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一次変換を見る

2005.9.11

一次変換は平面全体の変換だ

南海  今日は一次変換を目で見てみよう.
一次変換は平面全体を平面に移す変換だ. 個別の点や図形の行き先を見るだけではわかりにくい. そのために,平面上の各点について, それが一次変換でどの点に移るのかを図示するのだ.

拓生  図示といっても,平面の点は無数にあります.

南海  もちろんそうだ. それで格子点,つまり座標が整数である点について, その点と行き先とを線分で結んでいくのだ. $ A= \left( \begin{array}{cc} a&b\\ c&d \end{array} \right) $ とすれば, 格子点 $ (x,\ y) $ と $ (ax+by,\ cx+dy) $ を結んでいくのだ. これは点 $ (x,\ y) $ が点 $ (ax+by,\ cx+dy) $ に移るとも考えられるし, ベクトル $ (x,\ y) $ がベクトル $ (ax+by,\ cx+dy) $ に移るとも考えられる.

拓生  それでもたくさんあります.計算はたいへんです.

南海  そこで,プログラムだ.これはBASICの一番簡単な応用だ. ここでは文教大学の白石和夫先生が作られた十進BASICを使った.フリーソフトなので,手元のパソコンですぐに利用できる. プログラムは

SET WINDOW -10,10,-10,10
INPUT PROMPT "a,b,c,d=":a,b,c,d
FOR M=-10 TO 10 STEP 1
FOR N=-10 TO 10 STEP 1
SET AREA COLOR 4
DRAW disk WITH SCALE(0.05)*SHIFT(M,N)
DRAW circle WITH SCALE(0.15)*SHIFT(a*M+b*N,c*M+d*N)
PLOT LINES: M ,N ; a*M+b*N,c*M+d*N
NEXT N
NEXT M
END

で終わり. これは,始点を赤の点「・」で,終点を小円「○」にとり, それを線分で結んだものが得られる.

固有方程式が2実解の場合

拓生  早速, $ a=2,\ b=1,\ c=1,\ d=1 $ を代入してみました.

なるほど. 2つの方向が見て取れます. この直線上の点は同じ直線上の点に移るようです. 図に描き入れてみます.

南海  この方向はどのようにして求めるのだったか.

拓生  それが固有値と固有ベクトルです. 行列 $ A $ を $ A= \left( \begin{array}{cc} a&b\\ c&d \end{array} \right) $ とする. \[ A\overrightarrow{u}=t\overrightarrow{u} \] となるベクトルが固有ベクトルです. つまり \[ \left( \begin{array}{cc} a-t&b\\ c&d-t \end{array} \right) \] です, このようなベクトル $ \overrightarrow{u} $ で 零ベクトルでないものが存在するためには 左辺の行列 $ \Delta $ が0,つまり \[ (a-t)(d-t)-bc=0 \] です.これを整理すると \[ t^2-(a+d)t+ad-bc=0 \]

南海  これを固有方程式という.

拓生  今の場合 \[ t^2-3t+1=0 \] これを解いて \[ t=\dfrac{3\pm\sqrt{5}}{2} \] です. \[ \left( \begin{array}{cc} a-t&b\\ c&d-t \end{array} \right) = \left( \begin{array}{cc} \frac{1\mp\sqrt{5}}{2}&1\\ 1&\frac{-1\mp\sqrt{5}}{2} \end{array} \right) \] ですから固有ベクトルとして例えば \[ \overrightarrow{u}= \left( \begin{array}{c} 1\mp\sqrt{5}\\ 2 \end{array} \right) \] がとれます.実際 \[ \left( \begin{array}{cc} 2&1\\ 1&1 \end{array} \right) \left( \begin{array}{c} 1\mp\sqrt{5}\\ 2 \end{array} \right) =\dfrac{3\pm\sqrt{5}}{2} \left( \begin{array}{c} 1\mp\sqrt{5}\\ 2 \end{array} \right) \] この方向が2本直線の方向なのですね.

南海  今は方程式 \[ t^2-(a+d)t+ad-bc=0 \] が異なる2実解をもった. これが他の場合にどのようになるかを見ていこう.

重解の場合

南海  \[ A= \left( \begin{array}{cc} 3&-1\\ 1&1 \end{array} \right) \] ではどうか.

拓生  このとき固有方程式は \[ t^2-4t+4=0 \] で重解です.やってみます.

このようなとき行列の対角化はどうなるのだろう.

南海  それはまた,『線型代数入門』に書く予定だ.それを見てほしい. 今は例を作ってみよう.

虚数解の場合

南海  \[ A= \left( \begin{array}{cc} 1&2\\ -1&2 \end{array} \right) \] ではどうか.

拓生  このとき固有方程式は \[ t^2-3t+4=0 \] で虚数解です.やってみます.

これは渦巻きのように見えます.

南海  虚数解の場合は固定された方向は( $ xy $ 平面上には)存在しない.

回転の場合

南海  \[ A \left( \begin{array}{cc} \cos 60^{\circ}&-\sin 60^{\circ}\\ \sin 60^{\circ}&\cos 60^{\circ} \end{array} \right) \] の近似として \[ \left( \begin{array}{cc} 0.5&-0.87\\ 0.87&0.5 \end{array} \right) \] ではどうか.

拓生  やってみます.

その他の場合
その1

南海  \[ A= \left( \begin{array}{cc} 2&1\\ 3&4 \end{array} \right) \] ではどうか.

拓生  このとき固有方程式は \[ t^2-6t+5=0 \] で,解は $ 1,\ 5 $ です.やってみます.

えっ.

南海  これは一つの固有ベクトルが動かない場合だ. このように1次変換は見ることができる. プログラムを工夫して,遊んでみてほしい.

その2

拓生  \[ A= \left( \begin{array}{cc} 2&1\\ 4&-1 \end{array} \right) \] でやってみました. このとき固有方程式は \[ t^2+t-6=0 \] で,解は $ -3,\ 2 $ と,最初の場合と異なり,固有値が正と負です.

その3

拓生  \[ A= \left( \begin{array}{cc} -4&1\\ -2&-1 \end{array} \right) \] でやってみました. このとき固有方程式は \[ t^2+5t+6=0 \] で,解は $ -3,\ -2 $ と,固有値がともに負です.


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