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六球連鎖

南海  以上の準備のもと,いわゆる六球連鎖の定理を反転を用いて示そう.

 イギリスのノーベル化学賞受賞者Sir Frederik Soddy(1877-1956)は雑誌 Nature(1936)において球の接触問題に関してThe Hexlet(6球連鎖)なる次の定理を発表した.

 これには4個の互いに接する球に関する定理が使われている. 発表当時は見事な定理として世界的に話題になった. ところが,この定理は,百年以上前の1822年, 相州(現在の神奈川県)の寒川神社に掲げられた算額にすでに記されていた. これは『日本の幾何』に詳しい. またウエブサイト Japanese Temple Geometry にも英文で紹介されている.

定理 9
互いに接する3個の球 $O_0,\ O_1,\ O_2$のどれにも接する球の連鎖 $C_i$の個数は,常に6個となり,さらに次々の球の半径を $r_i\ (i=1,\ 2,\ 3,\ 4,\ 5,\ 6)$と すれば $\dfrac{1}{r_1}+\dfrac{1}{r_4}=\dfrac{1}{r_2}+\dfrac{1}{r_5}$が成立する.


南海  方針としては,$O_0,\ O_1$の接点を$\mathrm{K}$とし,$\mathrm{K}$での反転を考える.

太郎  円$O_0$と円$O_1$はいずれも$\mathrm{K}$と中心を結ぶ直線と直交している. 従ってその反転平面$O_0',\ O_1'$もこの直線に直交し,従って平行である. $O_2,\ C_1,\ C_2,\ \cdots$はいずれもこの平行面に挟まれ, かつ面に接しているので半径はすべて等しい. $O_2'$の周りに互いに半径が等しい球が互いに外接するので, それらの中心を通る平面での断面の円を考えることにより, 周りの球の個数は6個以外にありえない.

つぎに二円 について,これらの中心と反転の中心$\mathrm{K}$ でできる平面での切断面を考えると,そこでは円の反転になっている. 6個の円に外接する円をあわせて考えることで, 定理7の証明と同様に

\begin{displaymath}
\dfrac{1}{r_1}+
\dfrac{1}{r_4} 
=\dfrac{4r'R'\left(\dfra...
...1}{R} \right)}{(R'-r')^2}
=\dfrac{1}{r_2}+
\dfrac{1}{r_5} 
\end{displaymath}

となる.ただし$R'$は6個の円に外接する円の半径, $R$はその原像の円の半径,$r$$O_2$の半径,$r'$$O_2'$の半径である. ■

南海  球の半径の逆数とは曲率に他ならないことにも注意しよう. 和算家の証明は,反転法ではなくいわゆるデカルトの円定理, およびその一般化である三次元球の定理を用いている. 円定理もまた非常に面白いので,これは次の機会に考えよう.


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