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整式の約数・倍数

このように,整式にも除法が存在した.これによって,整数と同様の議論を展開することができる. 定理や定義の形にはまとめず,順にそれを述べておこう.

整数の場合と同じように, 整式$f(x)$が整式$g(x)$の倍数であるとは, $f(x)=q(x)g(x)$を満たす整式$q(x)$が存在することと定義する. $f(x)$$g(x)$に対して$f(x)$$g(x)$で割った商と余りが確定するので $f(x)$$g(x)$の倍数であることは, $f(x)$$g(x)$で割った余りが0であることと同値である.

因数分解は

\begin{displaymath}
x^2+3x+2=(x+1)(x+2)=\{3(x+1)\}\left\{\dfrac{1}{3}(x+2) \right\}=\cdots
\end{displaymath}

のように,定数倍を除いて確定する.

このように,約数や倍数,因数分解は,定数倍の違いを除いて決まる. $K[x]$の中で,0でない定数は逆数もまた整式である. 逆数もまた整式となるのは0でない定数にかぎる. つまり$K[x]$では0でない定数が単数である.

0および定数でない整式$f(x)$は,つねに定数と $(0でない定数)\times f(x)$の形の整式を約数に持つ. これら以外の約数を真の約数という. 真の約数を持たない整式を 既約 という.

既約かどうかは,定数倍しても変わらない.

\begin{displaymath}
x+1,\ 3(x+1),\ -\sqrt{2}(x+1)
\end{displaymath}

はすべて既約である. 既約な整式というのは,整数での素数と同じ役割を果たす.

注意     既約な整式への分解は,係数をどこで考えるかによって異なる. $f(x)=x^4-4$は次のようになる.

$Q[x]$で, $f(x)=(x^2-2)(x^2+2)$まで因数分解され,$x^2-2,\ x^2+2$は既約.

$R[x]$で, $f(x)=(x-\sqrt{2})(x+\sqrt{2})(x^2+2)$まで因数分解され, $x-\sqrt{2},\ x+\sqrt{2},\ x^2+2$は既約.

$C[x]$で, $f(x)=(x-\sqrt{2})(x+\sqrt{2})(x-\sqrt{2}i)(x+\sqrt{2}i)$まで因数分解され,各項は既約.

整式と整数

このように,整式では整数論が展開され,これまで整数でおこなったことは,ほぼそのまま整式でもできる. 最大公約数や最小公倍数も定義される.さらにユークリッドの互除法などもできる. すべて除法の定理が成り立つからである.

整式の場合は,さらに剰余定理や因数定理という整式の理論によって方程式の解から因数分解の因数をさがすことができる. 多くの場合,二つの方法での解があるのはそのためである.


Aozora
2015-03-02