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きく(聞く、聴く、訊く、利く、効く)[kiku]

◯心をものに向け(あるいは、心をものに向けさせるような何かが起こって)、その結果、ものからことを受けること。

◆何かに意識を傾け、そのものが発した「こと」を受けよう(聞き取ろう)とする行為である。「こと」が届けられるまで待ち、その意味を確認するという態度が根底にある。古くは獲物が来るのを聞き耳を立てて待つ、ということがあった。
さらに、心を向けたとき何かを受け取ることができ手応えがある、というところから、ものの働きがあらわれ現実のものとなること。この意味では「利く」や「効く」を宛てる。

※タミル語<kel>由来。この語は「聞く、聴く、学ぶ、受け入れる、尋ねる」から「(薬の)効能がある」までの意味があり、「きく」に対応している。
※聞き取ろうと待つところに「こと」が届けられることを「音づれ」という。ここから「待つところにやってくる」ことを「訪れ」という。真理は聞こうとして待つものに「音づれ」る。

▼ものに意識を集め、そのもののことをつかむ。
▽自然の音、物音、生き物の鳴き声、人の言葉などを耳に感じとる。
◇静けさや 時計の音を雨の日に聞く。 ◇川の流れが聞こえる。 ◇爆発音を聞いた。 ◇聞け、わだつみの声。 ◇『万葉集』四二〇九「鳴く声を聞かまく欲りと」
▽耳に感じとってその内容を知る。聞き取る。言伝え、うわさなどを耳にする(「聴く」をあてることもある)。
◇音楽を聞く。ニュースを聞く。 ◇講演会を聞きにいく。 ◇人の話を聞きなさい。 ◇『古事記』下「そらみつ大和の国に雁(かり)卵産(こむ)といまだ岐加(キカ)ず」
▽人の言葉に従う。承知する。聞き入れる。
◇いうことを聞く。 ◇そんな頼み聞けない。 ◇『伊勢物語』二三「親のあはすれども、きかでなんありける」
▽(答えを求めて)たずねる。考えていることや気持などを問う。(問いつめるときは「訊く」をあてる)
◇道を聞く。 ◇都合を聞く。 ◇よくわからないので聞いてみる。 ◇『源氏物語』夕顔「若君の上をだにえきかず」
▽(「聞香」の訓読みからか)においをかぐ。(酒を)味わってみる。味を試して違いを知る。
◇聞き酒

※日本語では虫の声、音楽、匂いも「こと」として聞く。

▼力、はたらきが十分発揮される。よく働く。すばやく活動する。
◇冷たくて指先がきかない。 ◇『栄花物語』根合「あはれきき給へる口かな」
▽効能や働きが現われる。ききめがある。
◇わさび(薬)がきく。 ◇釘がきく。 ◇『能因本枕』一六二「すぐろく打つに、敵の采ききたる」
▽物事に通じている。する事がじょうずである。
◇彼は古美術に目がきく人だ。 ◇『花鏡』比判之事「能をば知れども、目のきかぬもあり」
▽することが可能である。
◇歳をとって無理がきかない。 ◇『日葡辞書』「リョウガqiqu(キク)<訳>よい漁猟をして獲物を取る」
▽ものを言って促す。「口をきく」の形で用いる。
◇間にはいって口をきいてもらう

−【きこえる(聞こえる)】

■動詞「きく(聞)」に、自発・受身・自発の古い助動詞「ゆ」のついた「聞こゆ」に自然にそうなることを意味する「え」がついた。

▼もののことが聞こえる。
▽自然に放たれた音や声が話者の耳に入る。
◇蛙の鳴き声が聞こえた。 ◇『古事記』下・歌謡「鶴がねの岐許延(キコエ)むときは我が名問はさね」
▽わけがわかる
◇『源氏物語』末摘花「御歌もこれよりのはことわりきこえてしたたかにこそあれ」 ◇『徒然草』一七五「聞えぬ事ども言ひつつ、よろめきたる」
▽世に広く伝わる。評判される。
◇彼の評判はこちらにも聞こえている。 ◇『日本書紀』雄略二三年・歌謡「道に闘(あ)ふや尾代(をしろ)の子母(あも)にこそ枳挙曳(キコエ)ずあらめ国には枳挙曳(キコエ)てな」 ◇『古今集』仮名序「ちかき世にその名きこえたる人は」