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複合命題と数学的帰納法

数学的帰納法はすべて, 何らかの自然数$n$を含む命題がすべての$n$で成立することを示すのだ. その命題が複合命題

\begin{displaymath}
条件\mathrm{P}が成立する.\quad \Rightarrow \quad 条件\mathrm{Q}が成立する.
\end{displaymath}

であるときを考える.


例題 1.12  

$n\ge 2$ とする.$n$ 個の実数 $x_1,\ x_2,\ \cdots,\ x_n$ $\vert x_i\vert<1\ (i=1,\ 2,\ \cdots n)$ をみたしている. このとき,

\begin{displaymath}
x_1+x_2+\cdots +x_n<x_1x_2\cdots x_n+n-1
\end{displaymath}

がなり立つことを示せ.


考え方     この問題の $n$ $x_1,\ x_2,\ \cdots,\ x_n$ は本来, 出題者の与えた定数であり,固定されている. しかし,ここで証明すべきことを次のような命題にする.

解答     次の命題を示せばよい.

$n\ge 2$ とする.$n$ 個の実数 $x_1,\ x_2,\ \cdots,\ x_n$が,条件 $\vert x_i\vert<1\ (i=1,\ 2,\ \cdots n)$ をみたすならば, 不等式

\begin{displaymath}
x_1+x_2+\cdots +x_n<x_1x_2\cdots x_n+n-1
\end{displaymath}

がなり立つ.
これを数学的帰納法で示す.
  1. $n=2$ のとき.

    \begin{displaymath}
x_1x_2+1-(x_1+x_2)=(x_1-1)(x_2-1)
\end{displaymath}

    ここで $x_1-1<0,\ x_2-1<0$ ならば $(x_1-1)(x_2-1)>0$ よりつねに成立.
  2. $n=k$ のとき成立するとする. $n=k+1$ のとき

    \begin{displaymath}
x_1x_2\cdots x_kx_{k+1}+k=x_1x_2\cdots (x_kx_{k+1})+k-1+1
\end{displaymath}

    ここで $y_k=x_kx_{k+1}$ とすると $\vert y_k\vert<1$ である. $k$ 個の数 $x_1,\ \cdots,\ x_{k-1},\ y_k$に対して 帰納法の仮定を使うと

    \begin{displaymath}
x_1x_2\cdots x_{k-1}y_k+k-1+1>x_1+x_2+\cdots +y_k+1
\end{displaymath}

    次に $n=2$ のときになり立つので

    \begin{displaymath}
y_k+1=x_kx_{k+1}+1>x_k+x_{k+1}
\end{displaymath}

    あわせて

    \begin{displaymath}
x_1x_2\cdots x_kx_{k+1}+k>x_1+x_2+\cdots +x_k+x_{k+1}
\end{displaymath}

  3. したがって一般に $n$ のときに題意が示された.□

$n$個の実数の条件 $P(n):\vert x_i\vert<1\ (i=1,\ 2,\ \cdots n)$ , と, 条件 $Q(n):x_1+x_2+\cdots +x_n<x_1x_2\cdots x_n+n-1$ がある.これからつくられた自然数$n$に関する条件

\begin{displaymath}
p(n):P(n)\quad \Rightarrow \quad Q(n)
\end{displaymath}

を考え,すべての自然数 $n$ に対して条件$p(n)$が成立することを示す.

このようにしておくと,数学的帰納法の仮定が, 個別の $x_i$ に対して仮定されるのではなく, 条件を満たす任意の $x_i$ に対して仮定されるので, 証明がずっとやりやすくなる. 「証明すべきことを強める」とか「個数に関する数学的帰納法」 とかいろいろ呼ばれる. 基本は自然数$n$を含む命題の成立を, $n$についての数学的帰納法で示すのである. 個別の $x_i$ とはいっても文字 $x_i$ であるから, もともとの命題そのものを強めた意味で 解釈することもできる. 要はどのような数学的帰納法をしているのか,明確に押さえることである.


例題 1.13       [97東京工大改題]

$n$ を自然数, $r$ を正の有理数とする.このとき,

\begin{displaymath}
\displaystyle \sum_{k=1} ^n \frac{1}{x_k} =r
\end{displaymath}

をみたす自然数の $x_k$ の組 $(x_1,x_2,\cdots,x_n)$ の個数は有限であることを示せ.


考え方     $n$ 個の未知数とある与えられた有理数 $r$に関する命題, を証明するのに,これを

\begin{displaymath}
r\ が有理数である.
\quad \Rightarrow
\quad n\ 個の未知数をもつ上の方程式の解が有限個である.
\end{displaymath}

に証明内容を拡大し,数学的帰納法を適用する.

解答     「未知数の個数が $n$ であるかぎり, 任意の有理数 $r$ について,解の個数が有限個である」 ことを数学的帰納法で証明する.

まず,任意の有理数 $r$ に対して

\begin{displaymath}
\sum_{k=1} ^n \frac{1}{x_k} =r
\end{displaymath}

をみたす自然数の $x_k$ の組 $(x_1,x_2,\cdots,x_n)$ $x_1\le x_2 \le \cdots \le x_n$ となるものの個数が有限であることを数学的帰納法で示す.
  1. $n=1$ のとき. $r\le 0$なら解なしなので、有限個であることは成立する.

    $r>0$とする. $r=\dfrac{1}{a}\ (a は自然数)$ という形をしているときは,

    \begin{displaymath}
\dfrac{1}{x_1}=\dfrac{1}{a}
\end{displaymath}

    より $x_1=a$ のみが解である.解の個数は1.
    $r$ が自然数の逆数という形をしていないときは解なし.
    いずれにせよ解の個数は有限である.
  2. $n=j$ のとき成立するとする.
    $\dfrac{1}{x_k}\le \dfrac{1}{x_1}$ であるから

    \begin{displaymath}
\displaystyle r=\sum_{k=1}^{j+1}
\dfrac{1}{x_k}\le \dfrac{j+1}{x_1}
\end{displaymath}

    よって $0< x_1 \le \dfrac{j+1}{r}$ となりこれを満たす整数 $x_1$ の個数は有限である. これを $x_1=a_1,\ a_2,\ \cdots ,\ a_N$ とする.各 $a_l$ に対し

    \begin{displaymath}
\displaystyle \sum_{k=2} ^{j+1} \frac{1}{x_k}=r-\dfrac{1}{a_l}
\end{displaymath}

    は未知数の個数が $j$ 個なので帰納法の仮定により解の個数は有限である. $l=1,\ \cdots ,\ N$ のそれぞれについて言えるので, $n=j+1$ のときも解の個数は有限である.
  3. 従って自然数 $n$ に対して

    \begin{displaymath}
\displaystyle \sum_{k=1} ^n \frac{1}{x_k} =r
\end{displaymath}

    をみたす自然数の $x_k$ の組 $(x_1,x_2,\cdots,x_n)$ $x_1\le x_2 \le \cdots \le x_n$ となるものの個数が有限であることが示された.
つぎに $x_1\le x_2 \le \cdots \le x_n$ という仮定をとる. するとそれらを並べ替えたものが解になる.その個数は $n$ 個がすべて異なるとき $n!$ 倍され, 同じものを含むときは$n!$ より小さい.いずれにせよ, $x_1\le x_2 \le \cdots \le x_n$ という仮定をとると,解の個数は高々有限数倍されるだけである.

従って,題意の有限性が証明された.□

このように, $n$ 以外にも定数などがある場合に,証明することを強めることによって, 帰納法がかえってうまくできることが少なくない.


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