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九点円とフォイエルバッハの定理

九点円


耕一  次の問題の授業の中で九点円を習いました.これは入試問題だと思います.

演習 1   鋭角三角形$\mathrm{ABC}$の外接円$O$の中心を$\mathrm{O}$, 辺$\mathrm{BC}$の中点を$\mathrm{M}$,頂点$\mathrm{A}$から対辺$\mathrm{BC}$に下ろした垂線と, 頂点$\mathrm{B}$から対辺$\mathrm{AC}$に下ろした垂線の交点を$\mathrm{H}$とする. このとき次の問に答えよ.
(1)
$\overrightarrow{\mathrm{OH}}$を , $\overrightarrow{\mathrm{OA}}$ $\overrightarrow{\mathrm{OB}}$ $\overrightarrow{\mathrm{OC}}$で表せ.
(2)
$O$の円周上の点$\mathrm{P}$に対して,$\mathrm{Q}$

\begin{displaymath}
\overrightarrow{\mathrm{OQ}}=\dfrac{1}{2}\left(
\overrig...
...thrm{OC}}\right)-\dfrac{1}{2}\overrightarrow
{\mathrm{OP}}
\end{displaymath}

をみたす点とする.点$\mathrm{P}$が外心$\mathrm{O}$に対する$\mathrm{A}$の対称点 $\mathrm{A}'$のとき,$\mathrm{Q}$の位置を求めよ.
(3)
$\mathrm{P}$が円$O$の周上を動くとき,点$\mathrm{Q}$の軌跡を求めよ.

耕一  (1)の$\mathrm{H}$ $\bigtriangleup \mathrm{ABC}$の垂心で, $\overrightarrow{\mathrm{OH}}
=\overrightarrow{\mathrm{OA}}+\overrightarrow{\mathrm{OB}}+\overrightarrow{\mathrm{OC}}$ となります.これは知っていました. (2)の解は線分$\mathrm{AH}$の中点です.これも代入すればわかります. (3)で外接円の半径を$R$とすると点$\mathrm{P}$のベクトル方程式は $\left\vert\overrightarrow{\mathrm{OP}}\right\vert=R$となる. ここに $\overrightarrow{\mathrm{OP}}=\overrightarrow{\mathrm{OH}}-2\overrightarrow{\mathrm{OQ}}$ を代入し$\mathrm{P}$を消去,整理して$\mathrm{Q}$のベクトル方程式をつくると

\begin{displaymath}
\left\vert\overrightarrow{\mathrm{OQ}}-\dfrac{1}{2}\overrightarrow{\mathrm{OH}} \right\vert=\dfrac{R}{2}
\end{displaymath}

となります.これは$\mathrm{OH}$の中点を中心とし, 外接円の半径の$\dfrac{1}{2}$を半径とする円です. (2)よりこの円は線分$\mathrm{AH}$の中点を通ります. 他も同じなので,軌跡の円が $\mathrm{AH},\ \mathrm{BH},\ \mathrm{CH}$ の中点を通ることがわかります.

     さらにこの問題の解説のなかで先生が, まず鋭角三角形であることは必要でない.鈍角三角形,直角三角形でも同様に円が定まるといわれました. 確かに辺の延長線上を考えても,直交関係などは同じことなので,鈍角三角形でも同じです.

     その上で,軌跡の円の上には,各頂点から対辺への垂線の足, 各辺の中点の合計9個の点が乗っていることを教えてくれました. 実際に図を描くと確かに9個の点が1つの円上にあって,感動しました.

     各辺の中点の3点で定まる円と, 頂点から対辺への垂線の足の3点で定まる円と, 頂点と垂心の中点である3点で定まる円が一致するのです.


南海  一つの円上に9個もの点が乗っている. だからこの円を九点円というのだ. 最初にこれを見つけた人は感動しただろう.

ところが九点円はさらに不思議ないくつもの性質をもっている. それがフォイエルバッハの定理だ. フォイエルバッハの定理とは $\bigtriangleup \mathrm{ABC}$の内接円や傍接円がこの九点円に接しているということなのだ.

耕一  内接円と接しているのですか. 図を描いてみます. 接点が細かくなって少し見にくいですが, 確かに接しています.傍接円と接している方が見やすいです.

九点円の証明

南海  まず先の入試問題と先生の解説を次のように九点円の定理にまとめる.先の問題の解答としてこれを証明してほしい. 証明方法はいろいろあるが,問題にあわせてベクトルで示してほしい.

定理 1
     $\bigtriangleup \mathrm{ABC}$の外心を$\mathrm{O}$,垂心を$\mathrm{H}$とし, $\mathrm{OH}$の中点を$\mathrm{D}$とする. 3線分 $\mathrm{AH},\ \mathrm{BH},\ \mathrm{CH}$の各中点, 3辺 $\mathrm{AB},\mathrm{BC},\ \mathrm{CA}$の各中点, 3直線 $\mathrm{AH},\ \mathrm{BH},\ \mathrm{CH}$と辺 $\mathrm{BC},\ \mathrm{CA},\ \mathrm{AB}$の各交点, の9個の点は, 点$\mathrm{D}$を中心とし外接円の半径の$\dfrac{1}{2}$を半径とする円周の上に存在する. この円を $\bigtriangleup \mathrm{ABC}$九点円という.

証明     点$\mathrm{H'}$

\begin{displaymath}
\overrightarrow{\mathrm{OH'}}=
\overrightarrow{\mathrm{OA}}+
\overrightarrow{\mathrm{OB}}+
\overrightarrow{\mathrm{OC}}
\end{displaymath}

で定める. 外接円の半径を$R$とする.

\begin{displaymath}
\vert\overrightarrow{\mathrm{OA}}\vert=
\vert\overrightarrow{\mathrm{OB}}\vert=
\vert\overrightarrow{\mathrm{OC}}\vert=R
\end{displaymath}

である.

\begin{eqnarray*}
\overrightarrow{\mathrm{AH'}}
\cdot\overrightarrow{\mathrm{B...
...mathrm{OB}}\vert^2
-\vert\overrightarrow{\mathrm{OC}}\vert^2=0
\end{eqnarray*}


\begin{displaymath}
∴\quad \mathrm{AH'}\bot\mathrm{BC}
\end{displaymath}

同様に

\begin{displaymath}
\mathrm{BH'}\bot\mathrm{CA},\
\mathrm{CH'}\bot\mathrm{AB}
\end{displaymath}

も成立するので,各頂点から対辺への垂線は1点$\mathrm{H'}$で交わる. つまり点$\mathrm{H'}$ $\bigtriangleup \mathrm{ABC}$の垂心である. この結果

\begin{displaymath}
\overrightarrow{\mathrm{OH}}=
\overrightarrow{\mathrm{OA}}+
\overrightarrow{\mathrm{OB}}+
\overrightarrow{\mathrm{OC}}
\end{displaymath}

となる.

     線分$\mathrm{AH}$の中点を$\mathrm{L}$, 辺$\mathrm{BC}$の中点を$\mathrm{M}$, 直線$\mathrm{AH}$と辺$\mathrm{BC}$の交点を$\mathrm{K}$ とする.

\begin{eqnarray*}
&&\overrightarrow{\mathrm{DL}}=
\overrightarrow{\mathrm{OL}}...
...tarrow{\mathrm{OH}}
=-\dfrac{1}{2}\overrightarrow{\mathrm{OA}}
\end{eqnarray*}

である.したがって

\begin{displaymath}
\mathrm{L},\ \mathrm{D},\ \mathrm{M}
\end{displaymath}

は1直線上にあり,かつ

\begin{displaymath}
\mathrm{DL}=\mathrm{DM}=\dfrac{R}{2}
\end{displaymath}

である. ゆえに $\mathrm{L},\ \mathrm{M}$は点$\mathrm{D}$を中心とし, 半径が$\dfrac{R}{2}$の円周上ある. さらに線分$\mathrm{LM}$はこの円の直径である. また,

\begin{displaymath}
\mathrm{LK}\bot\mathrm{MK}
\end{displaymath}

なので,点$\mathrm{K}$は直径の両端とのなす角が直角となり, 点$\mathrm{K}$もこの円周上にある.

この3点の組について示されたことは, 他の3点ずつの2組についても成立する.

中心と半径はいずれも同じなので,題意の9個の点は, 点$\mathrm{D}$を中心とする 半径$\dfrac{R}{2}$の円周上に存在することが示された. □

南海  これでよい.

フォイエルバッハの定理


南海  さてこの九点円に内接円や傍接円が接するという フォイエルバッハの定理の証明に進もう. あらためてフォイエルバッハの定理をまとめる.

定理 2 (フォイエルバッハの定理)
     $\bigtriangleup \mathrm{ABC}$の外心を$\mathrm{O}$,内心を$\mathrm{I}$とする. $\bigtriangleup \mathrm{ABC}$の九点円は $\bigtriangleup \mathrm{ABC}$の内接円と内接円を内に内接し, 三つの傍接円と外接する.

フォイエルバッハが1822年に証明したものである. このフォイエルバッハは『キリスト教の本質』等の著者である有名なフォイエルバッハの兄弟である. 欧州はフランス革命の後であり,今日に続く思想が生まれた時代である. この時代は日本でいえば江戸時代文政年間,幕藩体制の矛盾は大きくなっていたが,まだ討幕運動には至らないときであった.

今回はこの事実を三通りの方法で証明し,さらに接点を特徴づけていこう. 幾何の論証はこの半世紀,高校ではあまり教えられなくなった. この分野は19世紀に大きく展開され,膨大な蓄積があるが, それが受け継がれなくなっていくのはたいへん惜しい. だからできるだけ最近の高校生にわかりやすくやってみたい.


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