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実数の構成と連続性

史織  このカントールの背理法から逆にわかってきました.つまり実数というのは十進法で表したとき, 有限小数と無限小数の全体である,ということですね.

南海  大変鋭い.実数を有理数の世界から構成する糸口がここにある. 無限小数とは要するに有限小数でできた数列の極限だ.

史織  今は有理数から実数を構成することが問題なので,有理数からできた数列$\{a_n\}$を考える. それが収束するときその極限の集合を実数とする.有理数そのものは数列$\{a_n\}$のすべての項を おなじ有理数にしておけばよいのでこの集合は有理数を含みます.こ れで実数が得られる,というのはどうでしょうか.

南海  集合そのものはその通りだ. しかしこの集合が実際に四則演算をもち,それが今までの演算と同じであることを示すには, もう少し分かりやすく構成しなければならない.

史織  そうか.単に極限をもつというだけでは,同じ値に収束する数列がいくつもあり得る.

南海  そこで次のようにしよう.今有理数の集合$Q$を基礎にする.

  1. 各項が有理数からなる数列$\{a_n\}$が,任意の正の$Q$の要素$c$に対して, ある番号$n_0$$n>n_0$のとき$-c<a_n<c$となるものが存在するとき,$a_n \to 0$と表し, 0に収束するという.
  2. $a_n-b\to 0$となる$b$が存在するとき,$a_n\to b$と表し$a_n$の極限という. 極限は存在してもただ一つであることを示すことができる.
  3. 任意の正の$Q$の要素$c$に対して, ある番号$n_0$$m,\ n>n_0$のとき$-c<a_n-a_m<c$となるものが存在するとき, 数列$\{a_n\}$を基本列という.
  4. 有理数$b$に収束する数列は基本列である.逆に有理数からなる基本列は,有理数に収束する とはかぎらない.そこで集合$H$を有理数からなる基本列$\alpha$の集合とする. $H$に属する2つの基本列 $\alpha=\{a_n\},\ \beta=\{b_n\}$$a_n-b_n\to 0$のとき$\alpha〜\beta$と書き表す.集合$H$において この関係「〜」で結ばれたものを一つの部分集合にまとめ,これを類(class)と呼ぶ.こうしてできる類の集合を$R$と書き,実数という.

集合$A$の要素の間に$\alpha〜\beta$という関係で

  1. $\alpha$$\alpha$
  2. $\alpha$$\beta$なら$\beta$$\alpha$
  3. $\alpha$ $\beta,\ \beta〜\gamma$なら $\alpha〜\gamma$
が成り立つとき,「〜」を「同値関係」という.

同値関係があると,同値なものを「同一視」することができる. 同値なものをひとまとめにしてしまうのだ.

例えば,整数$m$$n$$m-n$が7の倍数になるとき$m〜n$と定めると,これは同値関係だ. そしてこの同値関係で同値なものをひとまとめにすると….

史織  7で割った余りが同じものを一つの集合にするということですね.

南海  それらの集合のことを「同値類」という. この場合は同じ余りの集合なので「剰余類」ともいう.

史織  $7k+1$と書けるものはすべて同値になるので, 結局整数の集合が7で割った余りの違いによって7つの部分集合に分けられます. この部分集合の集合は7つからできていて,余りの集合と同じです. つまり,剰余類は7つあって,剰余類を集めると7で割った余りの集合と同じものができます.

南海  これを,整数を7で割った余りで類に分けるという.類とは部分集合で, 7で割った余りが等しいものからできている. 類は7つある.これらの類を$\overline{0}$$\overline{1}$等と, その類に属する要素に上線を付けたもので表す.

\begin{displaymath}
\overline{3}=\overline{10}=\overline{-4}=\{\ \cdots,\ -11,\ -4,\ 3,\ 10,\ \cdots\ \}
\end{displaymath}

要するに7で割って3余る整数の集合だ.

南海  有理数からなる数列の間に定義された先の〜も同値関係である.

史織  基本列の集合を,差が0に収束するとき同値であるとして,この同値関係で同じものを類にまとめると, まとめられた一つ一つの類が実数の一つ一つになるのですね.

南海  基本列の集合$H$からこの同値関係で類に分けた類の集合が$G$だ.$\alpha\in H$に対して, $\overline{\alpha}\in G$となる.

もちろん,2つの基本列$\alpha$$\beta$が定める$G$の要素 $\overline{\alpha},\ \overline{\beta}$ に対してその和 $\overline{\alpha}+\overline{\beta}$や 積 $\overline{\alpha}\overline{\beta}$をどのように定めるのか.またべき $\overline{\alpha}^{\overline{\beta}}$も定めなければならない. ここではそれはしないが,関心があれば何か読んでほしい.

これがカントールの方法だ.そして基本列が必ず極限をもつことを「完備性」といい, 実数が完備であることを,実数の連続性という.

史織  どんな参考書がありますか.

南海  いくらでもある.私が高校のときに読みかけたのは, 大阪教育大学の黒崎達先生の『必修教程数学原論』だった. いまこれは槙書店から改訂新版が出ている.

もちろん高木貞治『数の概念』(岩波書店)は古典だ.

史織  実数の定義は違う方法もあるのですか.

南海  デデキントによる「切断の方法」だ. 有理数を大小関係で2つに分ける分け方の全体が実数になる,というものだ. 例えば,$\sqrt{2}$があれば,それより大きい有理数とそれより小さい有理数に分かれる.

有理数Qが2つの集合$A$$B$にわかれ$A$の任意の要素$a$$B$の任意の要素$b$の間に つねに$a<b$が成り立っていれば,$A$$B$の境目として実数が定まる.

有理数Qが2つの集合$A$$B$にわかれ$A$の任意の要素$a$$B$の任意の要素$b$の間に つねに$a<b$が成り立っているときこれを$<A\vert B>$と書いて「切断」と呼ぶ. 切断の集合が実数というわけだ.

史織  実数が先にあって有理数の切断があるのではなく,有理数の切断によって実数を定めるのですね. カントールとデデキントの2人の方法で同じものができるのですか.

南海  できる.先に紹介した黒崎先生の本には確か「2つの実数の定義は同値である」ということが書いてあった. 高校生の私にその証明のすべてが理解できたわけではなかったが, 「定義の同値性」ということにひどく感動したのを覚えている.

史織  実数がこのように完備な集合として構成されることがわかりました.実数が完備であるから, 閉区間で定義された連続関数がつねに最大最小をもつのですね.

南海  そうなのだが,一つ一つの論証を積み重ねるのは簡単ではない. それはここではせずに,結論の概略のみを述べよう.

先の実数の定義から次のことが成り立つ.

閉区間 $I_n=[a_n,\ b_n]\ (n=1,\ 2,\ \cdots)$において,

  1. $\displaystyle I_{n+1}\subset I_n\ (n=1,\ 2,\ \cdots)$
  2. $n$が大きくなるとき区間の幅$b_n-a_n$がいくらでも小さくなる.
このとき,これらの区間に共通な要素がただ一つ存在する.

これを区間縮小法というのだが,実数とはこのような集合としても特徴づけられる.

以下は次のような過程で,閉区間で定義された連続関数に最大値と最小値が存在することが示される.

  1. $x_0$が実数の部分集合$S$の集積点であるとは,$x_0$のどれだけ近いところにも, $S$の要素が無数に存在することをいう.実数の部分集合で要素が無数にあり,かつ有界 な部分集合には集積点が存在する.

    ∵     $S$の要素は区間$I_0=[a,\ b]$の中にあるとする.この区間を2等分するとそのいずれかには$S$の 要素が無数に存在する.無数に存在する区間を$I_1$とする.$I_1$を2等分する. そのいずれかには$S$の要素が無数に存在する.無数に存在する側を$I_2$とする.この操作を くりかえす.区間の長さはいくらでも小さくなる.したがってすべての区間に共通な要素$x_0$が存在する. $x_0$を含む区間 $I_0 \supset I_1\supset I_2\supset\cdots $はいくらでも小さくなる.
    ゆえに $x_0$のどれだけ近いところにも,$S$の要素が無数に存在する.つまり$x_0$は集積点である.

  2. 実数の部分集合$S$が閉集合であるとは,$S$のすべての集積点が$S$に属することである. 閉区間は閉集合である.実数の有界な閉集合$S$には最大値と最小値が存在する.

    ∵     有理数を$S$のすべての要素より大きい要素からなる部分集合と,その補集合に分ける. これは有理数の切断なので,実数$a$がさだまる.$a<x$なる$x$$S$に属さず,$x<a$なる$x$で 十分$a$に近いものは$S$に属する.$a$$S$の要素であることを示す.

    $S$の任意の要素を$a_0$とする.$a_0<x<a$を中央で2つに分け,$a$に近い側から$a_1$をとる. 同様の操作をくりかえし数列$\{a_n\}$を定める. 途中で$a$が選べれれば$a$$S$の要素である.

    この数列$\{a_n\}$$a$との距離が0に近づくので基本列である.その極限は$a$でありかつ$S$が 閉集合なので$a$$S$の要素である.$a$が最大値である.最小値も同様.

  3. $f(x)$を実数の閉区間$I$で定義された連続関数とする.$f(x)$の値域には 最大値と最小値が存在する.

    ∵     $f(x)$の値域を$J$とする

    \begin{displaymath}
J=\{f(x)\ \vert\ x \in I \}
\end{displaymath}

    $J$は有界閉集合である.なぜか.有界でないとする.したがって

    \begin{displaymath}
2f(a_n)<f(a_{n+1})\ (n=0,\ 1,\ 2,\ \cdots)
\end{displaymath}

    となる無限数列$\{a_n\}$$I$に存在する.$I$は閉区間だから$\{a_n\}$の集積点は$I$に 属する.その一つを$x_0$とする.数列$\{a_n\}$の部分列で$x_0$に収束するもの $\{a_{l_n}\}$がとれる.$f(x)$は連続であるから

    \begin{displaymath}
\lim_{n \to \infty}f(a_{l_n})=f(x_0)
\end{displaymath}

    ところが $f(a_{l_n})>2^{l_n}f(a_0)$なのでこれは矛盾である.

    実数を$J$のすべての要素より大きい要素からなる部分集合と,その補集合に分ける. これは有理数の切断なので,実数$b$が定まる.(2)と同様に$b$に収束する$J$内の 数列$\{b_n\}$が存在する.$b_n=f(a_n)$となる数列$\{a_n\}$をとる.$\{a_n\}$$I$において集積点$x_0$をもつ.数列$\{a_n\}$の部分列で$x_0$に収束するもの $\{a_{l_n}\}$をとる.$f(x)$が連続なので

    \begin{displaymath}
\lim_{n \to \infty}f(a_{l_n})=f(x_0)
\end{displaymath}

    $\{b_n\}$は収束列なのでその部分列も同じ極限に収束する.つまり$f(x_0)=b$

    よって$b\in J$となり$J$に最大値が存在した.最小値についても同様である.


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