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あやしい

あやしい(怪しい)[ayasii]←[ayasi]

◯「誤る」「過ち」の[aya]と同根。[aya]はなぜそうなるのかわからないこと。そのようなことに直面したとき、そのことを「あやしい」と言う。

◆古くは人知のおよばないことに対して、素直に感嘆する気持ちで霊妙や神秘の意味で用いられた。それを解明したいという感情も含んでいた。そこからさらに、ことわりを逸脱しているという否定の感情をも意味する。さらに中古以降は,理解しがたいと見下す感情も表すようになる。

※タミル語<ayy-am>由来。疑い、不確実、あやふや、懐疑。

▼何かわからないが、神秘的で心ひかれる。 ▽人の知恵でははかれないような不思議さである。神秘的、霊妙である ◇『万葉集』四〇〇三「(立山は)巌の神さび たまきわる 幾代経にけむ 立ちて居て 見れども安夜之(アヤシ)」 ◇『古今集』仮名序「又山の辺の赤人といふ人ありけり。歌にあやしくたへなりけり」

▼いぶかしい。 ▽正体のはっきりしないことに対して持つ奇異な感情。物の正体、物事の真相、原因、理由などがわからなくていぶかしい。 ◇「あやしい飛行物体」 ◇『万葉集』一七四〇「墨吉に 還り来りて 家見れど あやしと そこに思はく」 ◇『枕草子』二六八「いと清げなる人を捨てて、にくげなる人を持たるもあやしかし」

▽通常と異なっている。尋常でない。 ◇『伊勢物語』「なさけあるひとにて、瓶に花をさせり。その花の中に、あやしき藤の花ありけり。花のしなひ、三尺六寸はかりなむありける」」

▽道理や礼儀にはずれていて不都合である。けしからん。よくない。乱雑だったり、粗末だったりして見苦しい。 ◇『枕草子』二八「遣戸をあらくたてあくるもいとあやし」 ◇『土左日記』「酔ひあきて、いとあやしく潮海のほとりにてあざれあへり」

▽身分が低い。素姓がはっきりしない。いやしい。 ◇『枕草子』四一「まかでてきけば、あやしき家の、見どころもなき梅の木などには、かしがましきまでぞ鳴く」 ◇『徒然草』一〇九「あやしき下揩ネれども、聖人のいましめにかなへり」

▽十分信頼できない状態である。疑わしい。おぼつかない。 ◇「できるかどうかあやしい」 ◇「あの男が怪しい」 ◇「天気があやしくなる」