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曲線の計量

美樹  2点間の距離,つまり直線の長さについてはわかってきました.

でも曲線の長さはどのように決めるのですか.

南海  一気に難しいところだ.

$\mathrm{A}$から点$\mathrm{B}$までの連続でなめらかな曲線$C$ の長さ$L$は,次のように考える.

曲線$C$上に点列

\begin{displaymath}
\mathrm{A}_0=\mathrm{A},\ \mathrm{A}_1,\ \cdots,\ \mathrm{A}_n=\mathrm{B}
\end{displaymath}

をとる.この点列を$P$としよう.

美樹  いろんな点列を考えるのですか.

南海  そう. 一つの点列$P$に対して 折れ線 $\mathrm{A}_0\mathrm{A}_1\cdots\mathrm{A}_n$の長さを

\begin{displaymath}
L_P=\sum_{k=0}^{n-1}\mathrm{A}_k\mathrm{A}_{k+1}
\end{displaymath}

とおく.

美樹  $n$も増やし$P$をどんどん細かくしていった極限が曲線の長さなのですね.

南海  連続曲線に関していえばそのように考えてよい. あらゆる折れ線$P$を考え,すべての$P$に関して

\begin{displaymath}
L_P\le l
\end{displaymath}

となるような$l$の最小値が存在するとき, その最小値を曲線の長さ$L$と定める.

美樹  2点を結ぶ最小値が直線の長さなのだから, 分割を細かくすれば,和$L_P$は増大していく.

曲線がはじめから折れ線でないかぎり, 折れ線での近似は近似であって$L$とは一致しない.

つねに$L$よりは小さい. だからこんな言い方をするのですか.

南海  そういうことだ. 詳しくは大学の解析で習ってもらいたい.

微分可能曲線の長さ

南海  そこで,$t$を媒介変数とし, 微分可能な関数$f(t),\ g(t)$を用いて$x=f(t)$$y=g(t)$ と表される曲線の長さを考えておこう.

最近,これが数学IIIで必修でなくなったそうだ. 「計量」ということを高校数学に取り入れながら, 曲線の長さを外すというのは困ったことだ.

$xy$平面上の曲線$C$が, $x=f(t),\ y=g(t)$ と媒介変数$t$によって表されているとする. $f(t),\ g(t)$はそれぞれ$t$で微分可能とする.

このとき,曲線$C$$t=a$に対応する$C$上の点$(f(a),\ g(b))$から $t=b$に対応する$C$上の点$(f(b),\ g(b))$までの 長さ$L$

\begin{displaymath}
L=\int_a^b\sqrt{\{f'(t)\}^2+\{g'(t)\}^2}\,dt
\end{displaymath}

で求まる.

証明の概略を示そう.

$t$の区間$[a,\ b]$$n$等分し

\begin{displaymath}
a=t_0<t_1<\cdots<t_n=b
\end{displaymath}

とする.また $\Delta t=\dfrac{b-a}{n}$とおく.


\begin{displaymath}
L_n=\sum_{k=0}^{n-1}\sqrt{\{f(t_{k+1})-f(t_k)\}^2+\{g(t_{k+1})-g(t_k)\}^2}
\end{displaymath}

平均値の定理によって

\begin{eqnarray*}
f'(c_k)&=&\dfrac{f(t_{k+1})-f(t_k)}{t_{k+1}-t_k}=\dfrac{f(t_{k...
..._{k+1})-g(t_k)}{t_{k+1}-t_k}=\dfrac{g(t_{k+1})-g(t_k)}{\Delta t}
\end{eqnarray*}

となる$c_k,\ d_k$が区間 $[t_k,\ t_{k+1}]$にとれる.

これから

\begin{eqnarray*}
L_n&=&\sum_{k=0}^{n-1}\sqrt{\{f'(c_k)\Delta t\}^2+\{g'(d_k)\De...
...^2}\\
&=&\sum_{k=0}^{n-1}\sqrt{{f'(c_k)}^2+{g'(d_k)}^2}\Delta t
\end{eqnarray*}

美樹  区分求積の形です.

南海  詳しくは『数学対話』−『定積分の定義』を見てほしい.

$c_k$$d_k$と出てくるのでもう少し詳しく考えなければならないのだが, $n\to\infty$の極限が存在し,

\begin{displaymath}
\lim_{n \to \infty}L_n=\int_a^b\sqrt{{f'(t)}^2+{g'(t)}^2}\,dt
\end{displaymath}

となることが示される.

美樹  この値を$L$とするのですね.

南海  高校の教科書では, 曲線の長さをすでに知っているものとして,次のように示す.

$t=a$に対応する$C$上の点$(f(a),\ g(b))$から $t$に対応する$C$上の点$(f(t),\ g(t))$までの 長さを$L(t)$とおく.

図のように$t$$t+\Delta t$まで変化させる.$\Delta t$が小さいときは 曲線の長さの増加分 $L(t+\Delta t)-L(t)$は,

\begin{displaymath}
\sqrt{(\Delta x)^2+(\Delta y)^2}
\end{displaymath}

にほぼ等しい. 「ほぼ等しい」というのは, 誤差が$\Delta x$$\Delta y$よりさらに一段小さく, 割って極限をとるときには無視できる,ということなのだ.

証明を厳格にする方法はもちろんあるが,「ほぼ等しい」というつかみ方も大切だ.

よって

\begin{displaymath}
\dfrac{L(t+\Delta t)-L(t)}{\Delta t}\neaeq
\dfrac{\sqrt{(\De...
...\Delta t}\right)^2+
\left(\dfrac{\Delta y}{\Delta t}\right)^2}
\end{displaymath}

$\Delta t\to 0$の極限でこれは一致する.

\begin{displaymath}
\dfrac{dL(t)}{dt}=
\sqrt{
\left(\dfrac{dx}{dt}\right)^2+
\left(\dfrac{dy}{dt}\right)^2}
\end{displaymath}

これから原始関数を求める計算をし,$L(a)=0$を用いれば

\begin{displaymath}
L(t)=\int_a^t\sqrt{
\left(\dfrac{dx}{dt}\right)^2+
\left(\dfrac{dy}{dt}\right)^2}
\,dt
\end{displaymath}

となる.$t=b$を代入すればよい.

また曲線が$y=f(x)$で表されるときは,$x=t,\ y=f(t)$となるので, $t$$x$に置きかえることで,$x=a$の点から$x=b$の点までの長さ$L$

\begin{displaymath}
L=\int_a^b\sqrt{1+\{f'(x)\}^2}\,dx
\end{displaymath}

となる.
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