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十二点球と一般化

2020.8.20/2020.8.9
PDFで確認のこと.

一般化について

太郎  『数学対話』の「九点円の不思議」,「特別な四面体」や「線型幾何と四面体」を読みました.
半径 $ R $ の円に内接する三角形では, \[ 頂点と垂心の中点3点,\ \quad 各辺の中点3点,\ \quad 頂点から対辺へ下ろした垂線の足3点 \] この9点が,外心と垂心の中点を中心とする半径 $ \dfrac{1}{2}R $ の円周上にある. これについては「九点円の不思議」にあります.
次に3次元の四面体の場合です.
対辺が直交する直辺四面体 $ \mathrm{ABCD} $ では次のことが成り立ちます.
(i) 各辺の中点6点と,各頂点からの共通垂線の足6点の12点は同一球面上にある. これを第1種の十二点球という. (1881年,Lewis,Temperley)
(ii) 各面の重心4点,各頂点から対面への垂線の足4点, 頂点と垂心を$2:1$に内分する点4点の12点は同一球面上にある. これを第2種の十二点球という. (1863年,Prouhet)
直辺四面体でないときを考えました. (i)は,2頂点から他の2頂点で定まる辺への垂線の足が一致するとはかぎらないので,一般の四面体では成り立ちません.
南海 それに対して,(ii)は垂心がない四面体の場合,垂心に代えてモンジュ点に変えると成立することがあり得る.
それは一般の次元でも成り立つことが期待できる.
これを考えてゆこう.

モンジュ点

南海  $ n $ 次元のユークリッド空間を基礎としよう. これは距離空間であるから,ある定点からの距離が等しい点の集合として球が定まる. これを超球といおう.
太郎  それでゆくと, $ n $ 次元空間で,1つの1次方程式で定まる領域を超平面といい, $ n+1 $ 個の互いに平行でない超平面で定まる立体を $ n+1 $ 面体ということに統一すればいいです. これはまた,超面体ともいえます.
南海  1次方程式の定数以外の係数でできるベクトルが,それが定める超平面の法線方向となる. つまり超平面に直交する方向が定まる.したがって,逆に外部の点を通りその超平面に直交する法線が定まる.
これらを確認したうえで,「特別な四面体」にある命題を,一般の $ n+1 $ 面体の命題として取りあげよう. $ n+1 $ 個の頂点を $ \mathrm{A}_i\ (1\leqq i \leqq n+1) $ としよう.
$ \mathrm{O} $ を超面体の外心とする. 外心の存在証明は,「特別な四面体」の中にある.このとき, \[ \overrightarrow{\mathrm{OM}} =\dfrac{1}{n-1}\sum_{i=1}^{n+1}\overrightarrow{\mathrm{OA}_i} \] で定まる点をモンジュ点という.
太郎  $ n=2 $ のときはまさに三角形の垂心ですね.
また, $ n=3 $ のときは, \[ \overrightarrow{\mathrm{OM}} =\dfrac{1}{2}\sum_{i=1}^{4}\overrightarrow{\mathrm{OA}_i} \] で,垂心のある四面体の場合は,これが垂心となります. 「特別な四面体」にあります.

ところで,モンジュ点の特徴づけは, \[ 四面体の辺の中点を通り,対辺と直交する6面はモンジュ点を共有する. \] でした.この証明は「線型幾何と四面体」にあります.次のように簡明に示せます.
四面体 $ \mathrm{ABCD} $ の外心を $ \mathrm{O} $ とし, $ \overrightarrow{\mathrm{OA}}=\overrightarrow{a} $ , $ \overrightarrow{\mathrm{OB}}=\overrightarrow{b} $ , $ \overrightarrow{\mathrm{OC}}=\overrightarrow{c} $ $ \overrightarrow{\mathrm{OD}}=\overrightarrow{d} $ とする. $ \overrightarrow{x}=(x,\ y,\ z)$とする. 各辺の中点を通り,対辺の方向ベクトルを法線方向とする6平面のベクトル方程式は次のようになる. \[ \begin{array}{ll} \left(\overrightarrow{a}-\overrightarrow{b} \right) \cdot\left(\overrightarrow{x}-\dfrac{\overrightarrow{c}+\overrightarrow{d}}{2} \right)=0,\ & \left(\overrightarrow{a}-\overrightarrow{c} \right) \cdot\left(\overrightarrow{x}-\dfrac{\overrightarrow{b}+\overrightarrow{d}}{2} \right)=0,\ \\ \left(\overrightarrow{a}-\overrightarrow{d} \right) \cdot\left(\overrightarrow{x}-\dfrac{\overrightarrow{b}+\overrightarrow{c}}{2} \right)=0,\ & \left(\overrightarrow{b}-\overrightarrow{c} \right) \cdot\left(\overrightarrow{x}-\dfrac{\overrightarrow{a}+\overrightarrow{d}}{2} \right)=0,\ \\ \left(\overrightarrow{b}-\overrightarrow{d} \right) \cdot\left(\overrightarrow{x}-\dfrac{\overrightarrow{a}+\overrightarrow{c}}{2} \right)=0,\ & \left(\overrightarrow{c}-\overrightarrow{d} \right) \cdot\left(\overrightarrow{x}-\dfrac{\overrightarrow{a}+\overrightarrow{b}}{2} \right)=0 \end{array} \] \[ |\overrightarrow{a}|= |\overrightarrow{b}|= |\overrightarrow{c}|= |\overrightarrow{d}| \] なので,この四面体のモンジュ点 \[ \overrightarrow{\mathrm{OM}}=\dfrac{1}{2}\left(\overrightarrow{a}+\overrightarrow{b}+\overrightarrow{c}+\overrightarrow{d} \right) \] は,この6式をすべて満たす.つまり6平面はモンジュ点を共有する.

$ n $ 次元となった場合,この特徴づけはどのようになるのでしょうか.
南海  これは次のようになるだろう.

$ n $ 次元空間内の $ n+1 $ 面体から2個の頂点 $ \mathrm{A}_i,\ \mathrm{A}_j $ をとる. この2点を除く $ n-1 $ 個の頂点で定まる $ n-1 $ 面体の重心を通り, 辺 $ \mathrm{A}_i\mathrm{A}_j $ と直交する $ n $ 次元の超平面は, 1点を共有する.
外心を $ \mathrm{O} $ として, $ \overrightarrow{\mathrm{OA}_i}=\overrightarrow{a}_i $ のように書けば, 方程式は \[ \left(\overrightarrow{a_i}-\overrightarrow{a_j} \right)\cdot \left(\overrightarrow{x}-\dfrac{1}{n-1}\sum_{k \ne i,\ j}\overrightarrow{a}_k \right)=0 \] となり, モンジュ点$\overrightarrow{\mathrm{OM}}$はこの方程式を満たす.

いくつかの命題

南海  このモンジュ点に関して次の命題が成り立つ.

命題1  $ n $ 次元空間に $ n+1 $ 面体 $ \mathrm{A}_1\mathrm{A}_2\cdots\mathrm{A}_{n+1} $ がある. その外心を $ \mathrm{O} $ ,モンジュ点を $ \mathrm{M} $ ,外接球の半径を $ R $ とする.
1) 頂点 $ \mathrm{A}_1,\ \mathrm{A}_2,\ \cdots,\ \mathrm{A}_{n+1} $ から1点を除いた他の $ n $ 個の頂点で定まる $ n-1 $ 次空間内にある $ n $ 面体の重心 $ n+1 $ 点,
2) 線分$ \mathrm{A}_i\mathrm{M} $ をそれぞれ $ n-1:1 $ に内分する $ \mathrm{E}_i $,
3) 点 $ \mathrm{M} $ から1)で定めた $ n $ 面体への垂線の足,
の$3(n+1)$点は半径$\dfrac{1}{2}R$の球面上にある. ■

証明  $ \mathrm{E}_1 $ と面 $ \mathrm{A}_2\cdots\mathrm{A}_{n+1} $ の重心 $ \mathrm{G}_1 $ との中点を $ \mathrm{E} $ とする. \[ \overrightarrow{\mathrm{OE}}= \dfrac{1}{2}\left\{ \dfrac{1}{n}\overrightarrow{\mathrm{OA}_1}+\dfrac{n-1}{n}\overrightarrow{\mathrm{OM}} +\dfrac{1}{n}\left(\overrightarrow{\mathrm{OA}_2}+\cdots+\overrightarrow{\mathrm{OA}_{n+1}}\right) \right\} =\dfrac{1}{n}\sum_{i=1}^{n+1}\overrightarrow{\mathrm{OA}_i} \] である. $ \mathrm{E} $ は各頂点にに関して対称なので, $ \mathrm{A}_i $ と対応する重心 $ \mathrm{G}_i $ に関しても2点の中点である. そして $ \mathrm{E} $ と各の重心との距離はいずれも $ \dfrac{1}{n}R $ で相等しいので, これら $ 2(n+1) $ 点は $ \mathrm{E} $ を中心とし,半径 $ \dfrac{1}{n}R $ の球面 $ S_1 $ 上にある.
$ \mathrm{A}_1 $ から面 $ \mathrm{A}_2\cdots\mathrm{A}_{n+1} $ への垂線の足を $ \mathrm{H}_1 $ とすると,球の直径が $ \mathrm{E}_1\mathrm{G}_1 $ であり, 垂心の定義から $ \mathrm{E}_1\mathrm{H}_1\bot\mathrm{G}_1\mathrm{H}_1 $ なので, $ \mathrm{H}_1 $ もこの球面 $S_1 $ 上にある.
以上から,各 $ n+1 $ 点ずつ $ 3(n+1) $ 個の点はEを中心とする半径 $ \dfrac{1}{n}R $ の球面上にある. □

これが「特別な四面体」にある第2種の十二点球の一般化である.
太郎  $ n $ 次元にしたという意味で一般化であり, さらに直辺四面体ではなく一般の $ n+1 $ 面体で成り立つという意味でも 一般化です.
また, $ n=2 $ のときは, $ \mathrm{M} $ は垂心で,2面体とは辺で,その重心は中点となるので, 九点円そのものです.

南海  $ n=3 $ のときでいえば,垂心をモンジュ点に置きかえることで一般の四面体で成り立つことが重要だ.

次の命題はかたつむりさんが$n=3$の場合について,掲示板に投稿されたものである. これを,$n$次元にして紹介する.

命題2 超面体の頂点を $ \mathrm{A}_i\ (1\leqq i \leqq n+1) $ とする. 外心を $ \mathrm{O} $ ,モンジュ点を $ \mathrm{M} $ とする. また, $ \mathrm{OM} $ を $ n-1:1 $ に内分する点を $ \mathrm{Q} $ とする. 超面体の外接球の半径を $ R $ とする. このとき,

1) 超面体の各面の重心
2) 線分 $ \mathrm{A}_i\mathrm{M} $ をそれぞれ $ n-1:1 $ に内分する点 $ \mathrm{E}_i\ (1\leqq i \leqq n+1) $
3) 2)の $ \mathrm{E}_i $ から, $ k=i $ をのぞく $ n $ 個の頂点 $ \mathrm{A}_k\ (1\leqq k \leqq n+1,\ k \ne i) $ からなる $ n $ 面体に下ろした垂線の足 $ \mathrm{K}_i $ .
からなる $ 3(n+1) $ 個の点は,点 $ \mathrm{Q} $ を中心とする半径 $ \dfrac{1}{n}R $ の球面 $ S_2 $ 上にある. ■

証明 \[ \overrightarrow{\mathrm{OQ}}=\dfrac{n-1}{n}\overrightarrow{\mathrm{OM}}= \dfrac{1}{n}\sum_{i=1}^{n+1}\overrightarrow{\mathrm{OA}_i} \] である.また, \[ \overrightarrow{\mathrm{OG}_i}= \dfrac{1}{n}\sum_{k\ne i}\overrightarrow{\mathrm{OA}_k} \] であるから, \[ \overrightarrow{\mathrm{OG}_i}-\overrightarrow{\mathrm{OQ}} =-\dfrac{1}{n}\overrightarrow{\mathrm{OA}_i} \] より, $ \left|\overrightarrow{\mathrm{OG}_i}-\overrightarrow{\mathrm{OQ}} \right|=\dfrac{1}{n}R $ となり, 超面体の各面の重心は $ S_2 $ 上にある. 次に, \[ \overrightarrow{\mathrm{OE}_i} =\dfrac{1}{n}\overrightarrow{\mathrm{OA}_i}+\dfrac{n-1}{n}\overrightarrow{\mathrm{OM}} =\dfrac{1}{n}\overrightarrow{\mathrm{OA}_i}+\overrightarrow{\mathrm{OQ}} \] より, \[ \overrightarrow{\mathrm{OE}_i}-\overrightarrow{\mathrm{OQ}} =\dfrac{1}{n}\overrightarrow{\mathrm{OA}_i} \] より, $ \left|\overrightarrow{\mathrm{OE}_i}-\overrightarrow{\mathrm{OQ}} \right|=\dfrac{1}{n}R $ となり, 超面体の各面の重心は $ S_2 $ 上にある.
また, \[ \overrightarrow{\mathrm{OG}_i}-\overrightarrow{\mathrm{OQ}}=-\left( \overrightarrow{\mathrm{OE}_i}-\overrightarrow{\mathrm{OQ}} \right) \] より, $ \mathrm{E}_i\mathrm{G}_i $ は $ S $ の直径であり, $ \mathrm{G}_i $ と $ \mathrm{E}_i $ は $ k=i $ をのぞく $ n $ 個の頂点 $ \mathrm{A}_k\ (1\leqq k \leqq n+1,\ k \ne i) $ からなる $ n $ 面体にあり, \[\mathrm{E}_i\mathrm{K}_i \bot \mathrm{G}_i\mathrm{K}_i \] より, $ \mathrm{K}_i $ も $ S_2 $ 上にある. □

※ 四面体と球に関して何かさらにわかれば追記してゆきたい.



Aozora 2020-08-9