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整式の除法

以上の議論は整式の場合にもそのままあてはまる. 実数係数の整式の集合を変数を明示して$\mathbb{R}[x]$と表そう. また係数を有理数にかぎるときは$\mathbb{Q}[x]$と表す. 以下のことは $\mathbb{R}[x]$で考えても,$\mathbb{Q}[x]$で考えても, また複素数で考え$\mathbb{C}[x]$としても同じことである. そこで$K$を有理数の集合$\mathbb{Q}$, 実数の集合$\mathbb{R}$,複素数の集合$\mathbb{C}$のいずれかを表すものとし, これからは$K$に係数をもつ整式の集合$K[x]$を考えることにしよう.

$x$ の整式は,つぎの除法の基本性質をもつ. ここで$\deg f(x)$は整式 $f(x)$ の次数を表す.

定理 15        整式 $f(x),\ g(x) \ \ (\deg g(x) \ge 1)$がある.
\begin{displaymath}
f(x)=g(x) \cdot q(x)+r(x)\ , \ 0\le \deg r(x) < \deg g(x)
\end{displaymath}

となる整式 $q(x),\ r(x)$ がただ1組存在する.
証明      $\deg f(x)=n,\,\, \deg g(x)=m$ とする. 条件を満たす$q(x)$$r(x)$の存在を$n$についての数学的帰納法で示す.

$n<m$なら $q(x)=0,\ r(x)=f(x)$で成立.$0$から$n-1$で成立とする.

$f(x)$$g(x)$$n,\,m$ 次の項をそれぞれ $ax^n,\, bx^m$ とする.

\begin{displaymath}
f_1(x)=f(x)-\dfrac{a}{b}x^{n-m}g(x)
\end{displaymath}

と定めれば, $\deg f_1(x)<\deg f(x)$ である. 帰納法の仮定から,
\begin{displaymath}
f_1(x)=g(x)\cdot q_1(x)+r_1(x),\ 0\le \deg r_1(x)<\deg g(x)
\end{displaymath}

となる $q_1(x),\ r_1(x)$が存在する.
\begin{eqnarray*}
f(x)&=&g(x)\dfrac{a}{b}x^{n-m} +f_1(x)\\
&=&g(x)\dfrac{a}{b...
...x)\\
&=&g(x)\left\{\dfrac{a}{b}x^{n-m}+q_1(x) \right\}+r_1(x)
\end{eqnarray*}

となるので, $q(x)=\dfrac{a}{b}x^{n-m}+q_1(x)$$r(x)=r_1(x)$とおけば定理の等式を満たす.

これが1組しかないことを示す.2組あったとする.

\begin{eqnarray*}
f(x) &=& g(x) \cdot q_1(x)+r_1(x) \\
&=& g(x) \cdot q_2(x)+r_2(x)
\end{eqnarray*}

すると,
\begin{displaymath}
g(x)\cdot \{q_1(x)-q_2(x)\}=r_2(x)-r_1(x)
\end{displaymath}

となる. もし $q_1(x)-q_2(x)\ne 0$なら $\deg(r_2(x)-r_1(x)) \ge \deg g(x)$ である.

ところが一方, $\deg r_1(x)<\deg g(x),\ \deg r_2(x)<\deg g(x)$ だから, $\deg(r_2(x)-r_1(x))<\deg g(x)$.これは矛盾.

ゆえに$q_1(x)=q_2(x)$.この結果 $r_1(x)\ =\ r_2(x)$ となる. (証明終わり)


Aozora
2015-03-02