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値域・軌跡・通過範囲

図形とは一定の条件を満たす点の集合であると考えれば, 媒介変数をもつ曲線の通過領域も,適切に考えることができる. 通過領域の問題は,いくつかの解法があるが, 基本は次のように媒介変数の存在する条件から求めるものである.

  1. $(X,\ Y)$が通過範囲にあるための必要十分条件を書く.
  2. それは媒介変数$t$の存在する条件として表される.
  3. $t$の方程式が解をもつ条件を$X$$Y$の不等式で書き表す.

この観点から,値域・軌跡・通過範囲を統一的に把握しよう. これは,問題の構造をよく見て論理的に考える練習になる.


例題 1.2  

  1. $x=t^2+2t-3$ とする. $t$$0\le t\le1$ の範囲に存在するとき, 対応する$x$ からなる数直線の部分集合 $V$ を求めよ.
  2. $x-ty-1=0,\ tx+y-1=0$ とする.$t$ が実数にあるとき, 対応する点 $(x,\ y)$ からなる $xy$ 平面の部分集合 $V$ を求めよ.
  3. $t^2+tx+y=0$ とする.$t$$0\le t\le1$ に存在するとき, 対応する点 $(x,\ y)$ からなる $xy$ 平面の部分集合 $V$ を求めよ.
  4. $s+t=x,\ st=y$ とする.実数 $s,\ t$$\vert s\vert+\vert t\vert\le1$ に存在するとき, 対応する点 $(x,\ y)$ からなる $xy$ 平面の部分集合 $V$ を求めよ.

問題を解きながら,普通はどのようにいわれているのか,考えていこう. あえて問題にあわせた解答をしていく.

解答    


  1. \begin{displaymath}
\left\{
\begin{array}{l}
s=f(t)=t^2+2t-3=(t+1)^2-4\\
s=x
\end{array} \right.
\end{displaymath}

    とおき, 二つのグラフが $0\le t\le1$ で交わる $x$ の範囲を求めればよい.

    $s=(t+1)^2-4$ となり,グラフの軸が $t=-1$ である. したがってここでは単調増加なので

    \begin{displaymath}
f(0)\le x\le f(1)
\end{displaymath}

    よって

    \begin{displaymath}
V=\{x\,\vert\,-3\le x\le0\}
\end{displaymath}

    これは「$t$$0\le t\le1$ を変域とするときの $x$ の値域」というものだ. 「 $x$ のとる値」とは,実は「 $t$ が存在するような $x$ の値」である.

  2. 解1

    $x,\ y$ の連立方程式と見て解く.

    \begin{displaymath}
x=\dfrac{1+t}{1+t^2},\ y=\dfrac{1-t}{1+t^2}
\end{displaymath}

    $x+y=\dfrac{2}{1+t^2}\ne0,\ x-y=\dfrac{2t}{1+t^2}$ なので

    \begin{displaymath}
t=\dfrac{x-y}{x+y}
\end{displaymath}

    これを条件式に代入することにより

    \begin{displaymath}
x^2-x+y^2-y=0
\end{displaymath}

    $x+y\ne0$ とあわせて

    \begin{displaymath}
V=\{(x,\ y)\,\vert\,x^2-x+y^2-y=0,\ (x,\ y)\ne(0,\ 0)\}
\end{displaymath}


    解2

    $x-ty-1=0$ となる $t$ が存在するのは

    \begin{displaymath}
(x,\ y)=(1,\ 0)\ または\ y\ne0,\ t=\dfrac{x-1}{y}
\end{displaymath}

    $tx+y-1=0$ となる $t$ が存在するのは

    \begin{displaymath}
(x,\ y)=(0,\ 1)\ または\ x\ne0,\ t=-\dfrac{y-1}{x}
\end{displaymath}

    $\dfrac{x-1}{y}=-\dfrac{y-1}{x}$ より

    \begin{displaymath}
x(x-1)+y(y-1)=0
\end{displaymath}

    これは $(x,\ y)=(1,\ 0),\ (0,\ 1)$ も含む.よって

    \begin{displaymath}
V=\{(x,\ y)\,\vert\,x^2-x+y^2-y=0,\ (x,\ y)\ne(0,\ 0)\}
\end{displaymath}

    注意     さらに, これは二直線が直交することからも求められる. その場合, 除外点の考察をていねいにすること.

    本問の図形が「 $t$ が実数を動くときの二直線の交点の軌跡」というものだ. 「軌跡」といっても「点の集合」であることに変わりない.

  3. 求める $(x,\ y)$ であることは, ${t_0}^2+t_0x+y=0$ となる $0\le t_0\le1$ の範囲の $t_0$ が存在することと同値である.

    ゆえに$t$ の二次方程式 $t^2+tx+y=0$$0\le t\le1$ に解をもつような $(x,\ y)$ に他ならない. $f(t)=t^2+tx+y$ とおく.次のいずれかが成り立てばよい.

    \begin{displaymath}
\begin{array}{l}
f(0)\cdot f(1)\le0\\
D=x^2-4y\ge0,\ f(0)\ge0,\ f(1)\ge0,\ 0\le-\dfrac{x}{2}\le1
\end{array} \end{displaymath}

    これから, $V$ は次の条件のいずれかをみたす点 $(x,\ y)$ の集合

    \begin{displaymath}
\left\{\begin{array}{l}
y\ge0\\
1+x+y\le0
\end{array}\r...
...ge0\\
1+x+y\ge0,\ y\ge0\\
-2\le x\le0
\end{array}\right.
\end{displaymath}

    これは「 $t$$0\le t\le1$ を動くときの直線の通過範囲」というものだ. 条件をみたす点 $(x,\ y)$ の集合であることに変わりない.
  4. $s$$t$ が実数という条件の下

    \begin{displaymath}
\begin{array}{c}
\begin{array}{rcl}
\vert s\vert+\vert t\...
... \end{array}\\
∴\quad x^2-2y+2\vert y\vert\le1
\end{array} \end{displaymath}

    一方, $s$$t$ は二次方程式 $X^2-xX+y=0$ の2解である. この二次方程式が2実数解をもたねばならない

    \begin{displaymath}
x^2-4y\ge0
\end{displaymath}

    よって

    \[ V=\{(x,\ y)\,|\,x^2-2y+2|y|\leqq 1\ かつ\ x^2-4y\geqq 0\} \]

    $x^2-2y+2\vert y\vert\le1$は, $y\ge 0$なら $-1\le x \le 1$$y<0$ なら$x^2-4y\le1$ を意味する.

    これは「領域から領域への写像」だ.

通常「値域,軌跡,通過範囲」といわれるものもこのように言い方や見方をかえれば, 同じ型の問題であることは理解できただろうか.

問題の定式化

さて問題の構造をもう少し定式化して考えよう.

$A,\ B$ を数直線や座標平面,またはその部分集合とする. $A$ の要素を動く変数 $T$$B$ の要素を動く変数 $X$ の間の関係式がある (一つとはかぎらない)とする.この関係式を $F(T,\ X)=0$ と象徴的に書こう.象徴的というのは,式が一つとはかぎらないからである. また, $T$$X$ と大文字を使ったのは, $X=(x,\ y)$ のような平面の点(二変数)のこともあるからだ. 一変数のときは小文字を使うのが普通だが統一的に大文字にした. $T$ は通常のいい方では媒介変数にあたる.

この観点から例題の(1)(2)(3)を再度一般的な命名と問題の形にまとめる.

  1. $t$ が実数$A$の部分集合 $U=\{\ t\ \vert\ 0\le t \le1\}$を動くとき $F:x-(t^2+2t-3)=0$ で定まる $x$ の値の集合 $V$(実数$B$の部分集合)を求めよ. $V$を関数 $x=f(t)=t^2+2t-3$値域という.
  2. $t$ が 実数$A$ を動くとき 二つの式 $F:\left\{\begin{array}{l}x-ty-1=0\\ tx+y-1=0\end{array}\right.$ で定まる $xy$ 平面 $B$ の部分集合 $V$を求めよ. 集合$V$$F$で定まる点の軌跡という.
  3. $t$ が実数$A$の部分集合 $U=\{\ t\ \vert\ 0\le t \le1\}$を動くとき, 式$F:t^2+tx+y=0$で定まる$xy$ 平面$B$内の直線の存在する集合$V$を求めよ. 集合$V$のことを直線の通過領域という.

このように上の問題はどれも次の形をしている,

集合$A$ と集合 $B$ の要素の間に一定の関係があるときに, $A$の部分集合$U$の各要素とこの関係で対応する$B$の要素の集合$V$を求めよ.
集合で書けば$V$は次のように書ける.

\begin{displaymath}
V=\{\ X\ \vert\ X \in B,\ F(T,\ X)=0となるT (\in U) が存在する\ \}
\end{displaymath}

このように考えれば,要素$X=X_0$$V$ に属するための必要十分条件が $F(T_0,\ X_0)=0$となる$T_0$$U$ に存在することであることが見やすい. これから $X_0$ が満たすべき必要十分条件が求まり, それがつまり $V$定める. 入試問題では,$x$$y$ を固定して,$t$ が存在するための必要十分条件として $x$$y$ の存在範囲を定める,という論述方針で取り組むのがよい.

受験参考書ではこのようにして媒介変数の存在条件として $V$ を求める方法を 「逆像法」とか「逆手法」とかいうことが多い. 何となく「裏ワザ」的な名前がついているため, 正面から勉強しないことが多いようだが, この方法こそ問題の構造を論理的に解明する「正攻法」なのだ. これがときに応じて値域であり,軌跡であり,通過領域,ということだ. 値域とか,軌跡とか,通過領域とか, いろいろに訳すのは日本の高校数学ぐらいなもので, かえってわかりにくくなっている. 大切なことは, この$V$媒介変数$T$が存在するための条件として定まるということだ.

ただしあくまで「定まる」ということであって, 具体的に求まるかどうかは別の問題である. 例えば『数学対話』のなかの「包絡線」で取りあげた通過領域は, この方法では具体的には求まらなかった. そこでもう少し,軌跡や通過領域を図形的に考えることが必要になり, それを述べたのが,「包絡線」である.

また,例題の(4)で,もし $x=2s+t,\ y=st$ として対称性を崩すと, たちまちこのままではできない. この場合も領域の形を定めるためには,別の工夫がいる. 万能ということではなく,領域や軌跡が何によって定まるのかを, しっかりおさえよ,ということである. 入試問題は, この対象のなかにある論理がつかめているかを問う問題が多く, したがって,ここで述べてきたことで解けるものがほとんどなのだ.


例題 1.3       [92千葉大]

線分ABを直径とする半円がある. 周上の弧PQを弦PQで折り返したとき,折り返された弧が ABに接したとする(右図). このような弦PQの存在する範囲を求めて図示せよ.


考え方     さてこれは何をどう置けばよいのか. まずこれは座標平面に入れよう.当然円の中心を原点にする単位円だ. 座標平面に入れて考える.折り返すとはどういうことだ. 円弧を折り返すように考えるが,折り返された円弧は別の円の弧の一部だ.
     ここが飛躍だ.この新しい折り返された円は,当然もとの円と半径は同じ1だ. では中心は. $x$ 軸に接する円の中心の $x$ 座標は $x$ 軸との接線だ. そこで,「何をどう置くか」だ.

解答     接点を $t$ とおく. 折り返された円は中心が $(t,\ 1)$ で半径が1の円である.

\begin{displaymath}
(x-t)^2+(y-1)^2=1^2
\end{displaymath}
弦PQはもとの円と新たな円の交点を通る直線である. 直線PQの方程式は次のようになる.

\begin{eqnarray*}
&&x^2+y^2-1+(-1)\{(x-t)^2+(y-1)^2-1\}=0\\
&\iff&2tx+2y-t^2-1=0
\end{eqnarray*}
$t$ の変域は $-1 \le t \le 1$である.

よって弦PQの通過範囲は 媒介変数 $t$ $-1 \le t \le 1$ を動くときの, 直線 $2tx+2y-t^2-1=0$の通過範囲と, 円の周および内部の共通部分である.


\begin{displaymath}
f(t)=t^2-2xt-2y+1
\end{displaymath}

とおく.$x$$y$を固定する. 点$(x,\ y)$が直線PQの通過範囲にあることは, $f(t)=0$となる$t$ $-1 \le t \le 1$に存在することと同値である. いいかえると$t$の方程式$f(t)=0$ $-1 \le t \le 1$に解をもつ条件を $x$$y$の不等式で書いたものが直線PQの通過範囲である.

よって, $f(-1)f(1)\le 0$ , または $D\ge 0,\ f(-1)\ge 0,\ f(1)\ge 0,\ -1\le$$\le 1$ が成り立てばよい. $t=\pm 1$ がこの二組の条件のいずれにも入っているが, 「または」だからこれでよい.

これから次のいずれかを満たす点の集合と 円の周および内部との共通部分が求めるものである. 「,」はすべて「かつ」を意味する. \begin{eqnarray*} @&&1-x-y\leqq 0,\ かつ\ 1+x-y\geqq 0\\ A&&1-x-y\geqq 0,\ かつ\ 1+x-y\leqq 0\\ B&&x^2-(1-2y)\geqq 0,\ 1-x-y\geqq 0,\ \\ &&\quad 1+x-y\geqq 0,\ かつ\ -1\le x\leqq 1 \end{eqnarray*}

 この領域と半円の内部の共通部分が求める通過範囲である.
 図示すると次のようになる.□


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