集合の要素が集合の要素に対応するとき,これをと書く.関数におけるやは個別の要素と考えることもできる.しかし,文字とはそもそもそこに「数を入れる箱」でもあるので, では箱 に集合の要素を入れると,それに対応しての要素が定まる.その値を入れる箱 が であるとも考えることができる.
例えば,とする.にで対応する値がであると考えることができるが,また関数は のに集合の要素である値を入れることで,集合の要素が対応するという機能そのものをで表しているとも考えることができる.
関数のに対し集合を定義域,それに対し集合の部分集合
関数は変数にどのような文字を使うかを明示してと書くこともあれば,と書くこともある.またのように書くこともある.同一の関数を適宜と書いたりと書いたりもする.
関数というのは,数から数への対応の規則なので,一つの式で表される必要はない.例えば,
写像に関する,合成,全射・単射,逆写像の操作は,そのまま関数についてもあてはまる.また写像のグラフもまたそのまま関数のグラフに適用することができる.実数域で定義され,値域もまた実数である関数 において,平面の部分集合
これを「整関数」ということがあるがこれは正しくない.後に述べるが,任意の閉区間で一様に収束する巾級数 を「整関数」という.つまり,次数という点から見ると無限次数の多項式も含めて「整関数」である.また,複素関数論の分野になるのだが定義域を複素数にすると「整関数」は複素数を定義域とする関数で複素数全体で微分可能な関数と同等の意味になる.
整式関数はもちろん整関数なのだけれどなども整関数である.高校の参考書で整式関数のことを整関数といっているものがあるが,数学全体で言葉は統一して使うべきである.
整式とを用いて と書かれる式を有理式といい,が有理式のとき関数を有理関数という.また,整式を用いて と分数べきで書かれる部分をもつ式を無理式という.が無理式とき関数を無理関数という.
三角関数,指数関数についてはいくつかの準備が必要なので,後に定義する.
数列の収束を有限の言葉で論述するために論法は不可欠であった.関数の連続性や収束性を論述するためにも 論法を用いる.連続性の厳密な定義そのものが 論法を必要としている.
関数は実数の部分区間で定義されたものとする.は閉区間,開区間,半開区間,等である.ただし,区間の端点が開いている場合,としては,としてはもあるものとし, ,半開区間,等も考えるものとする.
実数の区間で定義され実数値をとる関数をとする.は集合から実数の集合への写像に他ならない.以下はこのような関数であるとする.
次のように数列の収束性の問題としてとらえることもできる.
証明 が(定義の意味で)点で連続であるとする.に収束する区間内の任意の数列をとる.正の実数を定める.正数で なら となるものが存在する.このに対してが存在し,のとき
逆を示す.定義の条件が成立しないとする.つまり正の実数で次の条件がなり立つものが存在するとする.
(1) 区間の部分集合を
同様になら, のに対してとなりやはりこれはがとなる部分集合の上限であることに反する.
よってである. より,つまりである.
(2) のとき. とすると となりでとなるものが存在する.このときである.逆の場合も同様である. □
まず,次の補題を示す.
定理27の証明 はで有界であるから, をの値域とするときは有界でありの上限,下限が存在する. とする.
となるの存在を示す.
に属するで となるものが存在する.存在しないということはの要素がすべて となるので,が上界の最小値であることに反するからである.このようなの一つをとする.数列 は を満たす.
は値域なのでとなるが存在する.数列は有界であるから,定理19によって収束部分列が存在する.それを
とし
とする.は閉区間であるからである.はで連続なので
最小値を与えるの値の存在も同様に示される. □
これら二つの存在定理は高校解析では「知られている」こととして提示される.そしてそれを根拠に「ロルの定理」,「平均値の定理」を証明する.二つの存在定理自体の証明は実数論をもとに大学初年級の数学でおこなう.
高校数学での中間値の定理などを,存在定理を感覚的な理解に留めるのではなく,高校,大学の役割分担を明示して,一貫した体系で教えなければならない.そのために,高校生に数学を教えるものは,その全体をつかみ,必要に応じて生徒に問いかけ,また答えることができなければならない.
もちろん,数学の歴史でもはじめから実数について今日のような理解があったわけではない.長い歴史のうえに今日があることを追体験したいものである.