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切断の方法

デデキントの方法

有理数$\mathbb{Q}$が二つの集合$A$$B$の和集合で,$A$の任意の要素$a$$B$の任意の要素$b$の間につねに$a<b$が成り立っているとき,これを$(A\vert B)$と書いて「切断」と呼ぶ.$A$$(A\vert B)$の下組,$B$を上組という.

$A_1=\{\ x\ \vert\ x\le 3,\ x\in \mathbb{Q}\},\ B_1=\{\ x\ \vert\ 3<x,\ x\in \mathbb{Q}\ \}$とする.この切断$(A_1\vert B_1)$は有理数3を定める. $A_2=\{\ x\ \vert\ x<3,\ x\in \mathbb{Q}\},\ B_2=\{\ x\ \vert\ 3\le x,\ x\in \mathbb{Q}\ \}$とする.としたときも切断$(A_2\vert B_2)$は有理数3を定める. これは理解できる.

$A_3=\{\ x\ \vert\ x\le0\ または\ x^2<2,\ x\in \mathbb{Q}\ \},\ B_3=\{\ x\ \vert\ x>0\ かつ\ 2\le x^2,\ x\in \mathbb{Q}\ \}$とすると,$x^2=2$となる有理数は存在しないのだから,この境目になる有理数はない.実数ならいわゆる$\sqrt{2}$が対応するが,有理数のなかではこの切断の境目となる数は存在しない.しかし逆に見ると,有理数だけを用いて$\sqrt{2}$が指示できている.有理数を用いて実数を指示できる.それなら有理数から実数を構成する方法として,切断の集合

\begin{displaymath}
\{\ (A\vert B)\ \}
\end{displaymath}

を考えればよいのではないか.$A$から$B$か,$B$から$A$かへ1つの要素を動かしてそれを$A',\ B'$とするとき$(A'\vert B')$も切断になるなら
\begin{displaymath}
(A\vert B)〜(A'\vert B')
\end{displaymath}

とする.上の例では $(A_1\vert B_1)〜(A_2\vert B_2)$である.$x^2=2$となる有理数はないのだから,$(A_3\vert B_3)$はと同値なものは他にない.

切断の集合の同値関係$〜$による商集合を $R_D=\{\ (A\vert B)\ \}/〜$とおく.

定理 14       集合$R_D$には四則演算,大小関係が定義でき, 実数の公理を満たす. ■

以下方針のみとし証明は一部を除き略する.

まず,$R_D$には有理数$\mathbb{Q}$が自然に埋め込まれる. また,$\mathbb{Q}$の順序と整合する自然な順序が定義できる.

つまり,切断$(A\vert B),\ (C\vert D)$に対して異なる実数が定まるとする. したがって$A$$C$は一方の要素を動かして他方になるということも, 等しいこともない,とする. $A\subset C$なら$(A\vert B)<(C\vert D)$$C\subset A$なら$(A\vert B)>(C\vert D)$とすればよい. これによって$R_D$に順序が入る.

加法は次のように定めればよい. $\alpha$$\beta$がそれぞれ切断 $\alpha=(A,\ A')$ $\beta=(B,\ B')$で定義されているとする.

\begin{displaymath}
A+B=\{\ a+b\ \vert a\in A,\ b \in B\ \}
\end{displaymath}

とし,$A+B$の補集合を$(A+B)'$とするとき,$(A+B\vert(A+B)')$は切断であることが示される. この切断で定まる$R_D$の要素を$\alpha+\beta$と定める. これをもとに加法の逆元,0などを構成する. この加法と順序は順序の公理を満たす.

ここでは積を定義し,それが定義になっていることを示そう. 以下の定義は青空学園数学科の『解析概論』読書会における Kanneyさんの定義であり, 証明は南海によるものである.

定義 12 (切断の集合での積の定義)       $\alpha$の切断で0を含まない組を$C_{\alpha}$$\beta$のそれを$C_{\beta}$とし, $a\in C_{\alpha}$ $b \in C_{\beta}$の積$ab$の集合を $C_{\alpha\beta}$とする. それはある切断の0を含まないほうの組である.この切断をもって積$\alpha\beta$を定義する. ■

これで積が定義できていることを示す.

切断が有理数のときは$R_D$$\mathbb{Q}$の切断を同一視し, 具体的に考えるときは境界は上の集合に入れることにする.

$\alpha=(A\vert A')$$\beta=(B\vert B')$とする. 以下集合はすべて$\mathbb{Q}$の部分集合である.

1)
$\alpha>0,\ \beta>0$のとき. $C_{\alpha}=A'=\{x\vert x\ge \alpha\}$ $C_{\beta}=B'=\{x\vert x\ge \beta\}$. (順序は定義できているので有理数と無理数でも不等式は意味がある). $C_{\alpha\beta}$に対し, $K=C_{\alpha\beta}$とおく. $K$の補集合を$K'$とする. $\forall k\in K,\ \forall k'\in K'$に対し$k'< k$を示せばよい.

$k\ne k'$なので,$k'< k$を否定して$k<k'$となったとする. $a\in C_{\alpha}$ $b \in C_{\beta}$として $k=ab$とする. $k'=\{(k'/ab)a\}b$において,$k<k'$より$k'/ab>1$. よって $\{(k'/ab)a\}\ge a\ge \alpha$となる. つまり $\{(k'/ab)a\}\in C_{\alpha}$

$k'$$C_{\alpha}$$C_{\beta}$の要素の積で表せたので, $k'\in K'$と矛盾.よって$k'< k$.つまり$(K'\vert K)$は切断である.

2)
$\alpha=0,\ \beta>0$のとき. $C_{\alpha}=A=\{x\vert x<0\}$ $C_{\beta}=B'=\{x\vert x\ge \beta(>0)\}$. そこで $K=C_{\alpha\beta}$とおく.$K$の補集合を$K'$とする. $\forall k\in \mathbb{Q},\ k<0,\forall b\in C_{\beta}$に対して $k=b\times(k/b)$とすれば $k/b\in C_{\alpha}$. よって$K$はすべての負の有理数を含む. 明らかに0と正の有理数は含まない. よって$(K\vert K')$は切断であり0に一致する.
3)
$\alpha=0,\ \beta<0$のとき. $C_{\alpha}=A=\{x\vert x<0\}$ $C_{\beta}=B=\{x\vert x<\beta(<0)\}$. そこで $K=C_{\alpha\beta}$とおく.$K$の補集合を$K'$とする. $\forall k \in \mathbb{Q},\ k>0,\forall b\in C_{\beta}$に対して $k=b\times(k/b)$とすれば $k/b\in C_{\alpha}$. よって$K$はすべての正の有理数を含む. 明らかに0と負の有理数は含まない. よって$(K'\vert K)$は切断であり0に一致する. (こうして構成されたものは0が下に含まれる切断になる. これと0のみを上に移した切断は同じものである).
4)
$\alpha>0,\ \beta<0$のとき. $C_{\alpha}=A'=\{x\vert x\ge \alpha\},C_{\beta}=B=\{x\vert x<\beta\}$ $K=C_{\alpha\beta}$とおく.$K$の補集合を$K'$とする. $\forall k\in K,\forall k'\in K'$ に対し$k\le k'$を示せばよい. $k'< k$ となったとする.$k=ab$とおく.$k'<k=ab<0$である. $k'=\{(k'/ab)a\}b$とすると$k'/ab>1$より $\{(k'/ab)a\}>a\ge \alpha$. よって $\{(k'/ab)a\}\in C_{\alpha}$. したがって$k'$$C_{\alpha}$$C_{\beta}$の要素の積で表せたので, $k'\in K'$と矛盾.よって$k<k'$.つまり$(K\vert K')$は切断である.
5)
$\alpha<0,\ \beta<0$のとき. $C_{\alpha}=A=\{x\vert x<\alpha\},C_{\beta}=B=\{x\vert x<\beta\}$ $K=C_{\alpha\beta}$とおく.$K$の補集合を$K'$とする. $\forall k\in K,\forall k'\in K'$に対し$k'< k$を示せばよい. $k<k'$となったとする.$k=ab$とおく. $a<0,b<0,k>0$である. $k'=\{(k'/ab)a\}b$とすると$k'/ab>1$より $\{(k'/ab)a\}<a<\alpha$. よって $\{(k'/ab)a\}\in C_{\alpha}$. したがって$k'$$C_{\alpha}$$C_{\beta}$の要素の積で表せたので, $k'\in K'$と矛盾.よって$k'\le k$.つまり$(K'\vert K)$は切断である.
よって積が定義された. □

この積に関して結合法則が成り立ち,和との間で分配法則が成り立つ.

定理 15       $R_D$は連続のを満たす. つまり$A$$R_D$の空でない部分集合とする. 集合$A$が上に有界ならば$A$の上限$\sup A$が存在する. ■

証明     $A$は上に有界なので $\forall a\in A,\ a \le s$となる$s$が存在する. $s$を定める切断を$(S\vert S')$とする.
\begin{displaymath}
\forall (P\vert Q)\in A\quad \Rightarrow \quad P\subset S
\end{displaymath}

である.集合$A$に属する切断 $\left(P\vert Q \right)$の下組の和集合$L$をとる.
\begin{displaymath}
L=\bigcup_{\left(P\vert Q \right)\in A}P
\end{displaymath}

とおく.$L\subset S$であり,$L$の補集合を$L'$とすると

\begin{displaymath}
L'
=\overline{\bigcup_{\left(P\vert Q \right)\in A}P}
=\b...
...t)\in A}\overline{P}
=\bigcap_{\left(P\vert Q \right)\in A}Q
\end{displaymath}

となる.$(L|L')$は切断である.この切断の定める実数を$\alpha$とする.
\begin{displaymath}
\forall \left(P\vert Q \right)\in A,P\subset L
\end{displaymath}

なので,$\alpha$$A$の上界である. 一方, $\forall \left(P\vert Q \right)\in A,P\subset S$より$L\subset S$.つまり
\begin{displaymath}
(L\vert L')\le (S\vert S')
\end{displaymath}

となる.つまり$(L\vert L')$$A$の上界の最小値である.
\begin{displaymath}
∴\quad \alpha=\sup A
\end{displaymath}

このようにして,$R_D$も実数の公理をすべて満たすことが示された.

定理 16       $R_D$の順序で$R_D$自身に切断が定義される. この切断も同様に$(A\vert B)$のように表す. $(A\vert B)$$R_D$の切断であるとは

\begin{displaymath}
A\cup B=R_D,\ A\cap B=\emptyset ,\
\forall a\in A,\
\forall b\in B\ ,a<b
\end{displaymath}

このとき,$R_D$の切断では,$A$に最大値が存在するか$B$に最小値が存在するか, いずれかが成り立つ. ■

証明     $A$は上に有界であるから上限$\alpha$が存在する.$\alpha$$A$に属せば$\alpha$の最大値であり, $B$に属せば$B$の最小値である.□

このようにして$R_D$もまた実数の公理をすべて満たすことが示された.


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2014-05-23