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最大公約数と最小公倍数

定義 2
     整数$a$$b$倍数であるとは, $a=bq$となる整数$q$が存在することと定める. このとき$b$$a$約数という. 除法の定理によって,$a$$b$の倍数であることは, $a$$b$で割った余りが0であることと同値である.■

さらに,公約数,公倍数が定義される.

定義 3
     二つ以上の整数 $a,\ b,\ c,\ \cdots$ に共通な倍数をそれらの整数の公倍数という. 0は常に公倍数である. それを除けば公倍数の絶対値は $a,\ b,\ c,\ \cdots$ のいずれの絶対値よりも小さくはないので, 公倍数の中に正で最小のものがある. それを最小公倍数(least common multiple 略して L.C.M.)という.

二つ以上の整数 $a,\ b,\ c,\ \cdots$ に共通な約数をそれらの整数の公約数という. 1は常に公約数である. 公約数の絶対値は $a,\ b,\ c,\ \cdots$ のいずれの絶対値よりも大きくはないので, 公約数の中に最大のものがある. それを最大公約数(greatest common measure 略して G.C.M.)という.■

最大公約数が1であるとき,その2数は互いに素であるという. また整数$a$$b$の最大公約数を座標などと混同する恐れのないときは $(a,\ b)$と書く.$(12,\ 32)=4$のように用いる.

定理 2
(1)
二つ以上の整数の公倍数は,最小公倍数の倍数である.
(2)
二つ以上の整数の公約数は,最大公約数の約数である.
(3)
$a,\ b$ の最小公倍数を $l$ ,最大公約数を $d$ とすれば $ab=dl$
(4)
$a,\ b$ が互いに素で,他の整数 $c$$b$ との積 $bc$$a$ で 割りきれるなら,実は $c$$a$ で割りきれる.■

証明
(1)     $a,\ b,\ c,\ \cdots$ の最小公倍数を $l$ とし, $m$ を任意の公倍数とする. $m$$l$ で割った商を $q$ ,余りを $r$ とすると

\begin{displaymath}
m=ql+r,\ \quad 0 \le r<l
\end{displaymath}

となる. $l$$m$$a$ の倍数であるから $l=al',\ m=am'$ とおくと

\begin{displaymath}
r=m-ql=a(m'-ql')
\end{displaymath}

より, $r$$a$ の倍数である.同様に $b,\ c,\ \cdots$の倍数でもあり, $r$ $a,\ b,\ c,\ \cdots$ の公倍数となる.ところが $l$ は正で最小の公倍数 であったから,もし $r$ が0でないとすると, $l$ より小さい正の公倍数がある ことになり, $l$ の最小性に反する.

\begin{displaymath}
∴\quad r=0
\end{displaymath}

つまり $m$$l$ の倍数である.
(2)     $a,\ b,\ c,\ \cdots$ の最大公約数を $d$ とし, $m$ を任意の公約数とする. $l$$d$$m$ の最小公倍数とする. $a$$m$ の倍数であり, $d$ の倍数である.つまり $m$$d$ の公倍数であるから(1)より $a$$l$ の 倍数である.同様に $b,\ c,\ \cdots$$l$ の倍数である. つまり $l$ $a,\ b,\ c,\ \cdots$ の公約数である. $d$ が最大の公約数なので,

\begin{displaymath}
l\le d
\end{displaymath}

一方, $l$$d$$m$ の最小公倍数なので $d\le l$

\begin{displaymath}
∴\quad l=d
\end{displaymath}

$d$$m$ の最小公倍数 $l$$d$ に一致した.$d$$m$ の倍数, つまり任意の公約数 $m$ は最大公約数 $d$ の約数である.
(3)    $l$$a,\ b$ の最小公倍数であるから適当な整数$a'$$b'$を用いて,

\begin{displaymath}
l=ab'=ba'
\end{displaymath}

とおける. $ab$$a,\ b$ の公倍数だから(1)から $ab$$l$ の倍数である.

\begin{displaymath}
ab=ml
\end{displaymath}

とする.よって

\begin{displaymath}
ab=ml=ma'b,\ \quad ab=ml=mab'
\end{displaymath}


\begin{displaymath}
∴\quad a=ma',\ b=mb'
\end{displaymath}

つまり $m$$a,\ b$ の公約数である.(2)より最大公約数$d$の約数なので, $d=me$とおける.

一方 $d$$a,\ b$ の最大公約数なので $a=da'',\ b=db''$ とおける.よって

\begin{displaymath}
a=da''=mea'',\ b=db''=meb''
\end{displaymath}

一方,$a=ma',\ b=mb'$であるから$ma'=mea''$$mb'=meb''$が成り立つ.

\begin{displaymath}
∴\quad a'=ea'',\ b'=eb''
\end{displaymath}

その結果,

\begin{displaymath}
l=ab'=aeb'',\ l=a'b=ea''b
\end{displaymath}


\begin{displaymath}
∴\quad \dfrac{l}{e}=ab''=a''b
\end{displaymath}

ところがこれは $\dfrac{l}{e}$$a,\ b$ の公倍数であることを示している. $l$ が最小の公倍数なのでその最小性により $e=1$

\begin{displaymath}
∴\quad m=d\quad つまり\quad ab=dl
\end{displaymath}

(4)    $a,\ b$ の最大公約数が 1 なので $a,\ b$ の最小公倍数は $ab$ である. 仮定から $bc$$a$ の倍数であり,したがって $a$$b$ の公倍数である. よって $bc$$ab$ の倍数であり,

\begin{displaymath}
\dfrac{bc}{ab}=\dfrac{c}{a}\quad が整数
\end{displaymath}

つまり$c$$a$ の倍数である.□


この定理の証明において,前節の「除法の定理」が基本定理として用いられてることが わかる.日頃当然のように論証で使っていることが,「除法の定理」を基礎に厳密に示される.

整数 $a,\ b,\ c,\ \cdots$ の最大公約数を,座標と混同する恐れのないときは $(a,\ b,\ c,\ \cdots)$ と書く.

整数 $a,\ b,\ c,\ \cdots$ の最大公約数が1であることを簡単に「公約数をもたない」という. この場合, $(a,\ b,\ c,\ \cdots)=1$ . 特に二つの整数 $a,\ b$ が公約数をもたないとき,つまり $(a,\ b)=1$のとき, $a,\ b$互いに素であるという.


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