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いく・ゆく

いく・ゆく(行く、往く、逝く)[iku]・[yuku]

◯心[kokoro]のはたらきをもって、今いるところ[tokoro]から、或る方[kata]へ動いてうつる。「さる(去る)」が人の意に関わりなくうつることをいうのに対し、「いく・ゆく」は、うつるものに意志がある。

※「いく」と「ゆく」は母音交替した同じ言葉。上代は「ゆく」が圧倒的に多い。 「いく」はタミル語<eku>(行く、通る、歩く)起源。

▼目的をもって、出かける。移動する。通り過ぎる。目的地に進む。

◇『古事記』歌謡九〇「家にも由加め国をも偲はめ」 ◇『万葉集』八九〇「出でて由伎(ユキ)し日を数へつつ」 ◇『万葉集』三四九六「心うつくしいで吾(あれ)は伊可(イカ)な」 ◇『万葉集』四三七四「天地の神を祈りて征箭貫き筑紫の島をさして伊久(イク)われは」 ◇『蜻蛉日記』上「まだ暗きよりいけば」 ◇『蜻蛉日記』中「ゆきかふ舟ども、帆をひきあげつついく」 ◇『古事記』中・歌謡「蒜摘みに我が由久(ユク)道の」 ◇『万葉集』七九五「家に由伎(ユキ)ていかにか吾(あ)がせむ」 ◇「コンサートに行く」「旅行に行く」 ◇「道行く人々」 ◇『古事記』中・歌謡「海処(うみが)由気(ユケ)ば腰泥(なづ)む」 ◇『源氏物語』空蝉「小君、かしこにいきたれば」

▽水が流れうつる。風が吹き通る。 ◇『日本書紀』清寧二年・歌謡「稲むしろ川そひやなぎ水愈凱(ユケ)ば靡き起き立ち」 ◇『万葉集』四〇一一「由久川の清き瀬ごとに篝さし」 ◇『万葉集』二四五九「わが背子が浜行く風のいや急(はや)に急事なさばいや逢はざらむ」 ◇『方丈記』「ゆく河の流れは絶えずして」

▽道が通る。 ◇『万葉集』二三四「三笠山野辺ゆ遊久(ユク)道」

▽年月が過ぎ去る。また、年をとる。ある年齢に達する。 ◇『万葉集』二二四三「秋山に霜降り覆ひ木の葉散り年は行くともわれ忘れめや」 ◇「行く年を惜しむ」 ◇『東大寺諷誦文平安初期点』「歳去(ユケ)ば形も衰ぬ」

▽亡くなり、また嫁いだりして、いなくなる。 ◇『万葉集』三七八九「あしひきの山縵の児今日ゆくとわれに告げせば還り来ましを」」 ◇『古今集』八六一「つひにゆくみちとはかねてききしかどきのふけふとはおもはざりしを」 ◇『大慈恩寺三蔵法師伝承徳三年点』九「已に遊(ユケ)る魂上帝に招かれ」 ◇『大慈恩寺三蔵法師伝承徳三年点』九「姉一人有り。羸州の張民に適(ユケ)り」

▼あることがなる。何かがとどく。 ◇『源氏物語』賢木「わりなき御心まどひどもに、なかなかこともゆかぬにや」 ◇「手紙(連絡)が行く」 ◇「損(得)がいく」 ◇「満足(納得)がいく」 ◇「うまく(簡単に)いく」「そうはいかないよ」 ◇「二進(にっち)も三進(さっち)もゆかない」 ◇『愚管抄』三「万機の沙汰のゆかぬやうになるとき」

▽手段、方法についていう。 ◇「この手でいこう」「押しの一手でいく」

▽こころの意図が達せられ満足する。 ◇「心ゆくまで」 ◇『万葉集』四六六「花そ咲きたるそを見れど情(こころ)も行(ゆか)ず」 ◇『仮・昨日は今日の物語』上「色々案じても合点ゆかず」