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かく(掻く)

かく(掻く、書く)[kaku]

◯「かく」はもののおもてに、何かの意図のもとに、他のものをこすりつけ、食いこませたり削ったりすること。またその結果得られた状態。

◆この言葉は次のように分化した。

物を他の物に食いこませたり、固定したりして、そこに重みのあるものをぶら下げること。その他動詞が「かく(掛く)」、現代では「かける(掛ける)」。自動詞が「かかる(掛かる)」。そこからさらに多くの意味が派生した。

先のとがった物で物の表面を削るようにこすること。またその類似の行為。このときは「かく(掻く)」を宛てる。土器に図形を入れるためにその表面を爪や道具でひっかいて食いこませること。そこから、筆で紙に墨を置き、その形で字を表すことへと展開した。このときは「かく(書く、描く)」を宛てる。

※この二語は現在では分化しているので、見出しを分ける。

※タミル語<kokki>由来。

▼手、爪、またはそれに似た道具でものの表面をこすったりする。

▽爪を立てる。 ◇「かゆいのでおもわず掻いてしまった」 ◇『万葉集』九九三「月立ちてただ三日月の眉根掻(かき)気(け)長く恋ひし君に逢へるかも」 ◇『万葉集』二五七五「めづらしき君を見むとこそ左手の弓執る方の眉根(まよね)掻きつれ」

▽腕や手首を上下、または左右に動かす。また、鳥が羽を上下に動かす。 ◇「水を掻いて泳ぐ」 ◇『西大寺本金光明最勝王経平安初期点』二「其の身手を運(カキ)、足を動かし」

▽左右へ押し分ける。 ◇『万葉集』一五二〇「朝凪にい可伎(カキ)渡り 夕潮に い漕ぎ渡り」

▽櫛(くし)で髪をすく。くしけずる。 ◇『万葉集』四一〇一「朝寝髪可伎(カキ)もけづらず」

▽琴の弦をこするようにしてひく。弾じる。 ◇『古事記』下・歌謡「琴に作り加岐(カキ)ひくや」

▽(爪を立てるようにして)物にとりつく。かじりつく。 ◇『古事記』下・歌謡「倉梯山を嶮(さが)しみと岩迦伎(カキ)かねて」

▽物をけずる。刃物を手前に動かして切り取る。 ◇「かつおぶしをかく」 ◇『平家物語』九「頸をかかんと甲(かぶと)をおしあふのけて」

▽熊手などで、集め寄せる。 ◇『俳・曠野』七「落ばかく身はつぶね共ならばやな」

▽箸などを手前に動かして食物を口に入れる。 ◇『平家物語』八「猫殿は小食におはしけるや。きこゆる猫おろしし給ひたり。かい給へ」

▽田畑などを耕やす。すきかえす。 ◇「代をかく」

▽粉などを水に入れてこねまぜる。 ◇「からし(粉)をかく」

▽払いのける。 ◇『玉葉』五八〇「頃もうし初かりがねの玉章にかきあへぬものは涙なりけり」

▽(かきよせるように)報酬として、または、賭け事で金を取る。 ◇『浄・冥途の飛脚』二「高駄賃かくからは」

▼形や音に現わす。 ▽(汗、いびきなどを)からだの外に出す。 ◇「彼は大きないびきをかく」 ◇『平家物語』五「高いびきをかいて臥したりけるが」

▽(恥や、できものなどを)身に受ける。 ◇「恥をかいた」 ◇『東大寺諷誦文平安初期点「疥(はたけ)掻(カキ)て目所も无く腫れ合ひて」 ◇『平家物語』四「おりのべを一きれもえぬ我らさへ薄恥をかく数に入るかな」

▽(顔つきなどに)ある様子を現わす。 ◇『浄・女殺油地獄』上「お慈悲お慈悲とほゑづらかく」 ◇『雑俳・柳多留』四「小侍女郎の中でべそをかき」

▽ある事をしてやる。また、給金を与える。 ◇『浮・西鶴織留』五「こっちから賃かきて奉公いたすになりぬ」

▽絵や図をえがく。 ◇「図を正確に描こう」 ◇『古事記』中・歌謡「眉画(まよが)き濃(こ)に加岐(カキ)垂れ」

▽文字をしるす。また、文章に作る。著作する。 ◇『万葉集』二四三三「水の上に数書く如きわが命 妹に逢はむと祈誓(うけ)ひつるかも」 ◇『竹取物語』「うちなきてかくことばは」