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約数・倍数と最大公約数

約数・倍数の定義

除法の定理から約数や倍数の基本性質が導かれる.

定義 2        整数$a$$b$倍数であるとは, $a=bq$となる整数$q$が存在することと定める. このとき$b$$a$約数という. 除法の定理によって,$a$$b$の倍数であることは, $a$$b$で割った余りが0であることと同値である.

6の約数は2や3であるが,$-2$$-3$も約数ではないのか. 確かに$6=(-2)(-3)$も因数分解であることには変わりない. このように,約数や倍数には$\pm 1$の自由さがあり, 割り切れるとか,因数分解とか,整除に関することはすべて, ある整数で成り立てばそれに$-1$をかけても成り立つ. だから逆に割れる割れないなどは正の整数で考えればよいことになる.

$\pm 1$は逆数もまた整数である. 逆数もまた整数であるものを単数という. $\mathbb{Z}$の単数は$1$$-1$である.

最大公約数と最小公倍数

さらに,公約数,公倍数が定義される.

定義 3        二つ以上の整数 $a,\ b,\ c,\ \cdots$ に共通な倍数をそれらの整数の公倍数という. 0は任意の整数の公倍数である. それを除けば公倍数の絶対値は $a,\ b,\ c,\ \cdots$ のいずれの絶対値よりも小さくはないので, 公倍数の中に正で最小のものがある. それを最小公倍数(least common multiple 略して L.C.M.)という.

     二つ以上の整数 $a,\ b,\ c,\ \cdots$ に共通な約数をそれらの整数の公約数という. 1は任意の整数の公約数である. 公約数の絶対値は $a,\ b,\ c,\ \cdots$ のいずれの絶対値よりも大きくはないので, 公約数の中に最大のものがある. それを最大公約数(greatest common measure 略して G.C.M., あるいは,greatest common divisor 略して G.C.D.)という.

最大公約数が1であるとき,その2数は互いに素であるという. また整数$a$$b$の最大公約数を座標などと混同する恐れのないときは $(a,\ b)$と書く.$(12,\ 32)=4$のように用いる.

次の定理の証明においても除法の定理が基本定理として用いられる. 日頃当然のように論証で使っていることが除法の定理を基礎に厳密に示される. このことをおさえた上で高校数学の解答で次定理は証明なしに用いてよい. 証明は(1)のみおこなう.(2)以下も同様に除法の定理をもとに示されるので, 一度試みてほしい.

定理 2  
(1)
二つ以上の整数の公倍数は,最小公倍数の倍数である.
(2)
二つ以上の整数の公約数は,最大公約数の約数である.
(3)
$a,\ b$ の最小公倍数を $l$ ,最大公約数を $d$ とすれば $ab=dl$
(4)
$a,\ b$ が互いに素で,整数 $c$$b$ との積 $bc$$a$ の倍数なら,$c$$a$ の倍数である.


(1)の証明      $a,\ b,\ c,\ \cdots$ の最小公倍数を $l$ とし, $m$ を任意の公倍数とする. $m$$l$ で割った商を $q$ ,余りを $r$ とすると

\begin{displaymath}
m=ql+r,\ \quad 0 \le r<l
\end{displaymath}

となる. $l$$m$$a$ の倍数であるから $l=al',\ m=am'$ とおくと
\begin{displaymath}
r=m-ql=a(m'-ql')
\end{displaymath}

より, $r$$a$の倍数である.同様に $b,\ c,\ \cdots$の倍数でもあり, $r$ $a,\ b,\ c,\ \cdots$の公倍数となる.

$r$ が0でないとする. $l$ より小さい正の公倍数$r$があることになり, $l$ が正で最小の公倍数であることに矛盾する. よって$r=0$. つまり $m$$l$ の倍数である. (証明終わり)


Aozora
2015-03-02