next up previous
次: あらた(新た) 上: 構造日本語 前: あけ

あめ(天)

【あめ(天)】[ame]

■「あま[ama]」が「あめ」の古い形。[a]のいる絶対の場[ma]。

□タミル語<amar>、サンスクリット語<amara>に起源。サンスクリット語からタミル語に入ったと考えられる。

◆人間の住む世界の上にある神の世界のこと。「そら(空)」が何もないことを意味するのに対している。この意味で「あめ(あま)」の対語は「くに」である。「あめ(あま)」が「空」の意味を強めるにつれ、「つち(地)」の対語と考えられるようになる。

人間界を中にして、その上にある神の世界を「あま」といい、その反対の方向にある死後の世界を「ねのかたすくに(根の方すクニ)、根のクニ」という。このような垂直方向に三つの世界を考える世界観は、水平方向に拡がりを考える世界観と、古い世界観の二つの典型をなす。

※天[ama]は、神々の住む世界として、弥生文明の世界観を示す言葉であった。 弥生文明の一定の時期に、列島の西部を中心に国家を統一するものが現れた。それが内部からの権力の成長か、または中国大陸での争乱の時期に亡命政権として、列島に渡ってきたものか、それはまだ確定できない。

新たな支配者は天と地と根の垂直な世界観をもっていた。モンゴル語の[tengri]などと共通の[ten]世界観である。日本国が成立したとき、支配者は、人民の考え方として一般的であった「あま」と、「天」を合体させた。そして、大王は「天」から来たのだとすることで、支配の正統性と権威をもとうとした。

古代に刷り込まれたこの「神話」を相対化する視点を言葉の内部に構造化してもつこと、それを土台にして日本語に古くから蓄えられた豊かな世界観を取り戻すこと、これが現下の日本語の課題の一つである。

▼人間の住む世界の上にある神の世界。 ◇『古事記』上・歌謡「阿米(アメ)なるやおとたなばたのうながせるたまのみすまる」天皇家の由来としての「天」より古い「天」の原義的用法。

−【あまつ(天つ)】〔連語〕(「つ」は、「の」の意の連体助詞)「天つ」は「天の」より古い。名辞にかかる。 ◇天つ風、天つ雁、天つ国、天つ罪、天つ祝詞 ◇『伊勢風土記逸文(釈日本紀所載)』「天津の方に国有り」 ◇『日本書紀』神代下(水戸本訓)「吾は則ち天津神籬(ひもろき)及び天津盤境(あまツイハサカ)を起し樹てて」。「天つ盤境(いわさか・いわくら)」は天つ神がいる神聖な場所。また、天つ神を祭る岩石の壇。 ◇天つ神(かみ)[=御神(みかみ)]。高天原の神。また、高天原に属する神。およびその子孫。つまり、四、五世紀に日本列島を支配した支配者とその権力を分けあいまた受け継いだもの。それに対して「国つ神」はそれ以前からの土着勢力であり、大陸からの新しい支配者に従属したものをいう。 ◇『万葉集』二四〇「ひさかたの天ゆく月を網に刺しわが大王はきぬがさにせり(柿本人麻呂)」

▼地上に対する「空」としての「天」。 ◇『古事記』歌謡「雲雀はあめにかける」

−【あまの(天の)】〔連語〕「天つ」より新しい語。平安時代以降に記紀を訓じるときに使われることが多い。したがって「あめの」とよむ場合もある。

【天の下】

▽原義は、天に対する地の国、つまり地上世界全体を意味する。 ◇『万葉集』三九二三「天の下すでにおほひて降る雪の」

▽漢語「天下」「国家」の訳語に転用された。 ◇『源氏物語』玉鬘「天の下を御心にかけ給へる大臣」



Aozora Gakuen