◯いき[iki]は「おき[oki]」の母音交換形。「おき」は「おく(起く[oku])」の根拠である。ものがおきるのがいきのはたらき。ものがおきるのはそれが生きているからである。
※[oki]はタミル語<ukkaram>起源。(u〜o 対応)
◆[i]は飯(いひ)にあるように食べ物の意がある。タミル語が混成して熟成する中で、[o]かr[i]に交換した。また[k]は食うこと、[ik]を食物を食うこと。いきはいのちの根源。このように意味が深まった。
いのちの根源をいきという。これが「生き」と「息」に分かれた。「生きる」[ikiru]はいき[ik]がはたらく状態にいる[iru]ことである。いのちとは、ものともののことと、さらにものがことにしたがってはたらくいきが一つになる場である。いのちをいのちとするこの根元的な働きがいきである。
▼生きる。そのもののいのちが持続していること。 ◇『日本書紀』神代下「亦、汝霊(くしひ)に異(あやし)き威(かしこさ)有り、子等復た倫(ひと)に超(すぐ)れたる気(いき)有ることを明かさむと欲ふ」」 ◇『万葉集』九九五「御民(みたみ)われいけるしるしあり」 ◇『万葉集』一七八五「死にも生(いき)も君がまにまと」 ◇『源氏物語』桐壺「限りとて別るる道の悲しきにいかまほしきは命なりけり」 ◇『宇治拾遺物語』二「とく逃げのきて命いきよ」 ◇「百まで生きる」
▽生活をいとなむ。また、生命を託する。 ◇「筆一本でいきる」「美術にいきる」
▽生き生きと。有効である。 ◇「この法律はまだいきている」 ◇「この絵はいきている」
▼息。呼吸するものの生命の証。 ◇『日本書紀』雄略即位前「其のささげたる角、枯樹の枝に類(に)たり。(略)呼吸(いぶ)く気息(いき)朝霧に似たり」 ◇『万葉集』三五八〇「霧立たば吾が立ち嘆く息と知りませ」 ◇『万葉集』七九四「伊企(いき)だにも、いまだ休めず、年月も未だあらねば(山上憶良)」 ◇『風姿花伝』−三「立ち振舞ふ風情をも、人の目にたつやうに、いきいきとすべし」 ◇「息を吹きかける」「息を切らせる」「息をはずませる」
▼意気。あふれるばかりに満ちている気。いき盛んな状態。 ◇『万葉集』八五三序文「意気凌雲 風流絶世」 ◇『夜明け前』島崎藤村「あの抗爭の意気をもって起こった峠の牛方仲間」 ◇『浮雲』二葉亭四迷「それよりか清元の事サ、どうも意気でいいワ」
▽粹。風貌がさっぱりして、洗練された色氣があること。近世後期の文化爛熟期に発展した美意識。
※この「意気」と「粹」の二語は現代では音の高低の場所が異なり(高高と底高)区別される。
◇『淨璢璃・神霊矢口渡』一「弓張りの目元の月や花の顔、恋の台(うてな)が寄かけて、いきとはでとの討手の大将」