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微分可能

量の比から関数の変化率へ

「甘い」「からい」「速い」「濃い」「粗い」などでで言いあらわされるいわゆる量が,二つの量の比であることが認識されたのはいつの頃なのであろうか.3時間で15km 進めば「速さ」は1時間あたり$15\div 3=5\ $km 進む量としてとらえられる.この量を5 km/h のように表すのだった.

しかしこの値は平均化されたものである.車の速度計は刻々変化する.自由落下では重力による加速度によって速度は増加する.このように日常的には平均化された値が使われ(それは一次近似なのだが)るが,実際は,はかる時点や場所によって変化する局所的な量である.

濃度は,100g の塩水に 10g の塩が含まれている場合,これを濃度 0.1 という.しかしこれは濃さが均質なときであって,塩の分布が一様でなければ,塩水の位置によって濃度は変化する.ある点の近くでのことが全体に広がっていると仮定して濃いとか辛いとかいってい.つまり,濃度は本来局所的な量である.一様でないとき,0.1 という数は,平均の濃度を表す.ただし,それは口に入れた点でのことで,それが均質に一様に広がっているかどうかはわからない.一様でない場合,どのように考えてゆけばよいのか.

このような考察が,関数概念の獲得と一体になって,平均変化率,そして微分へと進んだのはまちがいないであろう.

現実を近似し解析するために実数を準備した.これによって現実の諸関係が関数によって表現された.さらに現実の物理現象など深く解析するために,関数$f(x)$の解析方法を準備しなければならない.もちろん濃度のように,空間の位置を表すために三つの実数が必要なこともある.また速度も方向まで考えれば少なくとも2次元のベクトルで考えなければならない.つまり,$x$$y$を多元量としてとらえなければならない.

最も簡単で基礎的なのが量が一つの実数に対応する一次元の場合である.まず二つの実数$x$$y$のあいだの関数$y=f(x)$について考える.一変数の量となる例は,時間と位置の関係,その変化の比としての速度などであるが,そのような具体的な量を念頭におきながらも,実数の関数の問題として考える.こうして後に現実の量を解析するための方法を準備する.

微分の定義と微分可能性

関数$f(x)$の定義域内の相異なる2数$a,\ b$に対して
\begin{displaymath}
\dfrac{f(b)-f(a)}{b-a}
\end{displaymath}

を関数$f(x)$$a$$b$の間の平均変化率という.

定義 20 (微分可能)       区間$I=(a,\ b)$で定義された関数$f(x)$がある.定義域内の$c$をとる.$c$を除く$I$で定義された関数 $\dfrac{f(x)-f(c)}{x-c}$に対し,極限値
\begin{displaymath}
\lim_{x \to c}\dfrac{f(x)-f(c)}{x-c}
\end{displaymath}

が存在するとき,関数$f(x)$$c$微分可能であるという.その極限値を$c$における$f$微分係数といい,$f'(c)$と表す. ■

$x-c=h$とおく.$x=c+h$なので$x \to c$のとき$h\to 0$である.微分係数を次式の極限値の存在で定義してもよい.

\begin{displaymath}
\lim_{h\to 0}\dfrac{f(c+h)-f(c)}{h}
\end{displaymath}

定義 21 (導関数)       区間$I=(a,\ b)$で定義された関数 $f:I\to \mathbb{R}$がある.区間の各点$x$において微分可能,つまり極限
\begin{displaymath}
\lim_{h\to 0}\dfrac{f(x+h)-f(x)}{h}
\end{displaymath}

が区間の各$x$で存在するなら,関数$y=f(x)$はその区間において微分可能であるという.この場合,極限値は$x$の関数になる.この関数を$f(x)$導関数といい$f'(x)$と書き表す.

関数$f(x)$からその導関数$f'(x)$を求めることを関数$f(x)$微分するという. ■

関数$y=f(x)$の導関数$f'(x)$を表す記号はさまざまに用いられてきた.関数$f$の導関数$f'$のように変数を書かないこともある.$f'(x)$ $\dfrac{d}{dx}f(x)$とも表す.さらに関数$y=f(x)$$y$が定まっているときは,$y'$ $\dfrac{dy}{dx}$などのようにも表す.$\dot{y}$はニュートンに由来する記号であるが近年は余り用いない.いずれにせよ次の記号はそれぞれの歴史があり,また記号のかたちの意味づけもできるが,導関数を定義した段階では同じものを表すとしてよい.

\begin{displaymath}
y',\ f',\ f'(x),\ \dfrac{dy}{dx},\ \dfrac{d}{dx}f(x),\ \dot{y}
\end{displaymath}

定理※


関数 $ f(x) $ が $ x=c $ で微分可能であることは,次の命題と同値である.
$ c $ で連続で, \[ f(x)=f(c)+(x-c)\phi(x) \] となる関数 $ \phi(x) $ が存在する.
このとき,$ f'(c)=\phi(c) $ である. ■

証明

$ f(x) $ が $ x=c $ で微分可能であるとする. ここで関数 $ \phi(x) $ を次のように定義する. \[ \phi(x)= \left\{ \begin{array}{ll} \dfrac{f(x)-f(c)}{x-c}&(x\ne c)\\ f'(c)&(x=c) \end{array} \right. \] $ f(x) $が $ x=c $ で微分可能なので, \[ \lim_{x \to c}\phi(x)=f'(c)=\phi(c) \] となり,$ \phi(x) $ は $ x=c $ で連続である.そして,定理の関係式を満たす.

定理の $ \phi(x) $ が存在するとする. $ x\ne c $ のとき \[ \dfrac{f(x)-f(c)}{x-c}=\phi(x) \] で, $ \phi(x) $ の連続性から \[ \lim_{x \to c}\phi(x)=\lim_{x \to c}\dfrac{f(x)-f(c)}{x-c} \] が存在し,$ f(x) $ は $ x=c $ で微分可能である. □

四則と微分

定理 35       $f$$g$が区間$I$で微分可能であるとする.定数$\alpha$$\beta$に対して
\begin{displaymath}
\alpha f+\beta g\ ,\quad f\cdot g\ ,\quad \dfrac{g}{f}\ \ (Iでf\ne 0のとき)
\end{displaymath}

はいずれも$I$で微分可能で
(1)
$(\alpha f+\beta g)'=\alpha f'+\beta g'$
(2)
$(f\cdot g)'=f'\cdot g+f\cdot g'$
(3)
$\left(\dfrac{g}{f} \right)'=\dfrac{fg'-f'g}{f^2}$
となる. ■

証明    
(1)

\begin{eqnarray*}
\{\alpha f(x)+\beta g(x)\}'
&=&\lim_{h \to 0}
\dfrac{\alpha...
...rac{\beta g(x+h)-\beta g(x)}{h}\\
&=&\alpha f'(x)+\beta g'(x)
\end{eqnarray*}

(2)
\begin{eqnarray*}
\{f(x)\cdot g(x)\}'&=&\lim_{h \to 0}\dfrac{f(x+h)g(x+h)-f(x)g...
...(x)\\
&=&f(x)g'(x)+f'(x)g(x)\quad (f(x)は連続なので.)
\end{eqnarray*}

(3)
\begin{displaymath}
\left\{\dfrac{1}{f(x)} \right\}'=-\dfrac{f'(x)}{\{f(x)\}^2}
\end{displaymath}

を示せば(3)は(2)から従う.$f(x)$の連続性から
\begin{eqnarray*}
\left\{\dfrac{1}{f(x)} \right\}'&=&
\lim_{h \to 0}\dfrac{\df...
...f(x)}{h}\cdot\dfrac{1}{f(x+h)f(x)}
=-\dfrac{f'(x)}{\{f(x)\}^2}
\end{eqnarray*}

である. □

合成関数,逆関数の微分

注意  定理※を用いれば,本定理の証明は,もう少し簡明になる. しかし,上記証明の変形も意味あるので,高校数学範囲の証明にした.
それに対して,合成関数の微分の関する次定理は2通りの証明を行う.
第1法は高校教科書の方法であるが,例えば,関数 $g(x)$ が定数のとき $g(x+h)-g(x)=0$ となり, このままでは該当の変形ができない.
ここは歴史的にもいろいろ工夫されてきたところであり,第2法はこの場合を含めて,可能な証明である.

定理 36  
(4)
$f(x)$$g(x)$が区間$I$で微分可能であるとする. このとき合成関数$f\circ g(x)$も微分可能で
\begin{displaymath}
\{f\circ g(x)\}'=f'(g(x))g'(x)
\end{displaymath}

となる.
(5)
$f(x)$が区間$I$で微分可能で値域が区間$J$であり, かつ逆関数$f^{-1}(x)$が存在するとする. 区間において$f'(x)\ne 0$なら, $f^{-1}(x)$は区間$J$で微分可能である.

証明    
(4)
第1法  実数$h$に対して

\begin{displaymath}
g(x+h)=g(x)+k
\end{displaymath}

とおくと$g(x)$の連続性から$h\to 0$のとき$k\to 0$である. したがって
\begin{eqnarray*}
\{f\circ g(x)\}'=\{f(g(x))\}'
&=&\lim_{h \to 0}\dfrac{f(g(x+...
...}{k}\cdot
\lim_{h \to 0}\dfrac{g(x+h)-g(x)}{h}
=f'(g(x))g'(x)
\end{eqnarray*}

第2法  $c\in I$ をとる. \begin{eqnarray*} g(x)=& g(c)+(x-c)\phi(x)&:\phi\ はcで連続.\phi(c)=g'(c)\\ f(y)=& f(g(c))+(y-g(c))&:\psi(y)は g(c)で連続.\psi(g(c))=f'(g(c)) \end{eqnarray*} となる関数 $\phi,\ \psi$ をとる.$y=g(x)$ とおくと, $y-g(c)=(x-c)\phi(x)$ であるから, \[ f(g(x))=f(g(c))+(x-c)\phi(x)\psi(g(x)) \] となる.$g$ は $c$ で,$\psi$ は $g(c)$ で連続であるから, $\phi(x)\psi(g(x))$ は $c$ で連続である.よって $f(g(x))$ は $c$ で微分可能で, \[ \{f\circ g(c)\}'=\phi(c)\psi(g(c)) =g'(c)f'(g(c)) \] である.
これが区間の任意の $c$ で成立するので(4)が示された.

(5)     $y=f^{-1}(x)\ (x \in J)$とおくと $x=f(y)\ (y\in I)$である. また $y+k=f^{-1}(x+h)$とおくと$f(y+k)=x+h$である.
\begin{displaymath}
\dfrac{f^{-1}(x+h)-f^{-1}(x)}{(x+h)-x}
=\dfrac{(y+k)-y}{f(y+k)-f(y)}
\end{displaymath}

となり,$f(x)$の連続性から$h\to 0$のとき$k\to 0$で, このとき $\dfrac{f(y+k)-f(y)}{k}$が0でない$x$による有限値に収束する. よって $\dfrac{(y+k)-y}{f(y+k)-f(y)}$も0でない有限値 $\dfrac{1}{f'(y)}$に収束する. つまり$f^{-1}(x)$は区間$J$で微分可能である. □

関数$f(x)$$g(x)$の合成は,変数を区別して

\begin{displaymath}
y=f(x),\ z=g(y)=g(f(x))
\end{displaymath}

とすることで定義することもできる.この場合,定理36の 合成関数の微分公式は
\begin{displaymath}
\dfrac{dz}{dx}=\dfrac{dz}{dy}\dfrac{dy}{dx}
\end{displaymath}

とも表される.

注意 4.1       逆関数の微分可能性を前提にすれば,次のように合成関数の微分法から逆関数の微分を決定できる.
\begin{displaymath}
f^{-1}(f(y))=y
\end{displaymath}

であるから合成関数の微分により
\begin{displaymath}
\{f^{-1}\}'(f(y))f'(y)=1
\end{displaymath}

である.これより
\begin{displaymath}
\{f^{-1}\}'(x)=\dfrac{1}{f'(y)}\quad (x \in J,\ y\in I)
\end{displaymath}

またこの公式は
\begin{displaymath}
\dfrac{dy}{dx}=\dfrac{1}{\dfrac{dx}{dy}}
\end{displaymath}

とも表される.

連続性

定理 34       関数$f(x)$が区間$I=(a,\ b)$で微分可能なら区間$I$で連続である. ■
証明     区間$I$で連続でないとする.つまり区間の点$c$と正の実数$\epsilon$で, 任意の正の実数$\delta$に対して
\begin{displaymath}
\left\vert x-c \right\vert<\delta \quad かつ\quad \left\vert f(x)-f(c) \right\vert\ge\epsilon
\end{displaymath}

となるものが存在するとする.このとき
\begin{displaymath}
\left\vert\dfrac{f(x)-f(c)}{x-c} \right\vert>\dfrac{\epsilon}{\delta}
\end{displaymath}

なので,正の実数$a$に対して
\begin{displaymath}
\dfrac{\epsilon}{\delta}>a\quad \iff\quad
\dfrac{\epsilon}{a}>\delta
\end{displaymath}

となる$\delta$をとれば
\begin{displaymath}
\left\vert\dfrac{f(x)-f(c)}{x-c} \right\vert>a
\end{displaymath}

となる.つまり 極限値
\begin{displaymath}
\lim_{x \to c}\dfrac{f(x)-f(c)}{x-c}
\end{displaymath}

が存在しない.微分可能という仮定に反する.したがって$f(x)$$I$で連続である. □

このように$f(x)$が微分可能であれば$f(x)$は連続であるが,逆は成り立たない.$f(x)=\vert x\vert$は実数全体で連続であるが,$x=0$で微分可能ではない.

微分係数の図形的な意味

一般に標準的な直交座標が入った平面に直線があるとする. 直線上の2点 $\mathrm{A}(x_1,\ y_1)$ $\mathrm{B}(x_2,\ y_2)$ に対して,$x$方向の変化と$y$方向の変化の比
\begin{displaymath}
\dfrac{y_2-y_1}{x_2-x_1}
\end{displaymath}

を直線$\mathrm{AB}$傾きという.これは$x$軸を水平としたときの直線の勾配である.
関数$f(x)$は定義域で微分可能とする. 定義域内の$c$に対し微分係数$f'(c)$ は関数$y=f(x)$のグラフでは何を表すのか. グラフ上の2点を $\mathrm{A}(c,\ f(c))$ $\mathrm{B}(c+h,\ f(c+h))$ とすると,平均変化率
\begin{displaymath}
\dfrac{f(c+h)-f(c)}{h}
\end{displaymath}
は直線$\mathrm{AB}$の傾きである. ここで$h$を0に近づけると,直線$\mathrm{AB}$は 点$\mathrm{A}$での接線に近づく.
したがって傾きの極限
\begin{displaymath}
f'(c)=\lim_{h \to 0}\dfrac{f(c+h)-f(c)}{h}
\end{displaymath}

は点$\mathrm{A}$での接線の傾きである. しかし逆に曲線の接線とは何かと考えるとよくわからない. 実は,曲線が関数$y=f(x)$のグラフであるとき, その上の点$(c,\ f(c))$での接線をこの点を通り傾きが$f'(c)$の 直線
\begin{displaymath}
y=f(c)+f'(c)(x-c)
\end{displaymath}

と定める.

関数の増減

区間で定義された関数$f(x)$が単調増加関数であるとは, 区間の2点$x_1,\ x_2$$x_1<x_2$であるようにとると,
\begin{displaymath}
f(x_1)\le f(x_2)
\end{displaymath}

が成りたつことをいう. $f(x)$が増加関数で$a$を区間の点とする. $x<a$なら$f(x)\le f(a)$$x>a$なら$f(x)\ge f(a)$なので 平均変化率はつねに
\begin{displaymath}
\dfrac{f(x)-f(a)}{x-a}\ge 0
\end{displaymath}

である. よって
\begin{displaymath}
f'(a)=\lim_{x \to a}\dfrac{f(x)-f(a)}{x-a}\ge 0
\end{displaymath}

$f(x)=x^3$$x\ne 0$に対して $\dfrac{f(x)-f(0)}{x-0}=x^2>0$であるが, $f'(0)=0$である. このように増加関数ではいくつかの点を除いて導関数は正である.

逆に区間において微分可能で$f'(x)\ge 0$が成り立つとき, $f(x)$はこの区間で単調増加している. これを証明するためには平均値が必要である. 平均値の定理の系として示す.

以上の議論は関数の減少についても同様である.

関数の極大,極小

定義 22       関数$f(x)$で次のことが成り立つとする.
\begin{displaymath}
\exists \epsilon(>0);\left\vert x-a \right\vert<\epsilon,x \ne a
\Rightarrow f(x)<f(a)
\end{displaymath}

このとき,関数$f(x)$$x=a$極大であるという.

$f(x)>f(a)$が成り立つとき極小であるという. ■

$y=\vert x\vert$$x=0$で極小である.この場合のように微分できない点でも, 極大や極小であり得る.それに対して, $f(x)$が微分可能な場合に$f(x)$$x=a$で極大であることは

$f'(a)=0$$f'(x)$$x=a$の前後で正から負に変わる.
ことと同値である.
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2014-05-23