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ユークリッド整域

整数環$\mathbb{Z}$は次のような性質がある.

(1)    $\mathbb{Z}$の二つの要素$a,\ b$について$ab=0$ならば $a=0$または$b=0$が成り立つ. いずれもが 0 ではない二つの要素$a,\ b$ で,$ab=0$となるものがあれば,$a$を左零因子,$b$を右零因子という.左零因子,右零因子をまとめて零因子という.

これは行列からなる環では成り立たない.二次行列の集合$A$は行列の和と積で環である. 行列環$A$では

\begin{displaymath}
\matrix{0}{1}{0}{1}\matrix{1}{0}{0}{0}=\matrix{0}{0}{0}{0}
\end{displaymath}

のように零因子がある.

零因子が存在しないような環を整域という.整数環$\mathbb{Z}$は整域である.

(2)    $\mathbb{Z}$には元$a$について大きさ$\vert a\vert$ が定義されていて,任意の$a(\not=0),\ b$について

\begin{displaymath}
b=qa+r\quad 0\le r<\vert a\vert
\end{displaymath}

となる元$q,\ r$が一意に存在する.

$R$には,その要素$a$に対して大きさといわれる0以上の実数が定まり, (1)と(2)の両方が成り立つなら, その環$R$ユークリッド整域,あるいはユークリッド環という. 大きさを絶対値とすることで,整数環はユークリッド整域である. 整数環は除法のできる整域である.

本節では,整数環以外に除法のできる整域を二つ考えよう.

一つは多項式からなる環である.ここで多項式は$3x$のような単項式も含め整式と同じ意味に用いる.多項式の集合では、整数と同じく因数分解ができ,かつ素因数分解の(定数倍を除く)一意性が成り立つ. なぜ多項式でも素因数分解の一意性がなり立つのか.それは多項式では除法の定理が成り立つからである.結局は整数の場合と同じく,除法の定理が成立することが根拠なのである.

もう一つは、実部、虚部がそれぞれ整数であるような複素数からなる集合

\begin{displaymath}
\{a+bi\ \vert\ a,\ b \in \mathbb{Z}\}
\end{displaymath}

である.これをガウス整数環という. 『数論初歩』では略してガウス環ともいうこともある. 代数学の一分野の環論では,素数(厳密には素元という)への分解が(単数を除いて)一意である整域のことをガウス環という.



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