next up previous
次: 積分公式 上: 積分法 前: 積分法

積分定理

複素関数の積分

複素平面の領域$D$内の曲線

\begin{displaymath}
C:z=z(t),\ t \in [a,\ b]
\end{displaymath}

がある.曲線を分割しその分割を$\Delta$とする.

\begin{displaymath}
\Delta\ :\ z(a)=z_0,\ z_1,\ \cdots,\ z_n=z(b)
\end{displaymath}

また, $\left\vert\Delta \right\vert$を分割$\Delta$で分割された隣りあう二点間の距離の最大値とする. そして,$z_i=z(t_i)$となる$t_i$

\begin{displaymath}
a=t_0<t_1<\cdots<t_n=b
\end{displaymath}

となるようにとられているものとする.また,この曲線は長さ$L$を有するものとする.

さらに,曲線$C$が,有限個の点を除いて滑らかであるとき, つまり有限個の点を除いて$z(t)$が微分可能であるとき, このときこれを区分的に滑らかという. これは対応する$\mathbb{R}^2$上の曲線が区分的に滑らかであることと同値である.

定理 4        関数$w=f(z)$は領域$D$で定義された連続関数で, 曲線$C$は長さを有し,この領域に含まれ,区分的に滑らかであるとする.

分割$\Delta$を上記のようにとり, 点$z_{i-1}$と点$z_i$で切られる曲線$C$の部分上にある$t=\tau_i$に対応する点$z(\tau_i)$を選んで, 和

\begin{displaymath}
\sum_{i=1}^nf(z(\tau_i))\left(z_i-z_{i-1}\right)
\end{displaymath}

をとる.$\tau_i$をどのように選んでも,極限

\begin{displaymath}
\lim_{\left\vert\Delta \right\vert \to 0}
\sum_{i=1}^nf(z(\tau_i))\left(z_i-z_{i-1}\right)
\end{displaymath}

が存在する. ■

証明      $f(z)=P(x,\ y)+iQ(x,\ y)$$z_i=x_i+iy_i$ $\tau_i=\xi_i+i\eta_i$とする. このとき

\begin{eqnarray*}
&&f(z(\tau_i))\left(z_i-z_{i-1}\right)\\
&=&P(\xi_i,\ \eta_...
..._i,\ \eta_i)(y_i-y_{i-1})-Q(\xi_i,\ \eta_i)(x_i-x_{i-1})\right]
\end{eqnarray*}

である.定理[*]によって, $\left\vert\Delta \right\vert \to 0$のとき, 各成分の和は極限値を有する.よって本定理の極限値も存在する. □


この極限値を$f(z)$$C$に沿う積分といい $\displaystyle \int_Cf(z)\,dz$と表す.

$f(z)$$C$に沿う積分 $\displaystyle \int_Cf(z)\,dz$を, $\alpha=z(a)$$\beta=z(b)$を明示して

\begin{displaymath}
\int_{\alpha}^{\beta}f(z)\,dz
\end{displaymath}

などのように書くこともできる.

$z(t)$$a\le t \le b$で微分可能とする. 複素平面の曲線$C$を実2次元平面の曲線と見なすと, 上記関係式からただちに

\begin{eqnarray*}
\int_Cf(z)\,dz&=&
\left\{\int_CP(x,\ y)\,dx-\int_CQ(x,\ y)\,...
...\right\}\\
&=&\int_C\left\{P(x,\ y)+iQ(x,\ y)\right\}(dx+idy)
\end{eqnarray*}

とまとめられる. ここで変数を$t$に置換すると

\begin{displaymath}
\int_CP(x,\ y)\,dx=\int_a^bP\{x(t),\ y(y)\}x'(t)\,dt
\end{displaymath}

などとなるので,
$\displaystyle \int_Cf(z)dz$ $\textstyle =$ $\displaystyle \int_a^b\left\{P(x,\ y)+iQ(x,\ y)\right\}\{x'(t)+iy'(t)\}\,dt$  
  $\textstyle =$ $\displaystyle \int_a^bf\{z(t)\}z'(t)\,dt$ (1.4)

となる.

また,積分路$C$の逆向きの曲線を$-C$とすると

\begin{displaymath}
\int_{-C}f(z)\,dz=-\int_Cf(z)\,dz
\end{displaymath}

となる.

複素関数の曲線に沿う定積分は,実2次元上の関数の曲線に沿う2つの線積分の組であり, またこれはリーマン和による定積分の思想的範疇に属するものである.

コーシーの積分定理

ここで複素解析のもっとも基本的な定理であるコーシーの積分定理を証明しよう.

定理 5        関数$w=f(z)$は領域$D$で正則である. 領域$D$に含まれ,長さ$L$を有する区分的に滑らかな閉曲線$C$があり, $C$で囲まれた領域は領域$D$に含まれるとする. このとき,上の積分に関して,

\begin{displaymath}
\int_Cf(z)\,dz=0
\end{displaymath}

が成り立つ. ■

その証明を2通りに行う.

証明1      根拠となるのは,注([*])に述べたグリーンの定理[*]のグルサによる一般化である.

$C$で囲まれた領域を$[C]$とする.

\begin{displaymath}
C=\overline{[C]}-[C]=\partial[C]
\end{displaymath}

であるとする.

$f(z)=P(x,\ y)+iQ(x,\ y)$とする.$f(z)$が正則なので

\begin{displaymath}
\dfrac{\partial P}{\partial x}-\dfrac{\partial Q}{\partial ...
...frac{\partial P}{\partial y}+\dfrac{\partial Q}{\partial x}=0
\end{displaymath}

が成り立ち,左辺はともに連続である.よって一般化されたグリーンの定理とこの関係を用いるとによって

\begin{eqnarray*}
\int_C\left(Pdx-Qdy \right)&=&
\int \!\!\! \int_{[C]}\left(-...
...l P}{\partial x}-\dfrac{\partial Q}{\partial y} \right)\,dxdy=0
\end{eqnarray*}

が成り立つ. よって

\begin{displaymath}
\int_Cf(z)\,dz=\int_C(Pdx-Qdy)+i\int_C(Qdx+Pdy)=0
\end{displaymath}

である. □

注意 1.3.1        本証明は注([*])にあるグルサによる一般化を用いている. このために,本稿としては自己完結していない. この方向では,本稿で証明したグリーンの定理(定理[*])の範囲内では証明できない. ここでもし,定理5$f(z)$に関する条件を

\begin{displaymath}
f(z)は正則,かつf'(z)は連続
\end{displaymath}

とすれば,グリーンの定理(定理[*])から帰結される.

しかし$f'(z)$の連続性は逆にコーシーの積分定理からの帰結として導かれる. したがって$f'(z)$の連続性を条件としないでコーシーの積分定理を証明したい.

それが次の方法であり,これは『解析概論』[#!______1!#]や『函数論』[#!_________!#]の方法である.

まずいくつかの補題を示す.

補題 1        関数$f(z)$は領域$D$で連続である. 記号を定理4と同様にとる.

このとき任意の正数$\epsilon$に対し, $\left\vert\Delta \right\vert<\delta$であれば

\begin{displaymath}
\left\vert\int_Cf(z)\,dz-\int_{\Gamma}f(z)\,dz \right\vert<\epsilon
\end{displaymath}

となる正数$\delta$と, $z_0=z(a)$$z_n=z(b)$を結ぶ折れ線$\Gamma$が存在する. ■

証明      曲線$C$を含み領域$D$に含まれる閉領域$K$をとる. これは$C$上の点と$\partial D$上の点との距離の最小値を$R$とし $C$からの距離が$\dfrac{R}{2}$を超えない点の集合をとればよい.

$f(z)$は連続であるから定理[*]により, $K$で一様連続である.つまり $z,\ z'\in K$ $\left\vert z-z' \right\vert<\delta$ なら

\begin{displaymath}
\left\vert f(z)-f(z')\right\vert<\dfrac{\epsilon}{2L}
\end{displaymath}

となるような$\delta$が存在する. この$\delta$を,定理4の収束性を根拠に

\begin{displaymath}
\left\vert\int_Cf(z)\,dz-\sum_{i=1}^nf(z(\tau_i))\left(z_i-z_{i-1}\right) \right\vert<\dfrac{\epsilon}{2}
\end{displaymath}

も成立するようにとる.このように定めた$C$上の点列

\begin{displaymath}
\Delta\ :\ z(a)=z_0,\ z_1,\ \cdots,\ z_n=z(b)
\end{displaymath}

を順次結んでできる折れ線を$\Gamma$とする. このとき

\begin{eqnarray*}
&&\left\vert\sum_{i=1}^nf(z(\tau_i))\left(z_i-z_{i-1}\right)-...
...i=1}^n\left\vert z_i-z_{i-1} \right\vert\le \dfrac{\epsilon}{2}
\end{eqnarray*}

となる.したがってこの$\delta$に対して,

\begin{eqnarray*}
&&\left\vert\int_Cf(z)\,dz-\int_{\Gamma}f(z)\,dz \right\vert\...
... \right\vert
<\dfrac{\epsilon}{2}+\dfrac{\epsilon}{2}=\epsilon
\end{eqnarray*}

が成り立つ. □


始点と終点の一致する折れ線を閉折れ線という. 同様に閉多角形折れ線も用いる.

2つの折れ線があり,第一の折れ線の始点と,第二の折れ線の始点をつなぐと新たな折れ線ができる. これを折れ線の和という.逆に一つの折れ線を,辺と辺の交点までの折れ線と, そこからはじまる折れ線の和に分けることができる.

一つの折れ線の間にある2つの頂点を線分で結ぶ.これによってその折れ線は その線分を互いに逆の方向に通過する2つの折れ線に分けることができる.

この2つをいずれも折れ線の分解という. 折れ線$\Gamma$が 折れ線 $Q_1,\ \cdots,\ Q_m$に分解されているとき,

\begin{displaymath}
\int_{\Gamma}f(z)\,dz=\int_{Q_1}f(z)\,dz+\cdots+\int_{Q_n}f(z)\,dz
\end{displaymath}

である.

補題 2       折れ線の分解に関して命題:
  1. 閉折れ線は有限個の閉多角形折れ線の和に分解される.
  2. 閉多角形折れ線は有限個の閉三角形折れ線に分解される.
が成り立つ. ■

この結果,閉折れ線は有限個の閉三角形折れ線に分解される.

補題 3       $a$$b$は定数である. 長さ$L$を有し区分的に滑らかな閉曲線$C$上の積分に関して,

\begin{displaymath}
\int_C(az+b)\,dz=0
\end{displaymath}

が成り立つ. ■

証明     曲線$C$の分割を

\begin{displaymath}
\Delta\ :\ z(a)=z_0,\ z_1,\ \cdots,\ z_n=z(a)=z_0
\end{displaymath}

とする.定積分の定義式で $f(z)=az+b$のとき

\begin{eqnarray*}
\sum_{i=1}^nf(z(\tau_i))\left(z_i-z_{i-1}\right)&=&
\sum_{i=...
...1}\right)\\
&=&\sum_{i=1}^naz(\tau_i)\left(z_i-z_{i-1}\right)
\end{eqnarray*}

また

\begin{displaymath}
\sum_{i=1}^na\left(\dfrac{z_i+z_{i-1}}{2} \right)\left(z_i-z_{i-1}\right)=0
\end{displaymath}

で, $\left\vert\Delta \right\vert<\delta$のとき

\begin{displaymath}
\left\vert\dfrac{z_i+z_{i-1}}{2}-z(\tau_i)\right\vert<\epsilon
\end{displaymath}

とできるので,

\begin{displaymath}
\left\vert\sum_{i=1}^na(\tau_i)-\sum_{i=1}^na\dfrac{z_i+z_{i-1}}{2}\right\vert
<\epsilon\cdot L
\end{displaymath}

これより補題は成立する. □


以上の準備のうえに,定理5の第2の証明を行う.


証明2      曲線$C$の上の1点$\alpha$とる.$\alpha$から$\alpha$に至る任意の折れ線 $\Gamma$に関して

\begin{displaymath}
\int_{\Gamma}f(z)\,dz=0
\end{displaymath}

が示されれば,補題1によって,定理5が成立する.

補題2によって,閉三角形折れ線$\Gamma$に関して,

\begin{displaymath}
\int_{\Gamma}f(z)\,dz=0
\end{displaymath}

を示せばよい.

閉三角形折れ線$\Gamma$を辺の中点を結ぶ線を新たな辺として4つに分解する. これを繰りかえして$\Gamma$$4^n$個に分解する.

\begin{displaymath}
\int_{\Gamma}f(z)\,dz=\int_{\Gamma_1}f(z)\,dz+\cdots+\int_{\Gamma_{4^n}}f(z)\,dz
\end{displaymath}

なので,右辺の各項のうち最大のものが $\displaystyle \int_{\Gamma(n)}f(z)\,dz$であるとする. つまり

\begin{displaymath}
\left\vert\int_{\Gamma}f(z)\,dz \right\vert\le 4^n\int_{\Gamma(n)}f(z)\,dz
\end{displaymath}

が成り立っている.$\Gamma(n)$の3頂点のうちいずれかを選びそれを$z_n$とする. 補題1の証明の論証と同様に,数列$\{z_n\}$は有界閉領域にある. よって集積点を有し,収束部分列が存在する.それを$\{z_{n_k}\}$とし $n\to \infty$のとき$z_{n_k}\to c$とする.任意の正数$\delta$に対して, $N$を十分大きくとることによって,
\begin{displaymath}
\left\vert z_N-c \right\vert<\dfrac{\delta}{2},\ \quad
\dfrac{L}{2^N}<\dfrac{\delta}{2}
\end{displaymath} (1.5)

であるようにすることができる.$\{z_{n_k}\}$の決め方から, $n_k\ge N$のとき $z_{n_k}$$\Gamma(N)$の周か内部にあり,したがってその極限$c$$\Gamma(N)$の周か内部にある. また$\Gamma(N)$の周か内部の2点間の距離は,その周の長さに $\dfrac{L}{2^N}$を超えることはない. つまり,$\Gamma(N)$の周か内部の任意の点$z$に 対して

\begin{displaymath}
\left\vert z-c \right\vert\le \dfrac{L}{2^N}
\end{displaymath} (1.6)

が成り立つ. $f(z)$$D$で正則であるから,

\begin{displaymath}
f(z)=f(c)+f'(c)(z-c)+\eta(z)\cdot(z-c)
\end{displaymath}

とおくと, $\displaystyle \lim_{z \to c}\eta(z)=0$である. よって任意の正数$\epsilon$に対して, $\left\vert z-c \right\vert<\delta$なら
\begin{displaymath}
\left\vert\eta(z) \right\vert<\dfrac{\epsilon}{L^2}
\end{displaymath} (1.7)

となるようにできる. この$\delta$に対して,条件(1.5)が成り立つように$N$をとる. このとき

\begin{displaymath}
\int_{\Gamma(n)}f(z)\,dz=
\int_{\Gamma(n)}\left[f(c)+f'(c)...
...ht]\,dz+\int_{\Gamma(n)}\left[\eta(z)\cdot(z-c)\right]\,dz\\
\end{displaymath}

補題3より第一項の積分値は0である.また

\begin{displaymath}
\left\vert\int_{\Gamma(n)}\left[\eta(z)\cdot(z-c)\right]\,d...
...}\cdot\dfrac{L}{2^n}\cdot\dfrac{L}{2^n}=\dfrac{\epsilon}{4^N}
\end{displaymath}

である.ゆえに,

\begin{displaymath}
\left\vert\int_{\Gamma}f(z)\,dz \right\vert\le 4^n\cdot \dfrac{\epsilon}{4^N}=\epsilon
\end{displaymath}

である.$\epsilon$は任意なので,これは

\begin{displaymath}
\int_{\Gamma}f(z)\,dz=0
\end{displaymath}

を意味している. □

積分定理の拡張

積分定理は次の2つの一般化が成り立つ.

定理 6  
(1)
$f(z)$が単連結な領域$D$で正則な関数であり,閉曲線$C$$D$に含まれる.
(2)
領域$D$内の単一閉曲線$C$において,$C$の内部が$D$に含まれる.
いずれかの条件の下で,

\begin{displaymath}
\int_{C}f(z)\,dz=0
\end{displaymath}

が成り立つ. ■

この証明はここでは行わない.


next up previous
次: 積分公式 上: 積分法 前: 積分法
Aozora 2020-04-17