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例による型認識

例で考えるもう一つの大切な役割は,抽象的な設問に対して, 具体的にとらえる, ということである.例を一つ作る. すると何が問題かがわかる.解答の方向性も見えてくる. 抽象的に見えていたものが,実は大変具体的であることがわかる.

例を用いて考えることで,実はそこで成立している型(パターン)を認識することができる.それを記述すればそれが解答になる. 例によって型の認識を助け,それを引き出すことができるのである. 個別から一般へ,これが例で考えるということである. 例で考えよう!


例題 2.16       [01京大文系後期]

$1$ または $-1$ からなる数列 $a_1,\ a_2,\ \cdots,\ a_n$ において, そのうち $m$ 個が $1$ で, $(n-m)$ 個が $-1$ とする. $k=1,\ 2,\ \cdots ,\ n$ に対し

\begin{displaymath}
b_k=\dfrac{1}{2} \left(ka_k+\sum_{j=1}^ka_j \right)
\end{displaymath}

とおく.集合

\begin{displaymath}
\{\ b_k\ \vert\ 1\le k \le n\ \}
\end{displaymath}

を求めよ.


考え方     これは一体なんだ!    というのが正直なところだ. そこで例を2,3作って考える. $n=7,\ m=4$ で考えよう. ここでまず条件を満たす数列はいくつもあることに気づく.

\begin{displaymath}
\begin{array}{rrrrrrr}
a_1&a_2&a_3&a_4&a_5&a_6&a_7\\
\hl...
...ine
1&1&1&1&-1&-1&-1\\
\hline
-1&-1&-1&1&1&1&1
\end{array}\end{displaymath}

このおのおのに対して数列 $\{b_n\}$ を確かめる. ここは次を見ないで必ず自分で作ってみよう.すると

\begin{displaymath}
\begin{array}{rrrrrrr}
b_1&b_2&b_3&b_4&b_5&b_6&b_7\\
\hl...
...ine
1&2&3&4&-1&-2&-3\\
\hline
-1&-2&-3&1&2&3&4
\end{array}\end{displaymath}

となり,いずれも集合は

\begin{displaymath}
\{ 1,\ 2,\ 3,\ 4,\ -1,\ -2,\ -3\}
\end{displaymath}

となる.これから, $n$$m$が決まれば,数列$\{a_n\}$のとりかたに関係なく求める集合が, 1から$m$までと,$-1$から$-(n-m)$まででできている, ということが推測される.


いろんな抽象的な問題で例を作って考える大切さを認識してもらいたい.

さて,推測できた段階で次に進む.本例題の証明方法はいろいろある.

ここでは,作った例から問題の仕組みを考え, より直接的に証明する方法でやってみよう.

例を見てみると, $b_k$ $a_1,\ \cdots,\ a_k$ のうちの1の個数か, $-1$の個数に$-1$をかけたものになっていることに気づく. そこでもう一度 $b_k$ の作り方をよく見てみよう. $a_k$$k$ 倍と, $k$個の和の和!

解1

\begin{eqnarray*}
b_k&=&\dfrac{1}{2} \left(ka_k+\sum_{j=1}^ka_j \right)\\
&=&\dfrac{a_k+a_1}{2}+\dfrac{a_k+a_2}{2}+\cdots+\dfrac{a_k+a_k}{2}
\end{eqnarray*}

ここで

\begin{displaymath}
\dfrac{a_k+a_j}{2}=
\left\{
\begin{array}{ll}
1&a_k=a_j=1\...
...&a_k=a_j=-1\ のとき\\
0&a_k\ne a_jのとき
\end{array}\right.
\end{displaymath}

$b_k$ は,$a_k$ が1なら, $a_1,\ a_2,\ \cdots,\ a_k$ の中に1が現れるたびに 1を加えたもの.$a_k$$-1$なら, $a_1,\ a_2,\ \cdots,\ a_k$ の中に$-1$が現れるたびに $-1$を加えたもの.

したがって $b_k$ $a_1,\ a_2,\ \cdots,\ a_k$ の中にある$a_k(=1,\ -1)$ と同じものの個数と$a_k$をかけあわせた値に一致する. 1と同じものの個数と$1$をかけあわせた値は順に $1,\ 2,\ \cdots,\ m$ であり, $-1$と同じものの個数と$-1$をかけあわせた値は順に $-1,\ -2,\ \cdots,\ -(n-m)$ である.

$b_k$ はこれらの値を1回ずつとる.したがって

\begin{eqnarray*}
&&\{\ b_k\ \vert\ 1\le k \le n\ \}\\
&=&\left\{
\begin{arr...
...\\
\{1,\ 2,\ \cdots,\ m \}
&(n=m のとき)
\end{array} \right.
\end{eqnarray*}             (2.7)

となる.□
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