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固有値と固有ベクトル

南海  線型写像$f$に対して,一組の基底

\begin{displaymath}
\left(
\mathrm{\bf e}_1,\ \mathrm{\bf e}_2,\ \cdots,\ \mathrm{\bf e}_n
\right)
\end{displaymath}

をとると,線型写像$f$には,その基底の像をもとの基底で表したとき

\begin{displaymath}
\left\{
f(\mathrm{\bf e}_1),\ f(\mathrm{\bf e}_2),\ \cdots,\...
...ots\\
a_{n1}&a_{n2}&\cdots&\cdots&a_{nn}
\end{array}\right)
\end{displaymath}

となる行列

\begin{displaymath}
A=
\left(
\begin{array}{ccccc}
a_{11}&a_{12}&\cdots&\cdots...
...ots\\
a_{n1}&a_{n2}&\cdots&\cdots&a_{nn}
\end{array}\right)
\end{displaymath}

が対応するのだった. そこで基底をうまくとって, この行列が対角行列になるようにできないか,という問題が起こる. ただし,対角行列とは,

\begin{displaymath}
a_{ij}=0\quad (i\ne j)
\end{displaymath}

となる行列のことをいう.

耕一  それは

\begin{displaymath}
\left\{
f(\mathrm{\bf e}_1),\ f(\mathrm{\bf e}_2),\ \cdots,\...
...\cdots&\cdots\\
0&0&\cdots&\cdots&a_{nn}
\end{array}\right)
\end{displaymath}

つまり

\begin{displaymath}
f(\mathrm{\bf e}_k)=a_{kk}\mathrm{\bf e}_k\quad (k=1,\ 2,\ \cdots,\ n)
\end{displaymath}

となる1次独立な$n$個のベクトルが見つかればいいということですね.

南海  そこで,線型写像$f$に対して

\begin{displaymath}
f(\mathrm{\bf u})=t\mathrm{\bf u}
\end{displaymath} (1.3)

となるベクトル $\mathrm{\bf u}$を, 固有値$t$に対する固有ベクトルという. 固有値と固有ベクトルを具体的に計算するために, 一組の基底が固定され,線型写像が上のように行列で表されているとする.

耕一  すると関係式(1.3)は

\begin{displaymath}
A\mathrm{\bf u}=t\mathrm{\bf u}
\end{displaymath}

となります.

南海  $E$を単行列とすれば

\begin{displaymath}
(A-tE)\mathrm{\bf u}=\mathrm{\bf0}
\end{displaymath}

である.零ベクトルでない解 $\mathrm{\bf u}$が存在するためには,行列式

\begin{displaymath}
\vert A-tE\vert=
\left\vert
\begin{array}{ccccc}
a_{11}-t&...
...a_{n1}&a_{n2}&\cdots&\cdots&a_{nn}-t
\end{array}\right\vert=0
\end{displaymath}

が必要十分な条件である. この行列式は$t$$n$次多項式である. これを固有多項式という.

耕一  $n=2$のとき.

\begin{displaymath}
\left\vert
\begin{array}{cc}
a_{11}-t&a_{12}\\
a_{21}&a_...
...}{cc}
a_{11}&a_{12}\\
a_{21}&a_{22}
\end{array}\right\vert
\end{displaymath}

$n=3$のときは複雑になります.

\begin{eqnarray*}
\left\vert
\begin{array}{ccc}
a_{11}-t&a_{12}&a_{13}\\
a_{...
...}&a_{22}&a_{23}\\
a_{31}&a_{32}&a_{33}
\end{array}\right\vert
\end{eqnarray*}

南海  うまく行列や小行列でまとめた.

耕一  線型写像$f$に対して一組の基底をとり,行列$A$を定め, それによって固有多項式ができました. 基底のとり方をかえれば多項式は変わるのですか.

南海  基底のとり方をかえれば,対応する行列は

\begin{displaymath}
P^{-1}AP
\end{displaymath}

に変わる.このとき

\begin{eqnarray*}
\vert P^{-1}AP-tE\vert&=&\vert P^{-1}AP-tP^{-1}P\vert\\
&=&\v...
...ert P^{-1}\vert\vert A-tE\vert\vert P\vert\\
&=&\vert A-tE\vert
\end{eqnarray*}

なので,固有多項式は変わらない.つまり固有多項式は線型写像によって定まる. それでこれ以降,固有多項式を$P_f(t)$のように表すことにする. すると既に見たように,$n$次方程式

\begin{displaymath}
P_f(t)=0
\end{displaymath}

の根$\alpha$に対して

\begin{displaymath}
f(\mathrm{\bf u})=\alpha\mathrm{\bf u}
\end{displaymath}

となるベクトル $\mathrm{\bf u}$が存在する.

これが固有値$\alpha$に対応する固有ベクトルである.

定理 5
線型写像$f$の固有多項式を$P_f(t)$とする.$n$次方程式

\begin{displaymath}
P_f(t)=0
\end{displaymath}

に異なる0でない根 $\alpha_1,\ \alpha_2,\ \cdots,\ \alpha_m\ (m \ge 2)$ があるとき,それらの根に対応する固有ベクトル

\begin{displaymath}
\mathrm{\bf u}_1,\ \mathrm{\bf u}_2,\ \cdots,\ \mathrm{\bf u}_m
\end{displaymath}

は一次独立である.

証明

$m$についての数学的帰納法で示す.

$m=2$のとき. $\mathrm{\bf u}_1,\ \mathrm{\bf u}_2$が一次従属なら

\begin{displaymath}
\mathrm{\bf u}_2=k\mathrm{\bf u}_1
\end{displaymath}

となる0でない数$k$がある.ところが

\begin{eqnarray*}
f(\mathrm{\bf u}_2)&=&f(k\mathrm{\bf u}_1)\\
&=&kf(\mathrm{\b...
...bf u}_1\\
&=&\alpha_1k\mathrm{\bf u}_1=\alpha_1\mathrm{\bf u}_2
\end{eqnarray*}

となり,ベクトル $\mathrm{\bf u}_2$の固有値が$\alpha_1$となる. これは $\alpha_1\ne \alpha_2$に反する.

$m-1$のとき成立するとし,$m$のときも成立することを示す. ここで,

\begin{displaymath}
\mathrm{\bf u}_1,\ \mathrm{\bf u}_2,\ \cdots,\ \mathrm{\bf u}_m
\end{displaymath}

は一次従属であるとする. するとベクトル $\mathrm{\bf u}_m$は, すべては0ではない係数 $h_j\ (j=1,\ 2,\ \cdots,\ m-1)$を用いて

\begin{displaymath}
\mathrm{\bf u}_m=\sum_{j=1}^{m-1}h_j\mathrm{\bf u}_j
\end{displaymath}

と他の$m-1$個のベクトルで表される.

\begin{displaymath}
f(\mathrm{\bf u}_m)=\sum_{j=1}^{m-1}h_jf(\mathrm{\bf u}_j)
\end{displaymath}

より

\begin{displaymath}
\alpha_m\mathrm{\bf u}_m=\sum_{j=1}^{m-1}h_j\alpha_j\mathrm{\bf u}_j
\end{displaymath}

これから

\begin{displaymath}
\alpha_m\left(\sum_{j=1}^{m-1}h_j\mathrm{\bf u}_j \right)
=\sum_{j=1}^{m-1}h_j\alpha_j\mathrm{\bf u}_j
\end{displaymath}

数学的帰納法の仮定から

\begin{displaymath}
\mathrm{\bf u}_1,\ \mathrm{\bf u}_2,\ \cdots,\ \mathrm{\bf u}_{m-1}
\end{displaymath}

は一次独立である. したがって

\begin{displaymath}
\alpha_mh_j=h_j\alpha_j \ (j=1,\ 2,\ \cdots,\ m-1)
\end{displaymath}

$h_j$のうちには0でないものが存在するので, $\alpha_1,\ \alpha_2,\ \cdots,\ \alpha_m\ (m \ge 2)$がすべて異なることとに反する. ゆえに

\begin{displaymath}
\mathrm{\bf u}_1,\ \mathrm{\bf u}_2,\ \cdots,\ \mathrm{\bf u}_m
\end{displaymath}

は一次独立である. $m$で成立したので,定理が示された.□


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