vee r$より $x\in (p \vee q)\vee r$.つまり

\begin{displaymath}
p\vee(q\vee r)\subset(p\vee q)\vee r
\end{displaymath}

     逆の包含関係も同様に成り立ち等号が成立する. □

命題 17        $S$$T$が射影空間$P$の部分空間であるとき, 結び$S\vee T$$S$$T$を含む最小の部分空間である. ■

証明      2点 $p,\ q\in S\vee T$をとる.$p\in s\vee t$ $q\in s'\vee t'$ となる点$s,\ s'\in S$$t,\ t'\in T$が存在する. 任意の点$x\in p \vee q$に対してそれを含む直線$s''\vee t''$ ($s''\in S$$t'' \in T$)が存在すればよい. ところが$\vee$の対称性と結合律から

\begin{displaymath}
x\in (s\vee t)\vee(s'\vee t')
=(s\vee s')\vee(t\vee t')
\end{displaymath}

である.よって部分空間 $(s\vee s')\vee(t\vee t')$$x$を含む直線があり, $s\vee s'\subset S$ $t\vee t'\subset T$なので, その直線を定める2点$s''\in S$$t'' \in T$が存在する.

$S$$T$を含む部分空間は$S\vee T$の直線をすべて含み,その結果$S\vee T$を含む. つまり,$S\vee T$$S$$T$を含む最小の部分空間である.  □

このことから$S\vee T$$S,\ T$の張る空間ともいう. $r$個の点 $p_i\ (i=1,\ 2,\ \cdots,\ r)$があれば,$\vee$ の交換律と結合律によって, 部分空間

\begin{displaymath}
(\cdots((p_1\vee p_2)\vee p_3)\vee \cdots)\vee p_r
\end{displaymath}

が,その順序に関係なく定まる.これを

\begin{displaymath}
p_1 \vee p_2 \vee p_3 \vee \cdots \vee p_r
\end{displaymath}

と書き,点 $p_i\ (i=1,\ 2,\ \cdots,\ r)$で張られる部分空間という.

命題 18        射影空間$P$の点$p$と直線$l$で張られる部分空間を$p\vee l$と記す. このとき,$p\vee l$の2直線は交わる. ■
証明      $p\vee l$の直線 $l_1=q_1\vee q_2$をとる.$q_1,\ q_2$を含む直線を$p\vee p_1$$p\vee p_2$とする.公理II)によって$l$$l_1$は交わる.交点を$q$とする. 直線 $l_2=r_1\vee r_2$をとる.$r_1,\ r_2$を含む直線を$p\vee s_1$$p\vee s_2$とする. $p_1,\ q_1,\ p,\ s_1,\ q$に公理II)を適用すると,$q_1\vee q$$s_1\vee p$は交わる.交点を$t_1$とする.同様に$q_2\vee q$$s_2\vee p$は交わる.交点を$t_2$とする. $p,\ r_1,\ t_1,\ r_2,\ t_2$に公理II)を適用することで, $l_1,\ l_2$が交わることが示された.□

後に用語を定義するが,$p\vee l$は射影平面といわれる.この命題によって射影平面上の2直線は交わることが示された.これは,公理系からの結論なのである.

命題 19        $P$の2つの部分空間$S$$T$に対し,集合としての $S\cap T$$S,\ T$に含まれる最大の部分空間である. ■

証明      $p,\ q\in S\cap T$なら$p\vee q\in S$かつ$p\vee q\in T$なので $p\vee q\in S\cap T$となり$S\cap T$は部分空間である. $S,\ T$に含まれる部分空間は$S\cap T$に含まれる. つまり,$S\cap T$$S,\ T$に含まれる最大の部分空間である.  □

命題 20        三つの部分空間$R,\ S,\ T$があり,$R\subset T$とする. このときこれらの結びと交わりに関して

\begin{displaymath}
(R\vee S)\cap T=R\vee(S \cap T)
\end{displaymath}

が成り立つ. ■

証明      $R\subset R\vee S,\ R\subset T$より $R\subset (R\vee S)\cap T$ $S\subset R\vee S$より $S \cap T\subset (R\vee S)\cap T$.よって

\begin{displaymath}
R\vee(S \cap T)\subset (R\vee S)\cap T
\end{displaymath}

である.これはつねに成立する.

逆に射影空間では $R\vee(S \cap T)\supset (R\vee S)\cap T$ が成立することを示す. $(R\vee S)\cap T$の直線$l$をとる. $l$$R\vee S$の直線なので, $l=r\vee s,\ (r\in R,\ s\in S)$となる$r,\ s$が存在する. $R\subset T$$l$$T$の直線でもあるので,$l$上の点は$T$に含まれる. つまり$s\in T$でもある. よって$l$ $R\vee(S \cap T)$の直線である.

よって命題が示された. □

命題20の結論部分に関して次のことが成り立つ.

命題 21       二つの条件

P:
 $R\subset T$ならば $R\vee(S \cap T)=(R\vee S)\cap T$
Q:
  $S_1\subsetneqq S_2$ $S_1\vee T=S_2\vee T$かつ $S_1\cap T=S_2\cap T$をみたす部分空間$S_1,\ S_2,\ T$は存在しない.
は同値である.■

証明      それぞれ対偶を示す.

条件Qが成り立たないとする.つまりQの条件を満たす$S_1,\ S_2,\ T$が存在するとする.このとき

\begin{displaymath}
S_1\vee (T\cap S_2)=S_1\vee (T\cap S_1)
=S_1\subsetneqq
S_2=(S_2\vee T)\cap S_2=
(S_1\vee T)\cap S_2
\end{displaymath}

となり, $S_1\subset S_2$であって $S_1\vee (T\cap S_2)\ne (S_1\vee T)\cap S_2$ となるものが存在した.つまり条件Pが不成立.

条件Pが成り立たないとする. $R\subset T$であるから, $R\vee(S \cap T)\subset(R\vee S)\cap T$は成立している, よって $R\vee(S \cap T)\subsetneqq (R\vee S)\cap T$である. $S_1=R\vee(S \cap T)$ $S_2=(R\vee S)\cap T$とおく.

\begin{eqnarray*}
S_1\vee S&\subset& S_2\vee S=((R\vee S)\cap T)\vee S\\
&\subset& (R\vee S)\vee S=R\vee S
=R\vee(S\cap T)\vee S=S_1\vee S
\end{eqnarray*}

となり,すべて等号成立して $S_1\vee S=S_2\vee S$. 同様に $S_1\cap S=S_2\cap S$も成立し, 条件Q$T$$S$と読みかえれば 条件Qが成立しない部分空間の組が存在した.  □


射影幾何の公理という極めて単純な公理から, 部分空間の列に関するこのような命題が示された.

「束論」という分野がある. 命題21は束論の命題であり, 束論の表現を用いると「射影空間とその部分空間はモジュラー束をなす」ということになる. これについては『束論』[35],および『射影幾何学』[35]を参照されたい.


定義 9        射影空間の二つの部分空間$S$$T$について, $S \subsetneqq U\subsetneqq T$ となる部分空間$U$が存在しないことを,$T$$S$上に素であるといい, $S$$T$下に素であるという. ■

命題 22        射影空間の二つの部分空間$S$$T$がある.部分空間の二つの集合

\begin{eqnarray*}
&&A=\{X\ \vert\ S \subsetneqq X \subsetneqq S\vee T \}\\
&&B=\{Y\ \vert\ S\cap T \subsetneqq Y \subsetneqq T \}
\end{eqnarray*}

をとる.$A$$B$の要素は

\begin{displaymath}
f:X\to X\cap T,\ \ g:Y \to S \vee Y
\end{displaymath}

で一対一に対応する. ■

証明      $f(X)\in B$$g(Y)\in A$は明らかである. $\vee$$\cap$の可換性と命題20より,

\begin{eqnarray*}
&& g(f(X))=S\vee(X\cap T)=(S\vee T)\cap X=X\\
&& f(g(Y))=(S\vee Y)\cap T=Y\vee(S\cap T)=Y
\end{eqnarray*}

よって$f$$g$は互いに逆写像であり,逆写像が存在したので一対一対応である.  □

この対応は単に一対一対応であるばかりではなく,包含関係を保持する. つまり, $S \subsetneqq X_1 \subset X_2 \subsetneqq S\vee T$なら $f(X_1)\subset f(X_2)$$g$も同様.したがって部分空間の集合を包含関係の構造をもつものと考えれば,この構造に関する同型写像になっている.

またこれによって,$S\vee T$$S$の上に素なら,$T$$S\cap T$の上に素であり,その逆も成り立つ.

例 3.1.2        次小節で射影空間の次元などを定義する. それを前提にする.$l_1$$l_2$を直線とし, $l_1\cap l_2=\emptyset $とする.このとき$l_1\vee l_2$は3次元射影空間である. $l_1\subsetneqq X\subsetneqq (l_1\vee l_2)$となる$X$とは$l_1$を含む平面(2次元射影空間)である. この$X$に対する$f(X)$$X$$l_2$の交点である. $(l_1\cap l_2)\subsetneqq Y\subsetneqq l_2$となる$Y$とは$l_2$上の点である. $g(Y)$$Y$$l_1$を含む平面である.これが一対一対応の意味である.

有限性公理

射影幾何の骨格となる公理系とそこから導かれる基本性質を導いた. しかしこれだけでは,$n$次元射影幾何というときの次元が定義されない. 座標で考えるときは当然のように有限個の数の組からはじめるのだが, この有限性が上記の射影幾何の公理系にはない. 有限性を何らかの形で公理としなければならない. そして有限性が射影幾何の公理と結びついて得られる基本的な結果まで, ここで考えよう.

公理 2 (有限次元射影幾何)  
    IV) 射影空間$P$に有限個の点が存在し, それらを含む任意の部分空間は$P$に一致する.

定義 10        射影幾何$\{P,\ L\}$が公理IV)もみたすとき有限次元射影幾何という.また$P$$n$有限次元射影空間という. ■

命題 23        有限次元射影幾何の射影空間$P$とその部分空間の列 $P_i\ (i=0,\ 1,\ \cdots)$で, $P_0\ne \emptyset$であり, $i=0,\ 1,\ \cdots$に対して

\begin{displaymath}
P_{i} \subsetneqq P_{i+1},\ \quad P=\bigcup_{i=0}^{\infty}P_i
\end{displaymath}

となるとする.このときある$m$が存在して $\displaystyle \bigcup_{i=0}^mP_i=P$となる. ■

証明     $P$は有限次元射影幾何の射影空間なので, 有限個の点 $q_1,\ q_2,\ \cdots,\ q_N$で, それらを含む任意の部分空間は$P$に一致するものがある.

\begin{displaymath}
P_i \subsetneqq P_{i+1}\ かつ\
\{q_1,\ q_2,\ \cdots,\ q_N\}\subset \bigcup_{i=0}^{\infty}P_i
\end{displaymath}

なので,ある$m$が存在して

\begin{displaymath}
\{q_1,\ q_2,\ \cdots,\ q_N\}\subset \bigcup_{i=0}^mP_i
\end{displaymath}

となる.このとき $\displaystyle \bigcup_{i=0}^mP_i=P$となる.  □

このように有限次元射影空間では, $P_0(\ne \emptyset)$からはじまり$P$に至る部分空間の列は有限列になる.部分空間の列が有限であっても,その長さに最大値が存在するとはかぎらない.しかし射影幾何の公理のもとでは,公理IV)からこのような列の長さに最大値が存在することが帰結する.それを見てゆこう.

命題 24        ある射影空間の部分空間$T$$T$の部分空間$S$がある. 部分空間の列 $\{P_i\}\ (i=0,\ 1,\ \cdots,\ r)$で, $P_0=S$かつ$P_r=T$であり$P_{i+1}$$P_i$の上に素となるものと, 部分空間の列 $\{Q_i\}\ (i=0,\ 1,\ \cdots,\ s)$で, $Q_0=S$かつ$Q_s=T$であり, $Q_{i+1}$$Q_i$の上に素となるものがある. このとき$r=s$である. ■

証明     $r\le s$とし,$r$に関する数学的帰納法で示す. $r=1$なら,$T$$S$の上に素となり,$s$も1でなければならない. $r$より小さいときに成立とする.

$P_1=Q_1$ならこれを$S$と見ることで,帰納法の仮定から成立. $P_1\ne Q_1$とする.部分空間の列$P_i\vee Q_i$を考える. $P_{r-1}\subset P_{r-1}\vee Q_{r-1}\subset T$なので $P_{r-1}\vee Q_{r-1}$$P_{r-1}$$T$に一致.部分空間の列$P_i\vee Q_i$は順次上に素とはかぎらないが,さらに細分することを考えれば,$P_1$にはじまり$T$に終わる$r-1$の列が$P_i$の系列と $P_i\vee Q_i$の系列を必要ならさらに細分したものと二つできる.$r-1$は二つの長さのうち大きくない方であるので帰納法の仮定から,この二列の長さは等しい. 一方,これはまた$Q_1$にはじまり$T$に終わる二つの列でもあり, $P_i\vee Q_i$からなる列の長さは$r-1$なのでやはり帰納法の仮定から$r-1=s-1$である. よって$r=s$が成立し,この結果,命題が証明された.  □

定義 11 (次元)        有限次元射影空間$P$がある. $P$の部分空間の列 $\{P_i\}\ (i=0,\ 1,\ \cdots,\ n)$で, $P_n=P$かつ $P_0\ne \emptyset$であり, $P_{i}\subsetneqq P_{i+1}$となる部分空間列を考える. そのなかで$n$が最大となるものがある. $n$の値を射影空間$P$次元といい,$\dim (P)$と記す. ■

最大となるのは,$P_0$が1点からなる部分空間で,$P_{i+1}$$P_i$の上に素なときである.このとき,命題24よりその長さは部分空間列のとり方によらず一定である.

$\dim (P)=n$のときこれを明記して$P^n$とも記す. 明らかに各部分空間も有限次元である.$s$次部分空間を$P^s$のように記す. 1点よりなる部分空間の次元は0,つまり$P^0$である. 直線の集合$L$の要素はこれを部分射影空間とみると1次元であり,つまり$P^1$である. これを射影直線という.また$P^2$射影平面という. さらに,射影空間としての空集合は $\dim (\emptyset )=-1$とする. その理由は次の次元定理が例外なく成立するようにするためであるが,$P^0$の一つ前という点からいっても自然である.また$n$次元射影空間において$P^{n-1}$超平面という.

同じ$m$次元射影空間で別のものを区別するときは, $S^m$$T^m$のように文字をかえることにする. 次元が関わらない命題では部分空間を$S$$T$のように表す.

定理 2 (次元定理)        部分空間$S$$T$に関して

\begin{displaymath}
\dim(S \vee T)+\dim(S \cap T)=\dim(S)+\dim(T)
\end{displaymath}

が成り立つ. ■

証明      それぞれの部分の順次上に素な部分空間の列を繋ぐことで, $\emptyset $から$S\vee T$にいたる二つの順次上に素な部分空間の列を作ることができる.

\begin{eqnarray*}
&&\emptyset \subset \cdots \subset S\cap T \subset \cdots \su...
... S\cap T \subset \cdots \subset T\subset \cdots \subset S\vee T
\end{eqnarray*}

命題24によってこれらの長さは等しい. 一方,命題22によれば,$S$$S\vee T$の間の順次上に素な部分空間$X$の列を $f:X\to X\cap T$でうつすと$S\cap T$$T$を結んだ部分列が得られ,逆も成り立ち,順次上に素な部分列に移ることがわかる. よってこの間を順次上に素な部分列で結んだ長さは等しい.

この結果 $S\cap T \ne \emptyset $なら

\begin{displaymath}
\dim(S\vee T)-\dim(S)=\dim(T)-\dim(S\cap T)
\end{displaymath}

となり,定理の等式が得られる.

また $S\cap T=\emptyset $なら,

\begin{displaymath}
\dim(S\vee T)-\dim(S)=\dim(T)+1
\end{displaymath}

となり, $\dim (\emptyset )=-1$と定めたので,この場合も定理の等式が得られる. □


次の命題は命題17,命題19より明らかである.

命題 25        部分空間$S$$T$に対し,$S\vee T$$S$$T$を含む次元が最低の部分空間であり, $S\cap T$$S$$T$にふくまれる次元が最高の部分空間である. ■

定義 12 (点の独立)        射影空間$P$$r+1$個の点で張られる部分空間の次元が$r$であるとき, これらの点は独立であるといい,そうでないときは従属であるという. ■

命題 26        $r\le n$のとき,$P^r$には$r+1$個の独立な点がある. ■

証明      $P^r$の次元が$r$なので,順次上に素な部分空間の列

\begin{displaymath}
P^0\subsetneqq P^1\subsetneqq \cdots \subsetneqq P^{r-1}\subsetneqq P^r
\end{displaymath}

が存在する. $i=1,\ 2,\ \cdots,\ r$に対して, $P^i$に含まれ$P^{i-1}$に含まれない点が存在する. それを選ぶ. その$r$個の点に$P^0$の点をあわせた$r+1$個の点 $p_i\ (i=0,\ 1,\ 2,\ \cdots,\ r)$をとる. これらで張られる部分空間の列

\begin{displaymath}
P^0\subsetneqq p_0\vee p_1\subsetneqq p_0\vee p_1\vee p_2 \subsetneqq \cdots \subsetneqq p_0\vee \cdots \vee p_r\subset P^r
\end{displaymath}

は順次上に素な部分空間の列である.もし $p_0\vee \cdots \vee p_r\ne P^r$なら$P^r$の次元が$r$より大きくなり矛盾.よって $p_0\vee \cdots \vee p_r= P^r$である.つまりこれら$r+1$個の点は独立である. □

定義 13 (一般の位置)        射影空間$P$の部分集合$M$がある.$M$の任意の$r+1$個の点が$r\le n$であればつねに独立であるとき,$M$の点は一般の位置にあるという. ■

命題 27        $P^n$の異なる超平面$S^{n-1}$と超平面$T^{n-1}$の交わりは次元$n-2$の部分空間である. ■

証明     $\dim(S\vee T)\ge n$なので次元の定義から $\dim(S\vee T)=n$. 次元定理から

\begin{displaymath}
\dim(S\cap T)=\dim(S)+\dim(T)-\dim(S\vee T)=n-2
\end{displaymath}

である. □

射影図形

射影幾何は図形の射影的な性質を研究して見出された.しかし,数学はそのような研究の結果を帰納して,逆に公理にまとめ,そこから演繹的に論を展開しようとする.そうすることで一般性を獲得し,新たな発見と論の展開を得る.

とすれば,射影幾何の公理から逆に図形とは何かを定義し直さなければならない.

定義 14   図形および束を次のように定義する.
i)
射影空間$P$の部分空間からなる集合を,$P$図形, あるいは線形基本図形という.■
ii)
$n-2$次元部分空間$U^{n-2}$を含む超平面の集合$\Sigma_1$ は図形である.この図形を$U$で定まる超平面束という. $n=2$なら直線束$n=3$なら平面束という.■
iii)
$0\le r<n$ に対し, $n-r-1$次元の部分空間$S^{n-r-1}$を含む超平面$P^{n-1}$の集合 $\Sigma_r$$S^{n-r-1}$を中心とするという.■

すでにパスカルの思想にならって, ユークリッド空間の直線束の概念から射影空間を構成した. そして,そこで得られた性質を公理として定式化した. そのうえで,逆にその公理から図形と束を定義し直したのである.

双対原理

定理 3        射影幾何$\{P,\ L\}$がある. 射影空間$P$の超平面$P^{n-1}$の集合を$P^*$とし, $n-2$次元部分空間の集合を$L^*$とする. $P^*$の要素$p^*$$L^*$の要素$l^*$を通るということを, $P$において $p^*\supset l^*$が成り立つこと,と定める. 共線,共点もこの意味で定める. このとき,集合の組$\{P^*,\ L^*\}$は射影幾何の公理I)〜IV)をみたす. ■

証明     $P$の次元を$n$とする.

公理I)について. $p_1^*,\ p_2^*\in P^*$をとる.命題27より $\dim(p_1^*\cap p_2^*)=n-2$なので, $p_1^*\cap p_2^*\in L^*$となり,$p_1^*,\ p_2^*$をとおる$L^*$の要素が存在した.

公理II)について. $P^*$での意味において共線でない $p_0^*,\ p_1^*,\ p_2^*\in P^*$, および異なる $q_1^*,\ q_2^* \in P^*$をとる. $P$において, $p_0^*\cap p_1^* \subset q_1^*$ $p_0^*\cap p_2^* \subset q_2^*$とする. $l^*=q_1^*\cap q_2^*$とする. $q_1^*,\ q_2^* \supset p_0^*\cap p_1^*\cap p_2^*$ なので, $l^*\cap p_1^*\cap p_2^*=p_0^*\cap p_1^*\cap p_2^*$.ゆえに

\begin{eqnarray*}
\dim\{l^*\vee (p_1^*\cap p_2^*)\}&=&\dim(l^*)+\dim(p_1^*\cap ...
...-2-\dim\{p_0^*\cap (p_1^*\cap p_2^*)\}\\
&\le& 2n-4-(n-3)=n-1
\end{eqnarray*}

よって $l^*\vee (p_1^*\cap p_2^*)$を含む$n-2$次元部分空間が存在する.

公理III)について. $l^*\in L^*$をとる.$l^*$$P$においては$\dim(l^*)=n-2$なので, $l^*$に含まれない点$p_1$$l^*\vee p_1$に含まれない点$p_2$をとることができる. 射影幾何の公理1のIII)によって, 直線$p_1\vee p_2$上に第3の点$p_3$が存在する. $P$において $p_i^*=p_i \vee l^*\ (i=1,\ 2,\ 3)$とおくと, $p_i^*$$l^*$を含む超平面である. これは$P^*$において$p_i^*\in P^*$で, $P^*$での点$p_i^*$$P^*$での直線$l^*$上にあることを意味している.

公理IV)について. $P^n$$n+1$個の独立な点 $p_i\ (1\le i \le n+1)$をとる.

\begin{displaymath}
p_j^*=p_jを除く他のp_i (1\le i \le n+1,\ i\ne j)で張られる部分空間
\end{displaymath}

とする.これは$P$の超平面であり,かつ$P$

\begin{displaymath}
\bigcap p_i^*=\emptyset
\end{displaymath}

である. これは$P^*$においては, $p_i^*\ (1\le i \le n+1)$を含む$P^*$の部分空間は$P^*$自身であることを意味する. よって$p_i^*$$P^*$において公理IV)の条件を満たす有限個の点である.

さらにこれから$P^*$$n$次元であることがわかる.  □

命題 28        $P$の次元を$n$とする. 射影空間$P$の図形に関する命題がある.その命題は公理系とそこから定義された概念で述べられている.$0\le r<n$について,その命題のなかの$P^r$をすべて$P^{n-r-1}$に置きかえ,$\subset$$\supset$をすべて入れ替た$P$の命題を作る.このとき一方の命題が真なら他方の命題も真である.特に$P^*$の次元も$n$である. ■

証明     定理3の証明にあるように, $P$の点と直線,超平面と$n-2$次部分空間を, $P^*$の超平面と$n-2$次部分空間,点と直線に対応させることで, $P$$P^*$は同じ公理系を満たす. したがって, $P$の公理系から真偽が演繹される$P$の図形に関する命題と $P^*$の公理系から真偽が演繹される$P^*$の図形に関する命題は, $r$次元部分空間を$n-r-1$次元部分空間におきかえ, $\subset$$\supset$が互いに入えることで互いに対応し, 対応する2つの命題は同値である. よって本命題が成立する. □


定義 15        $\{P^*,\ L^*\}$双対射影幾何,射影空間$P^*$を射影空間$P$双対空間という. ■


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2014-01-03