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整数の公理

整数の公理

整数論の分野で類体の基本定理を証明した高木貞治は,同時に日本近代の数学のために,『解析概論』[22]のように優れた一般書を書くとともに,また数の概念についても生涯研究し『新式算術講義』,『数学雑談』[23],『数の概念』[24]にその研鑽の跡を残している.

青空学園の『数論初歩』の「存在と構成」では自然数の公理から整数を構成した.自然数をすべての基礎とする考え方は,西洋の伝統である.これに対して,高木貞治の最後の著作となった『数の概念』では,整数の定義からはじまる.意識されていたのかどうかはわからないが,二つの方向の数を対等に扱う東洋的な数の世界をふまえた公理系が示されている.そして,それはより根底的で明晰である.

西洋数学では,あくまで自然数が基礎であり,負数や有理数は必要のために導かれるという立場である.つまり正の数こそ存在する第一のものであり,負数はそこから導かれるという立場である.これにたいして,『数の概念』における定義は,最初から負数も含めた整数の定義である.

また,高木貞治は「我々の整数は,物の数でもなく,物の順序を示すものでもない」(『数の概念』)という立場で整数を定義する.その立場では,数とはいわゆる基数としての数,また順序数としての数のいずれでもない.高木貞治が上記公理系で定義した数が,集合論と結びついて基数ともなり,また順序を定めるものともなる.これは世界的にも他にない一般的な考え方である.

この歴史的,文化的な問題に関しては『数とは何か そしてまた何であったか』[23]に詳しい.『数の概念』の公理系と,それにもとづく整数の定義をここに紹介する.

整数の公理を考えることは,我々の整数のすべての性質を導くのに,最小限どのような公理が必要であるかを考えることである.

定義 6        次の公理系を整数の公理という.集合$\mathbb{Z}$と写像 $\varphi:\mathbb{Z}\to \mathbb{Z}$が整数の公理を満たすとき, $(\mathbb{Z},\ \varphi)$を整数空間,$\mathbb{Z}$の要素を整数,$\mathbb{Z}$をすべての整数の集合という.
1.
$\varphi$$\mathbb{Z}$上の全単射写像である.
2.
$M\subset\mathbb{Z}$かつ$\varphi(M)=M$ならば$M=\mathbb{Z}$である.
3.
$\mathbb{Z}$は無限集合である.
ここで集合$A$が無限集合とは,$A$の真部分集合$B$で,$A$$B$の間に全単射が存在するものが存在することである. ■

『数論初歩』のペアノの公理で$+1$の操作にあたるのが$\varphi$である.高木の定義とペアノノ公理が結びつく.これから整数の諸性質を導くことは,基本的には『数論初歩』でやったのと同じことであるが,その骨子は次のようになされる.証明はつけないので,定理としては掲げない.

$\mathbb{Z}$の要素$x$に対して

\begin{displaymath}
x^+=\varphi(x),\ \quad x^-=\varphi^{-1}(x)
\end{displaymath}

とおく.また,$\mathbb{Z}$の部分集合$M$に対し
\begin{displaymath}
M^+=\{x^+\ \vert\ x\in M \},\ \quad
M^-=\{x^-\ \vert\ x\in M \}
\end{displaymath}

とを記号を定める. $\mathbb{Z}$の部分集合$K$
\begin{displaymath}
x\in K \to x^+\in K
\end{displaymath}

を満たすとき,$K$昇列と言う.部分集合$L$
\begin{displaymath}
x\in L \to x^-\in L
\end{displaymath}

を満たすとき,$L$降列と言う.

整数の大小

集合の包含関係$A \subset B$$A=B$を含む.$A$$B$の真部分集合であることを $A<B$と書く.
     $\mathbb{Z}$の二つの要素$a,\ b$に関して次のいずれか一つが成立する.
\begin{eqnarray*}
&&K(a)>K(b),\quad L(a)<L(b)\\
&&K(a)=K(b),\quad L(a)=L(b)\\
&&K(a)<K(b),\quad L(a)>L(b)
\end{eqnarray*}

それぞれに応じて$a,\ b$の大小を

\begin{displaymath}
a<b,\quad a=b,\quad a>b
\end{displaymath}

と定める.

$\le$$<$または$=$が成り立つ記号とすれば,$\le$は順序の定義4に従う.つまり整数の大小関係$\le$は順序であり,集合$\mathbb{Z}$は全順序集合である. しかし,この関係$\le$$\mathbb{Z}$は整列集合ではない.

数学的帰納法

数学的帰納法は次のように定式化される.

定理 5        数 $x\in \mathbb{Z}$に関する命題$P(x)$について,
  1. $P(a)$が真となる $a\in \mathbb{Z}$が存在する.
  2. $P(x)$が真ならば$P(x^+)$$P(x^-)$が真である.
という二命題が成立する.このとき,
\begin{displaymath}
すべての x\in \mathbb{Z}に対して P(x) は真である.
\end{displaymath}

が成立する.■

整数の加法

演算を定義する.そのために$\mathbb{Z}$から任意の一つの数を取り出し,それを記号0で表す.そして
\begin{displaymath}
\varphi(0)=1,\quad \varphi^{-1}(0)=-1
\end{displaymath}

と定める.

定理 6        $\mathbb{Z}$の要素$a$を任意にとる.このとき
\begin{eqnarray*}
&&F_a(0)=a\\
&&F_a(x^+)={F_a(x)}^+
\end{eqnarray*}

となる$\mathbb{Z}$から$\mathbb{Z}$への写像$F_a(x)$がただ一つ存在する. ■

この証明は$a$に関する数学的帰納法でなされる.

$a=0$のとき.$F_0(x)=x$とすると条件を満たし,かつこれ以外にないことが$x$に関する数学的帰納法で示される.その上で,$F_a(x)$の存在を仮定して$F_{a^+}(x)$$F_{a^-}(x)$

\begin{displaymath}
F_{a^+}(x)={F_{a}(x)}^+,\
F_{a^-}(x)={F_{a}(x)}^-
\end{displaymath}

と定める.これが条件を満たす証明はここではおく. こうしてその存在が確定した$F_a(x)$よって,$x$$a$の和$x+a$
\begin{displaymath}
F_a(x)=x+a
\end{displaymath}

で定める.この演算を加法とする. この加法によって$\mathbb{Z}$は可換群になることが示される.

整数の乗法

定理 7        $\mathbb{Z}$の要素$a$を任意にとる.このとき
\begin{eqnarray*}
&&G_a(0)=0\\
&&G_a(x^+)=G_a(x)+a
\end{eqnarray*}

となる$\mathbb{Z}$から$\mathbb{Z}$への写像$G_a(x)$がただ一つ存在する. ■

$G_a(x)$よって,$x$$a$の積$xa$

\begin{displaymath}
G_a(x)=xa
\end{displaymath}

で定める.

この演算を乗法とする.乗法は可換であり単位元1をもつ.逆元はもたない. 加法と乗法に関して分配法則が成り立つ.つまり整数$\mathbb{Z}$は環である.

この順序と演算に関して次の性質が成り立つ.

  1. $a\le b$ならば任意の$c$に対し$a+c\le b+c$
  2. $a\le b$ならば$0\le c$である$c$に対し$ac\le bc$

順序関係をもつので$\mathbb{Z}$は順序環といわれる.

数の正負と絶対値

$0<x$である数$x$を正の数といい,$x<0$である数$x$を負の数という. $x>0$なら両辺に$-x$を加えて$0>-x$が導かれる.さらに,負の数の積は正の数なることなどは,環と順序の基本性質から導かれる.

例 1.4        $x,\ y\in \mathbb{Z}$に対して$(-x)(-y)=xy$である. ■

証明


  1. \begin{displaymath}
x=1\times x=(0+1)\times x=0\times x+1\times x=0\times x+x
\end{displaymath}


    \begin{displaymath}
∴\quad 0\times x=0
\end{displaymath}


  2. \begin{displaymath}
0=0\times x=\{1+(-1)\}\times x=1\times x+(-1)\times x=
x+(-1)\times x
\end{displaymath}


    \begin{displaymath}
∴\quad (-1)\times x=-x
\end{displaymath}


  3. \begin{displaymath}
x+(-x)=1\times x+(-1)\times x=\{1+(-1)\}\times x=0\times x=0
\end{displaymath}


    \begin{displaymath}
∴\quad -(-x)=x
\end{displaymath}

    ところが
    \begin{displaymath}
-(-x)=(-1)\times \{(-1)\times x\}=\{(-1)\times (-1)\}\times x
\end{displaymath}

    なので
    \begin{displaymath}
\{(-1)\times (-1)\}\times x=x
\end{displaymath}

    $x=1$とすると
    \begin{displaymath}
(-1)\times (-1)=1
\end{displaymath}

    よってまた
    \begin{displaymath}
(-x)\times (-y)=(-1)\times x\times (-1)\times y
=\{(-1)\times (-1)\}\times x\times y=x\times y
\end{displaymath}

$x\in \mathbb{Z}$に対して負でない数 $\left\vert x \right\vert$

\begin{displaymath}
\left\vert x \right\vert=
\left\{
\begin{array}{ll}
x&(x\ge 0)\\
-x&(x<0)
\end{array}
\right.
\end{displaymath}

で定め,$x$絶対値という.

$x,\ y\in \mathbb{Z}$に対して不等式

\begin{displaymath}
\left\vert x+y \right\vert\le \left\vert x \right\vert+\left\vert y \right\vert
\end{displaymath}

が成り立つ.

その証明は次の補題による. $x,\ y\in \mathbb{Z}$とする.

(i)
$xy>0\ \iff\ (x>0,\ y>0)または (x<0,\ y<0)$
(ii)
$\left\vert x\right\vert^2=x^2$ $\left\vert xy \right\vert=\left\vert x \right\vert\left\vert y \right\vert$
(iii)
$x\ge 0,\ y\ge 0$のとき, $x\le y \ \iff\ x^2\le y^2$
(iv)
$xy\le \left\vert xy \right\vert$.等号は $(x\ge 0,\ y\ge 0)または (x\le 0,\ y\le 0)$のとき.
証明は略する.よって
\begin{eqnarray*}
&&\left\vert x+y \right\vert\le \left\vert x \right\vert+\lef...
...xy \right\vert+y^2\\
&\iff&xy\le \left\vert xy \right\vert.
\end{eqnarray*}

これは成立し,等号は $(x\ge 0,\ y\ge 0)または (x\le 0,\ y\le 0)$のときである.

これを三角不等式という.三角不等式の成り立つ絶対値が定義されると, これを用いて距離が定義される.つまり2数$x$$y$の距離を

\begin{displaymath}
\left\vert x-y \right\vert
\end{displaymath}

で定める.

有理数の構成

整数の集合$\mathbb{Z}$を用いて有理数の集合$\mathbb{Q}$を構成しよう.

$\mathbb{Z}$を整数の集合とする.次のような整数の組の集合を考える.

\begin{displaymath}
\mathbb{Z}\times\mathbb{Z}=\{\ (a,\ b)\ \vert\ a,b \in \mathbb{Z},\ b \ne 0\}
\end{displaymath}

この集合の二つの要素$(p,\ q)$$(a,\ b)$に対し,同値関係を,
\begin{displaymath}
(p,\ q)〜(a,\ b)\quad \iff\quad p b=q a
\end{displaymath}

で定める. このとき
\begin{displaymath}
(p,\ q)〜(a,\ b)\ かつ\ (a,\ b)〜(s,\ t)\quad \Rightarrow\quad
(p,\ q)〜(s,\ t)
\end{displaymath}

が成り立つ.実際
\begin{displaymath}
p b=q a\ かつ\ a t=b s\quad \Rightarrow\quad
p t a b=q s a b
\end{displaymath}

$a b\ne 0$なので$p t=q a$である. また,$a\ne 0$に対して
\begin{displaymath}
(a p,\ a q)=(p,\ q)
\end{displaymath}

も成り立つ. 従って「〜」は同値関係である.

定義 7        集合 $\mathbb{Z}\times\mathbb{Z}$のこの同値関係〜での商集合 $\mathbb{Z}\times\mathbb{Z}/〜$ を,有理数の集合といい,$\mathbb{Q}$と記する. ■

$\mathbb{Q}$の要素$a,\ b$に対し自然な形で和$a+b$と積$ab$が定まる. こうして集合$\mathbb{Q}$は次のような量の要請をすべて満たしている.

まず全順序集合である.つまり$\mathbb{Q}$は全順序集合4である. つまり,二つの有理数 $\dfrac{q}{p},\ \dfrac{t}{s}$に関して,

\begin{displaymath}
\dfrac{q}{p}<\dfrac{t}{s}\quad \iff\quad \exists n(\in \mathbb{N}); qs+n=pt
\end{displaymath}

と定める.負の有理数,正負の有理数の順序も通常の大小に一致するようにする. これが全順序であることが示され,有理数体は全順序集合である.

そして$\mathbb{Q}$は体である.つまり二つの演算, 加法と乗法が定義され次の性質を満たす.

  1. 2つの演算は結合法則を満たす.
    \begin{displaymath}
(a+b)+c=a+(b+c)\ ,\ \ (a\times b)\times c=a\times(b\times c)
\end{displaymath}

  2. 加法は可換である.$a+b=b+a$が成り立つ.
  3. $a+e=a$ $a\times f=f\times a=a$ となる要素 $e$$f$ が存在する. $e$ を加法の単位元といい,通常0と書く. $f$ を乗法の単位元といい,通常1と書く.
  4. $a+x=0$となる$x$ が存在する. これを $a$ の加法の逆元といい,$-a$ と書く.
  5. 0でない要素$a$に対して$a\times x=1$となる$x$ が存在する. これを $a$ の乗法の逆元といい,$a^{-1}$ と書く.
  6. 加法と乗法について分配法則が成り立つ.
    \begin{displaymath}
a\times(b+c)=a\times b+a\times c\ ,\ \
(b+c)\times a=b \times a+c \times a
\end{displaymath}

  7. 積が可換である. $a\times b=b\times a$が成り立つ.

この順序と演算に関して整数と同様に 和および正数の積は順序を保存する. 以上を満たす構造をもつ集合を順序体という.

有理数の稠密性

有理数の集合$\mathbb{Q}$は任意の要素$a,\ b\ (a<b)$に対して,

\begin{displaymath}
a<c<b
\end{displaymath}

となる $c\in \mathbb{Q}$が存在する.

実際,

\begin{displaymath}
a+a<a+b<b+b
\end{displaymath}

つまり$2a<a+b<2b$で,2の乗法に関する逆元$\dfrac{1}{2}$をもちいて $c=\dfrac{1}{2}(b+c)$とおけば$c$が条件を満たす.

このような集合は稠密であるといわれる. こうして有理数は稠密な全順序体である.


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2014-05-23