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複素平面の領域内の曲線
がある.曲線を分割しその分割をとする.
また,
を分割で分割された隣りあう二点間の距離の最大値とする.
そして,となるが
となるようにとられているものとする.また,この曲線は長さを有するものとする.
さらに,曲線が,有限個の点を除いて滑らかであるとき,
つまり有限個の点を除いてが微分可能であるとき,
このときこれを区分的に滑らかという.
これは対応する上の曲線が区分的に滑らかであることと同値である.
定理 4
関数
は領域
で定義された連続関数で,
曲線
は長さを有し,この領域に含まれ,区分的に滑らかであるとする.
分割を上記のようにとり,
点と点で切られる曲線の部分上にあるに対応する点を選んで,
和
をとる.
をどのように選んでも,極限
が存在する.
■
証明
,
,
とする.
このとき
である.定理によって,
のとき,
各成分の和は極限値を有する.よって本定理の極限値も存在する.
□
この極限値をのに沿う積分といい
と表す.
のに沿う積分
を,
,を明示して
などのように書くこともできる.
がで微分可能とする.
複素平面の曲線を実2次元平面の曲線と見なすと,
上記関係式からただちに
とまとめられる.
ここで変数をに置換すると
などとなるので,
となる.
また,積分路の逆向きの曲線をとすると
となる.
複素関数の曲線に沿う定積分は,実2次元上の関数の曲線に沿う2つの線積分の組であり,
またこれはリーマン和による定積分の思想的範疇に属するものである.
ここで複素解析のもっとも基本的な定理であるコーシーの積分定理を証明しよう.
定理 5
関数
は領域
で正則である.
領域
に含まれ,長さ
を有する区分的に滑らかな閉曲線
があり,
で囲まれた領域は領域
に含まれるとする.
このとき,上の積分に関して,
が成り立つ.
■
その証明を2通りに行う.
証明1
根拠となるのは,注()に述べたグリーンの定理のグルサによる一般化である.
で囲まれた領域をとする.
であるとする.
とする.が正則なので
が成り立ち,左辺はともに連続である.よって一般化されたグリーンの定理とこの関係を用いるとによって
が成り立つ.
よって
である.
□
注意 1.3.1
本証明は注(
)にあるグルサによる一般化を用いている.
このために,本稿としては自己完結していない.
この方向では,本稿で証明したグリーンの定理(定理
)の範囲内では証明できない.
ここでもし,定理
5の
に関する条件を
とすれば,グリーンの定理(定理
)から帰結される.
しかしの連続性は逆にコーシーの積分定理からの帰結として導かれる.
したがっての連続性を条件としないでコーシーの積分定理を証明したい.
それが次の方法であり,これは『解析概論』[#!______1!#]や『函数論』[#!_________!#]の方法である.
まずいくつかの補題を示す.
補題 1
関数
は領域
で連続である.
記号を定理
4と同様にとる.
このとき任意の正数に対し,
であれば
となる正数
と,
と
を結ぶ折れ線
が存在する.
■
証明
曲線を含み領域に含まれる閉領域をとる.
これは上の点と上の点との距離の最小値をとし
からの距離がを超えない点の集合をとればよい.
は連続であるから定理により,
で一様連続である.つまり
で
なら
となるようなが存在する.
このを,定理4の収束性を根拠に
も成立するようにとる.このように定めた上の点列
を順次結んでできる折れ線をとする.
このとき
となる.したがってこのに対して,
が成り立つ.
□
始点と終点の一致する折れ線を閉折れ線という.
同様に閉多角形折れ線も用いる.
2つの折れ線があり,第一の折れ線の始点と,第二の折れ線の始点をつなぐと新たな折れ線ができる.
これを折れ線の和という.逆に一つの折れ線を,辺と辺の交点までの折れ線と,
そこからはじまる折れ線の和に分けることができる.
一つの折れ線の間にある2つの頂点を線分で結ぶ.これによってその折れ線は
その線分を互いに逆の方向に通過する2つの折れ線に分けることができる.
この2つをいずれも折れ線の分解という.
折れ線が
折れ線
に分解されているとき,
である.
補題 2
折れ線の分解に関して命題:
- 閉折れ線は有限個の閉多角形折れ線の和に分解される.
- 閉多角形折れ線は有限個の閉三角形折れ線に分解される.
が成り立つ.
■
この結果,閉折れ線は有限個の閉三角形折れ線に分解される.
補題 3
と
は定数である.
長さ
を有し区分的に滑らかな閉曲線
上の積分に関して,
が成り立つ.
■
証明
曲線の分割を
とする.定積分の定義式で
のとき
また
で,
のとき
とできるので,
これより補題は成立する.
□
以上の準備のうえに,定理5の第2の証明を行う.
証明2
曲線の上の1点とる.からに至る任意の折れ線
に関して
が示されれば,補題1によって,定理5が成立する.
補題2によって,閉三角形折れ線に関して,
を示せばよい.
閉三角形折れ線を辺の中点を結ぶ線を新たな辺として4つに分解する.
これを繰りかえしてを個に分解する.
なので,右辺の各項のうち最大のものが
であるとする.
つまり
が成り立っている.の3頂点のうちいずれかを選びそれをとする.
補題1の証明の論証と同様に,数列は有界閉領域にある.
よって集積点を有し,収束部分列が存在する.それをとし
のときとする.任意の正数に対して,
を十分大きくとることによって,
|
(1.5) |
であるようにすることができる.の決め方から,
のとき
はの周か内部にあり,したがってその極限も
の周か内部にある.
またの周か内部の2点間の距離は,その周の長さに
を超えることはない.
つまり,の周か内部の任意の点に
対して
|
(1.6) |
が成り立つ.
はで正則であるから,
とおくと,
である.
よって任意の正数に対して,
なら
|
(1.7) |
となるようにできる.
このに対して,条件(1.5)が成り立つようにをとる.
このとき
補題3より第一項の積分値は0である.また
である.ゆえに,
である.は任意なので,これは
を意味している.
□
積分定理は次の2つの一般化が成り立つ.
この証明はここでは行わない.
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Aozora
2020-04-17