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積分公式

まず次の補題を示す.

補題 4       領域$D$で定義された関数$f(z)$が,定義域で正則であるとする. $a$を中心とする半径$\rho$の円周$\Gamma$$D$に含まれるとき,半径

\begin{displaymath}
\int_{\Gamma}\dfrac{1}{z-a}\,dz=2\pi i
\end{displaymath}

となる. ■

証明      $z-a=\rho(\cos\theta+i\sin \theta)$とおく. このとき,

\begin{displaymath}
\dfrac{d}{d\theta}z=\rho(-\sin\theta+i\cos \theta)=i(z-a)
\end{displaymath}

である.よって,

\begin{displaymath}
\int_{\Gamma}\dfrac{1}{z-a}\,dz=
\int_0^{2\pi}i\,d\theta=2\pi i
\end{displaymath}

となる. □

定理 7       領域$D$で定義された関数$f(z)$が,定義域で正則であるとする. $D$内の閉曲線$C$の内部の任意の点$a$に関して,

\begin{displaymath}
f(a)=\dfrac{1}{2\pi i}\int_C\dfrac{f(z)}{z-a}\,dz
\end{displaymath}

が成り立つ.これをCauchy の積分公式という. ■

証明      点$a$を中心とする半径$\rho$の円周$\Gamma$$C$の内部にあるとする.

$\Gamma$上の点Pと$C$上の点Qを結び, 矢線の様に,点Pから点Qへ,点Qから$C$上を反時計回りに点Qに至り, 点Qから点Pへ,そして点Pから$\Gamma$上を時計回りに点Pに至る経路で 次の定積分を行う.ただし,$-\Gamma$$\Gamma$上を時計回りにまわる経路である. 積分定理によって,

\begin{displaymath}
\int_{\mathrm{P}\to \mathrm{Q}}\dfrac{f(z)}{z-a}\,dz+
\int...
...\dfrac{f(z)}{z-a}\,dz+
\int_{-\Gamma}\dfrac{f(z)}{z-a}\,dz=0
\end{displaymath}


\begin{displaymath}
\int_{\mathrm{P}\to \mathrm{Q}}\dfrac{f(z)}{z-a}\,dz+
\int_{\mathrm{Q}\to \mathrm{P}}\dfrac{f(z)}{z-a}\,dz=0
\end{displaymath}


\begin{displaymath}
\int_{-\Gamma}\dfrac{f(z)}{z-a}\,dz=-\int_{\Gamma}\dfrac{f(z)}{z-a}\,dz=
\end{displaymath}

なので,

\begin{displaymath}
I=\int_C\dfrac{f(z)}{z-a}\,dz=\int_{\Gamma}\dfrac{f(z)}{z-a}\,dz
\end{displaymath}

である.この結果, $\int_{\Gamma}\dfrac{f(z)}{z-a}\,dz$$\rho$に関係ない一定の値を有する. 与えられた$\epsilon$に対して,

\begin{displaymath}
\left\vert f(z)-f(a) \right\vert<\epsilon
\end{displaymath}

となるように$\rho$をとることができる.

\begin{displaymath}
\int_{\Gamma}\dfrac{f(z)}{z-a}\,dz=
f(a)\int_{\Gamma}\dfrac{1}{z-a}\,dz
+\int_{\Gamma}\dfrac{f(z)-f(a)}{z-a}\,dz
\end{displaymath}

ここで,補題4より,

\begin{displaymath}
f(a)\int_{\Gamma}\dfrac{1}{z-a}\,dz=2\pi i f(a)
\end{displaymath}

また,

\begin{eqnarray*}
\left\vert\int_{\Gamma}\dfrac{f(z)-f(a)}{z-a}\,dz \right\vert...
...{\Gamma}\,dz=\dfrac{\epsilon}{\rho}\cdot 2\pi\rho=2\pi \epsilon
\end{eqnarray*}

$\epsilon$は任意であるから, $\int_{\Gamma}\dfrac{f(z)-f(a)}{z-a}\,dz=0$となり,

\begin{displaymath}
I=2\pi f(a)
\end{displaymath}

である.これが,証明すべき等式である.□

定理 8       領域$D$で定義された関数$f(z)$が,点$a$で正則であるとする. このとき$f(z)$$a$において各階の微分が可能である.

Goursat(1900)による. ■

証明      点$a$を中心とする円で,その内部で正則であるような半径の最大値を$r_0$とする. $\rho<r<r_0$である$r$$\rho$に対して, $\vert\zeta-a\vert=\rho$である点$\zeta$と,$a$を中心とする半径$r$の円$c$をとる.

$z$$c$上にあるとき,

\begin{eqnarray*}
\dfrac{1}{z-\zeta}&=&\dfrac{1}{(z-a)-(\zeta-a)}=\dfrac{1}{z-a...
...\dfrac{\zeta-a}{(z-a)^2}+\dfrac{(\zeta-a)^2}{(z-a)^3}+\cdots\\
\end{eqnarray*}

において, $\left\vert\dfrac{\zeta-a}{z-a} \right\vert=\dfrac{\rho}{r}<1$であるから,この等比数列は収束する. さらに,

\begin{displaymath}
\dfrac{f(z)}{z-\zeta}=\dfrac{f(z)}{z-a}+\dfrac{(\zeta-a)f(z)}{(z-a)^2}+\dfrac{(\zeta-a)^2f(z)}{(z-a)^3}+\cdots
\end{displaymath}

は,$c$上の$z$に対して一様収束する.なぜなら,$c$の上で,$\vert f(z)\vert<M$とすれば,

\begin{displaymath}
\left\vert\sum_{k=n}^{\infty}\dfrac{(\zeta-a)^kf(z)}{(z-a)^...
...}{r}\right)^k=\dfrac{M}{r-\rho}\left(\dfrac{\rho}{r}\right)^n
\end{displaymath}

であるから,定理[*]によって一様収束する. この結果

\begin{displaymath}
\dfrac{1}{2\pi i}\int_{c}\dfrac{f(z)}{z-\zeta}\,dz=
\sum_{...
...\dfrac{\rho}{r}\right)^n\int_{c}\dfrac{f(z)}{(z-a)^{n+1}}\,dz
\end{displaymath}

左辺は$f(\zeta)$に等しいので, $A_n=\dfrac{1}{2\pi i}\int_{c}\dfrac{f(z)}{(z-a)^{n+1}}\,dz$とおくと,

\begin{displaymath}
f(\zeta)=\sum_{n=0}^{\infty}A_n(\zeta-a)^n
\end{displaymath}

と,無限級数の和で表される.$a$を固定して$\zeta$を変数とみれば,これは$f(\zeta)$$a$における テーラー展開である.

このように,$f(z)$$a$の近傍で冪級数に展開されるので,$a$において何回でも微分可能である. □

このように,複素関数を考えるとき,その微分や積分は大きく統制された姿を現す. 冪級数で表される関数を解析関数というとすれば, 実関数の範囲では微分可能性と解析関数であることは同値ではないが, 複素関数の世界ではこれが同値になるのである.

ここから複素関数の世界は大きく展開する. それは他書にゆだねて,本稿はここまでとする.


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Aozora 2020-04-17