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三つの入試問題の分析

南海 入試問題からはじめて,それを完全な形で解くと,虚数解をもつ四次方程式が現れる. その正体を調べると,虚な共通接線である. こうして入試問題の解明に,複素射影平面が導入される.

この問題を次のような問題を考えることからはじめよう.

拓生  最近,三つのよく似た問題に出会いました.まず問題を見て下さい.

例 1.7.1       [88名大]

放物線 $y=x^2-2$ 上に相異なる三点, $\mathrm{P}(a,\ a^2-2)$ $\mathrm{Q}(b,\ b^2-2)$, $\mathrm{R}(c,\ c^2-2)$ がある.原点を中心とする半径1の円を $S$ とし,直線 $\mathrm{PQ}$ , 直線 $\mathrm{PR}$ はそれぞれ $S$ に接するとする. このとき,直線 $\mathrm{QR}$ もまた $S$ に接することを証明せよ.

例 1.7.2       [90京大前期理系]

$C:x^2+y^2=1$ を内部に含む楕円 $D:\dfrac{x^2}{a^2}+ \dfrac{y^2}{b^2}=1 \ (a>0,\ b>0)$ がある. $D$ 上の一点 $\mathrm{P}(0,\ b)$ から $C$ にひとつの接線をひき, その延長が再び $D$ と交わる点を $\mathrm{Q}$ とする. $\mathrm{Q}$ から $C$$\mathrm{PQ}$ とは異なる接線をひき, その延長が再び $D$ と交わる点を $\mathrm{R}$ とする. $\mathrm{R}$ から $C$$\mathrm{QR}$ とは異なる接線をひき, その延長が再び $D$ と交わる点を $\mathrm{S}$ とすると $\mathrm{S=P}$ となった. このとき $a$$b$ の関数として表わせ.

例 1.7.3       [90東大前期理系]

$x^2+y^2=1$$C_0$ ,楕円 $\dfrac{x^2}{a^2}+ \dfrac{y^2}{b^2}=1 \ (a>0,\ b>0)\ $$C_1$ とする. $C_1$ 上のどんな点 $\mathrm{P}$ に対しても, $\mathrm{P}$ を頂点にもち, $C_0$ に外接して $C_1$ に内接する平行四辺形が存在するための必要十分条件を $a,\ b$ で表せ.

南海  とりあえず三つの問題自身はできたか.

拓生  はい.名古屋大,京大の問題は難しくありません.東大のも何とかなりました.

南海 拓生君は次のような解答を示した.

解答

例題1.7.1

直線 $\mathrm{PQ}$ の式は,

\begin{displaymath}
(a-b)(y-b^2+2)=(a^2-2-b^2+2)(x-b)
\end{displaymath}

より, $a-b \ne 0$ に注意すれば,

\begin{displaymath}
(a+b)x-y-ab-2 =0
\end{displaymath}
これが円に接するので,

\begin{displaymath}
\dfrac{\vert-ab-2\vert}{\sqrt{(a+b)^2+1}} = 1
\end{displaymath}
つまり,

\begin{displaymath}
(ab+2)^2=(a+b)^2+1
\end{displaymath}

同様に

\begin{displaymath}
(ac+2)^2=(a+c)^2+1
\end{displaymath}

従って, $b$$c$

\begin{displaymath}
(at+2)^2=(a+t)^2+1
\end{displaymath}

の二つの解である. $t$ について整理すると,

\begin{displaymath}
(a^2-1) t^2+2at-a^2+3=0
\end{displaymath}

解と係数の関係より,

\begin{displaymath}
b+c= -\dfrac{2a}{a^2-1},\ \ bc= \dfrac{-a^2+3}{a^2-1}
\end{displaymath}

ここで,

\begin{eqnarray*}
(b+c)^2+1&=&\left( -\dfrac{2a}{a^2-1} \right)^2+1 \\
&=&\le...
...
&=&\left( \dfrac{-a^2+3}{a^2-1}+2 \right)^2 \\
&=&(bc+2)^2
\end{eqnarray*}

これは,直線 $\mathrm{QR}$ もまた $S$ に接することを示している.□

例題1.7.2

$\mathrm{S=P}$ となるということは, $\mathrm{P}$ から円に二つの接線を引き,楕円との交点 を $\mathrm{Q}$$\mathrm{R}$ とするとき,直線 $\mathrm{QR}$ が再び円に接する,ということである.

$\mathrm{P}$$x$ 軸上の点であり,円も楕円も $y$ 軸対称の位置にあるので, 直線 $\mathrm{QR}$ が再び円に接するのは, $\mathrm{Q}$$\mathrm{R}$$y$ 座標が$-1$のときである.

従って題意をみたす $\mathrm{Q}$$\mathrm{R}$ はあるとすれば一組のみであるから, $\mathrm{Q}$$\mathrm{R}$ をその $y$ 座標が -1 の楕円上の点とするとき, $\mathrm{PQ,PR}$ が円と接することが $\mathrm{S}=\mathrm{P}$ となるための条件である.

$\mathrm{P}(0,b),\ \ \mathrm{Q,R}\left(\pm a \sqrt{1- \dfrac{1}{b^2}},-1 \right)$ である.

$\mathrm{PQ}$ の式は,

\begin{displaymath}
\dfrac{-1-b}{\pm a \sqrt{1- \dfrac{1}{b^2}}}x-y+b=0
\end{displaymath}

これが $x^2+y^2=1$ と接するので,

\begin{displaymath}
\dfrac{\vert b\vert}{\sqrt{\dfrac{(b+1)^2}{a^2 \Bigl( 1-\dfrac{1}{b^2} \Bigr)}+1}}=1
\end{displaymath}

これから,

\begin{displaymath}
a= \dfrac{b}{b-1}
\end{displaymath}

を得る.これは

\begin{displaymath}
\dfrac{1}{a}+ \dfrac{1}{b}=1
\end{displaymath}

でもある.□

例題1.7.3

必要条件$\mathrm{P}$$(0,b)$ とし, $\mathrm{Q}(a,0)$ とする. $\mathrm{P}$ を頂点の一つとする平行四辺形が存在するためには,円と楕円がともに$x$ 軸, $y$ 軸に関して対称であるから,$\mathrm{PQ}$ が円に接しなければならない.

\begin{displaymath}
\mathrm{PQ}: \dfrac{x}{a}+ \dfrac{y}{b}=1
\end{displaymath}
であるから,


\begin{displaymath}
\dfrac{\vert-1\vert}{\sqrt{ \dfrac{1}{a^2}+ \dfrac{1}{b^2}}} =1
\end{displaymath}
つまり,

\begin{displaymath}
\dfrac{1}{a^2}+ \dfrac{1}{b^2}=1
\end{displaymath}

が必要である.

十分条件 $\mathrm{P}(\alpha,\beta)$ とする. $\dfrac{1}{a^2}+ \dfrac{1}{b^2}=1$のとき,題意をみたす平行四辺形が存在することを示せばよい.

$\mathrm{P}$ を頂点とし, $\mathrm{R}(-\alpha,-\beta)$を向かい合う頂点とする.

$\mathrm{P}$ ,および $\mathrm{R}$ を通る直線を

\begin{displaymath}
y=m(x \mp \alpha) \pm \beta \quad(複号同順)
\end{displaymath}

とする.これが円に接する条件は

\begin{displaymath}
\dfrac{\vert\alpha m - \beta\vert}{\sqrt{m^2+1}}=1
\end{displaymath}

である.つまり,


この二解を $m_1,m_2$ とする.解と係数の関係から,

\begin{displaymath}
m_1+m_2= \dfrac{2 \alpha \beta}{\alpha^2-1},\ \ m_1 m_2=\dfrac{\beta^2-1}{\alpha^2-1}
\end{displaymath}

$\mathrm{P}$ を通る傾き $m_1$ の直線と, $\mathrm{R}$ を通る傾き $m_2$ の直線を

\begin{displaymath}
y=m_1(x-\alpha)+\beta ,\ \ y=m_2(x+\alpha)-\beta
\end{displaymath}

とする.

$\mathrm{P}$$\mathrm{R}$を頂点とする平行四辺形が存在するためには, この二直線の交点が再び楕円上にあればよい.

交点は


ここで に注意して, この交点を楕円の式に代入する.

\begin{displaymath}
\dfrac{1}{\alpha^2+\beta^2-1}\left(\dfrac{\beta^2}{a^2}+\dfrac{\alpha^2}{b^2}\right)=1
\end{displaymath}

が成り立てばよい.

ところが $\beta^2= \dfrac{b^2}{a^2}(a^2-\alpha^2)$ であるから,これを代入して整理すると,

\begin{displaymath}
(a^2+b^2-a^2 b^2)\{a^2b^2+(a^2-b^2)\alpha^2 \}=0
\end{displaymath}

となる.

\begin{displaymath}
\dfrac{1}{a^2}+ \dfrac{1}{b^2}=1
\end{displaymath}

より, $a^2+b^2-a^2 b^2=0$.つまり $\dfrac{1}{a^2}+ \dfrac{1}{b^2}=1$は十分条件である.□

南海  それぞれ入試問題の解答としてはこれで充分だ.

拓生  $\mathrm{P}\to \mathrm{Q}\to \mathrm{R}\to \mathrm{S}$と順にとって $\mathrm{S}=\mathrm{P}$ になるのと, $\mathrm{P}$ から二つの接線 $\mathrm{PQ}$$\mathrm{PR}$ を引いたとき, $\mathrm{QR}$ もまた円に接することとは同値です. それは,外部の点から円への接線がちょうど2本引けることからわかります.

そこで,京大の問題は, $\mathrm{P}$ を特別な点としたとき $\mathrm{S=P}$ となる条件を求めよというものです.

一方,名大の問題は三点が一般的に文字で与えられているのですから, $\mathrm{P}$ を どこにとっても,$\mathrm{S=P}$ となるというのです.

また東大の問題は四点について,二つの問題の中間を主張していて,平行四辺形という条件 にしぼれば,常に同様のことが成り立つ,と主張しています.ある四点を頂点とする平行四辺形が 存在することから必要条件を求め,そのときつねに指定された点を頂点とする平行四辺形が存在 することを示すのですから.

それぞれ類似のことを証明させようとしていますが,また同時に少しずつ違っていて, どのようなことが成り立つのか,背景にどのような事実があるのか,はっきりわかりません.

南海  問題とされていることがそれぞれ違うのは,入試問題としての難易を調節するためである. こういうときにいちばんいいのは,「できるだけ一般的にとらえ,具体的に考える」ことだ.

拓生  名大の問題は円と放物線がある位置関係にあるときつねに$\mathrm{S=P}$ が成り立つ. 京大の問題は特定の点で $\mathrm{S=P}$ となる位置関係を求めさせる,$\cdots$ . 東大の問題も必ずしも平行四辺形でなくても四辺形で成り立つ.

南海  東大の問題では次のことに注意すればよい.

同心の円と楕円があり,円が楕円の内部にあるとする. 円に外接し楕円に内接する四角形は結局のところ平行四辺形しかない.

円に外接する四角形の隣りあう辺の長さは等しい.一方円も楕円も原点に関して対称なので, 必ずひし形になる.

拓生  なるほど.すると一般に,

が成り立つということでしょうか.

南海  その通り. 放物線と楕円が出てきたので,そこを「二次曲線」ととらえたのも大変よろしい.

南海  しかしさらに一般化すれば,中の円も「二次曲線」にしたくなる. また,3および4で成り立つのだから,これを一般に$n$ にしたくなる.

二つの二次曲線が置かれた位置関係も制限が必要ない.

一般に二つの二次曲線 $C_0,\ C_1$ と3以上の自然数 $n$ に関して,

$C_1$ 上のある点を頂点の一つとし, $C_0$ に外接し $C_1$ に内接する $n$ 角形が一つでも存在すれば, 任意の点についてそれを頂点の一つとする同様の $n$ 角形が存在する.
ことが成り立つと推測される.

ポンスレの閉形定理とよばれている. 一般の場合,複素射影幾何の場で証明される.これは後に考えたい.

まず,上の三つの入試問題をそれぞれ一般的に考えよう. そのために,まず名大の問題をわれわれの観点で一般化するとどうなるか.


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