『高校数学の土台』は, 高校数学の土台であり, 高校数学成立の根拠となっている基礎的な事実を, 掘り下げて考えようとするものです. ここで考えたことをもとに, 日常の言葉からはじめて基礎的な諸概念を再定義していくものを 書きたいと考えています.
『方程式と多項式』は, いわゆる代数学の分野から高校数学を掘りさげたものです. 人間は,文字を導入することで抽象力を飛躍的に高めました. 文字の発明によって,個別の数から解放されて, 数の世界の構造を一般的に考察することができるようになりました. これが代数学です. 高校数学の基本的なねらいは,文字によって考えることができるか, という点にあります. 最後の節は不変式の話で, 19世紀から20世紀の数学への飛躍を語ります.
『数列と行列』は, 線型代数の基礎というべきものです. 線型な関係とは,1次元の場合は比例関係, またはその展開としての1次式で表される関係のことです. 多次元の場合には行列で表現される関係です. 漸化式は線型な差分方程式ですので, 数列もここに入れています. 関連して,相加平均と相乗平均の不等式の一般的な場合のさまざまな証明や, 数列を解析的に考える生成関数もここに入れました.
『座標幾何のひろがり』は, いわゆる幾何の分野から高校数学を掘りさげたものです. 平面に入れられた座標構造によって, 図形の関係を代数的な関係に還元し, 法令式の問題として図形問題を考えるということです. これが第一です. 次に線型幾何,ベクトルを用いた幾何について考える.これが第二です. 第三は,「パスカルの定理」では,軌跡に現れる除外点の意味を考えることから射影幾何に入っていきます.ユークリッド平面から射影平面へ,その発展を考えます.「ポンスレの閉形定理」では,入試問題に現れた閉形定理のすべてを解明するとともに,その過程で現れた四次式の意味を追求し,一般的な証明をめざします. それによって複素射影幾何の立場が打ち出されます. 幾何学の精神は,近代の学のなかで指導的な理念でした. その一端に触れることができれば幸いです.
『微分積分の方法』は,
いわゆる解析学の分野から高校数学を掘りさげたものです.
微分積分の歴史は,アルキメデスやそれ以前の
「取りつくし法」にまでさかのぼれます.
それは今日の積分の始まりともいえます.
近代解析学の方法は,フェルマーやデカルトによって,
曲線の接線を考える上で考え出された微分法にはじまります.
その前提としての座標の導入が必要でした.
ニュートンは,
ケプラーやガリレオがとらえた現象の本質をつかみ力学を確立しました.
微分積分の方法が決定的なものでした.
彼は,微分と積分を統合して,
両者がある意味で逆の関係にあることを見抜きました.
それはアルキメデスの方法からの飛躍でした.
オイラーらによって解析学は大きな進歩を遂げました.
しかし初期には級数の収束性も厳密ではありませんでした.
19世紀に入って,その基盤を洗いなおし,
コーシーやワイエルシュトラウスによって,
微積分学の基礎ができました.
実数の連続性に関するデーデキントやカントールの深い研究は,
実数を特徴付ける条件を見いだしました.
この辺りまでの事々を,
高校数学につながる道筋で考えていこうとするものです.