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点の存在[01京大改題]

問題     

$xyz$空間内に,異なる$n$個の点 $\mathrm{P}_1$$\mathrm{P}_2$,...,$\mathrm{P}_n$と ベクトル $\overrightarrow{v}$があり,$k\ne m$のとき $\overrightarrow{\mathrm{P}_k\mathrm{P}_m}\cdot\overrightarrow{v}\ne 0$ が成り立っているとする.このとき,$k$と異なるすべての$m$に対し

\begin{displaymath}
\overrightarrow{\mathrm{P}_k\mathrm{P}_m}\cdot\overrightarrow{v}<0
\end{displaymath}

が成り立つよう な点$\mathrm{P}_k$が存在することを示せ.


方針

1.
ベクトル $\overrightarrow{v}$となす角がすべて鈍角であるような 始点がとれればよい. つまり, $\overrightarrow{v}$と直交する方向に関して, $\overrightarrow{v}$とは逆の方向であればよい.
2.
問題の条件も結論も,始点がいろいろ変化する. このようなときに,始点を固定して考えるのは, ベクトルの論証の基本だ. 条件も得たい結論もすべて始点を$\mathrm{O}$にとって書いてみる.


解1

図のようにベクトル $\vec{v}$ と垂直な平面 $\alpha$ を考える. この平面をベクトル $\vec{v}$ の方向に平行移動していく. すると, $n$ 個の点$\mathrm{P}_1$$\mathrm{P}_2$,...,$\mathrm{P}_n$ のどれかが最初に $\alpha$ 上に来るときと,最後に $\alpha$ から離れるときがある.

$\alpha$ 上のベクトルはすべてベクトル $\vec{v}$ と垂直である.したがって $k\ne m$のとき $\overrightarrow{\mathrm{P}_k\mathrm{P}_m}\cdot\overrightarrow{v}\ne 0$ が成り立っているので,同時に二つの点が $\alpha$ 上に来ることはない. 最後に $\alpha$ から離れるときの点を $\mathrm{P}_k$ とする.

ベクトル $\vec{v}$ の始点を $\alpha$ 上においたとき $k$と異なるすべての$m$に対しベクトル $\overrightarrow{\mathrm{P}_k\mathrm{P}_m}$ は始点が $\alpha$ 上にあり,かつ $\alpha$ に関してベクトル $\vec{v}$ とは反対の側にある.

したがってベクトル $\overrightarrow{\mathrm{P}_k\mathrm{P}_m}$とベクトル $\vec{v}$ の なす角はすべて鈍角である.つまり $k$と異なるすべての$m$に対し

\begin{displaymath}
\overrightarrow{\mathrm{P}_k\mathrm{P}_m}\cdot\overrightarrow{v}<0
\end{displaymath}

が成り立つ.□


解2
基準点 $\mathrm{O}$ をとる. $k\ne m$ なら $\overrightarrow{\mathrm{P}_k\mathrm{P}_m}\cdot\overrightarrow{v}\ne 0$ なので,

\begin{displaymath}
\overrightarrow{\mathrm{P}_k\mathrm{P}_m}\cdot\overrightarro...
...
-\overrightarrow{\mathrm{OP}_k}\cdot \overrightarrow{v}
\ne 0
\end{displaymath}

よって

\begin{displaymath}
\overrightarrow{\mathrm{OP}_m}\cdot \overrightarrow{v}\ \ (m=1,\ 2,\ \cdots,\ n )
\end{displaymath}

はすべて互いに異なる.したがって,このなかに 最大のものがただ一つ存在する. それを $O\overrightarrow{\mathrm{P}_k}\cdot \overrightarrow{v}$ とする. このとき $k\ne m$ なら

\begin{displaymath}
\overrightarrow{\mathrm{P}_k\mathrm{P}_m}\cdot\overrightarro...
...w{v}
-\overrightarrow{\mathrm{OP}_k}\cdot \overrightarrow{v}<0
\end{displaymath}

である. $\mathrm{P}_k$ が題意をみたす点である.□


吟味

こちらは図形的な性質を使っていないので, この二つの証明はずいぶん違うように見える. しかし,次のように考えると, それほどちがったことをしているのではないことに気づく.

ベクトル $\vec{v}$ は長さが1としても一般性を失わない.このとき内積 $\overrightarrow{\mathrm{OP}_m}\cdot\vec{v}$ は何を意味するか.

$\mathrm{P}_m$ から,$\mathrm{O}$を通り$\vec{v}$ に平行な直線に下ろした点 を $\mathrm{Q}_m$ とすると,

\begin{displaymath}
\overrightarrow{\mathrm{OP}_m}\cdot\vec{v}=\mathrm{OQ}_m
\end{displaymath}

だ. 解法1で,最後に $\alpha$ から離れる点は,$\mathrm{OQ}_m$が一番長い点であり, これは解法2で, $\overrightarrow{\mathrm{OP}_m}\cdot\vec{v}$が最大になる点である. ゆえに解法1と解法2は同じことをやっている.

このように別解というのは,同じ数学的な現象をいろんな側面から見ることで生まれる. しかしまた,その数学的な現象に対する理解が深まれば,それほど別でもないということがわかる. あるいは,二つの方法に共通なことは何かを考えることで 数学的な現象に対する理解が深まる,ということもある.



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