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はじめに

島崎藤村晩年の作品『夜明け前』は、未解決の問題に正面から立ち向かった歴史小説である。主人公の青山半蔵は藤村の実父を原型とする。藤村が『夜明け前』で追求した問題はすべて今日に開かれた問題である。

本稿は、「『夜明け前』を読む」として二〇〇四年に制作し、青空学園日本語科においていたものに、それからの十二年の世の変転をふまえて加筆したものである。

この十二年間の変転をふり返るなら、まず二〇〇八年、世界的な経済危機が起こった。これは、拡大を旨とする資本主義が、地球の有限性のゆえにもはや拡大し得ず、歴史が次の段階を求めているという事実を教えている。

そして、二〇一一年三月一一日、東京電力福島第一原子力発電所の核惨事が起こり、今日に続いている。これは、明治維新にはじまる近代日本の問題が集中した人災そのものであった。

さらに、二〇一五年、西洋世界の難民問題が表に現れた。これは、八百年におよぶ西洋の非西洋に対する収奪の結果として社会的な基盤が崩れた地域からの、生きるための大移動であり、かつてのゲルマン民族大移動と同様、旧世界を大きく揺り動かしている。

世界はいま大きな転換期にある。歴史の現在から、もういちど島崎藤村の『夜明け前』を読みなおす。


AozoraGakuen
2017-03-01