南海 今日は,「命題と条件」について考えよう. 「命題」を土台にして「条件」とは何かを明確にすることが目的だ.
史織 さっそくですが.私の教科書では論証に関する記述が「必要条件と十分条件」で初めて 出てきます.その最初に次のように書かれています.
二つの事柄 に対して, がなりたつとき
という.と書かれています.この「事柄」って何なんでしょうか.「条件」ではないのですか.
南海 うーん.確かにこれは難しい問題だ.数学的「事柄」であるにはちがいないが. 「事柄」では少し漠然としている. 「必要『条件』」などと用いられる以上, は「条件」であるはずだ,というのはもっともだ.
具体的に考えてみよう.簡単なものでいいから例を作ってほしい.
史織 を「16は4の倍数である」, を「16は2の倍数である」とすると,これは の例になっているのでしょうか.
南海 「事柄」というからには今あげてくれた や も事柄には違いない. 「より 」 は推論としてはあり得る.だから例には違いないのだが, も もそれ自身で真であることが確定する命題である.
事柄といえばこのようなものも入る. しかし必要条件や十分条件を考える例としては や は成立するときもしないときもあって が成立する「ならば」 が成立する,あるいはその逆に が成立する「ならば」 が成立する, というものでないと,実質的な数学上の意味がない.
そういう例をあげてほしい.
史織 では, を「は4の倍数である」, を「は2の倍数である」とすると,これは の例になっているのでしょうか.
南海 そうだ.このばあい は「が4の倍数である,ならば,は2の倍数である」 という命題になり.教科書が言いたかった例になっている.
史織 この「は4の倍数である」はやはり「事柄」というよりは「条件」ですね. でも,自分でいっておきながら何ですが,「条件」とは何ですか.
南海 それを考えるために,まず「命題」や「真」の意味を明確にしなければならない. なぜなら,上の教科書の記述の中に,表には出されていないが,「命題」と「真」という 概念が使われている.どこに隱されているかな.
史織 そうか. が命題ですね. 「なりたつとき」とうのは「真であるとき」ですね.そうか,必要条件や十分条件とは何か を明確に述べるには,先に「命題」とか「真」とかがはっきりしていないといけないのですね.
南海 それで,これらについて教科書はどのようにいっているか.
史織 「命題と証明」に次のように定義されています.
式や文章で表された事柄で,正しいか正しくないかが,明確に決まるものを命題という. 命題が正しいことを真であるといい,正しくないことを偽であるという.
南海 なるほど.「事柄」は定義されていないが,数学的現象について何らかの事実や推論を述べたもの, と言いかえてもいいだろう.
「命題」はいくらでも複雜なものがあり得るが,いちばん単純なのは, 「何々について述べる」という主題の部分(主部)と, 「何々である」とそのものの内容を述べる述語の部分(述部)から成り立っている, 断定型である.「3は奇数である」とかのたぐいだ.
これに対して という形をした推論型も命題である.
もちろん「3は奇数である」は「ある数が3なら,その数は奇数である」と状況を 複雜に設定すればわかるように,断定型も掘りさげれば推論を含んでいる.
一応ここでは,命題には事実を述べた断定型と,推論を述べた推論型がある,と考えよう. のちに述べるが,推論型命題を普通は「含意命題」という.
史織
推論型について,教科書では続いて次のように書かれています.
のように二つの条件 を用いて
の形に表される命題を考えよう.
このとき, をこの命題の仮定, を結論という.と書いてあります.
するとやはり最初の私の質問にある「事柄」は「条件」ですね.しかし肝心の「条件」とは何か, よくわかりません.