next up previous 次: 初等関数 上: 関数の概念 前: 連続関数

一様連続

一様性をつかむ

解析の基礎において重要な問題は実は「一様連続」といわれる概念である. 高校の級数の収束や積分の定義などあらゆるところで現れている.しかし明示的には示されない.そこでこれを取り出して定義しておきたい.歴史的には,一様連続性の概念をつかむことによって,解析学の基礎が飛躍的に深まった.なお「一様連続性」とは「一様連続」が成立する関数のある性質,の意味である.


定義 15 (関数の一様連続性)       区間$I$で定義された関数$f(x)$がある.任意の正の実数$\epsilon$に対して,正の実数$\delta$

\begin{displaymath}
Iのxとcに対し\vert x-c\vert<\delta であるなら \vert f(x)-f(c)\vert<\epsilon
\end{displaymath}

となるものが存在するとき,関数$f(x)$は区間$I$で一様連続である,という. ■

一様連続でない例を考えるとよくわかる.区間$I$が閉区間なら,$I$で連続なら$I$で一様連続になることが次に示される.したがって開区間を考えなければならない.

例 3.3        $f(x)=\dfrac{1}{x-1}$は区間$[0,\ 1)$で一様連続ではない.

証明     $x_n=1-\dfrac{1}{2n},\ c_n=1-\dfrac{1}{n}$とすると $\vert x_n-c_n\vert=\dfrac{1}{2n}$であるが $\vert f(x_n)-f(c_n)\vert=n$である.したがって与えられた$\epsilon$に対しどのように$\delta$をとっても$n$を大きくとれば $\vert x_n-c_n\vert<\delta$であるが $\vert f(x_n)-f(c_n)\vert\ge\epsilon$となる$x$$c$が存在し,一様連続の条件はみたさない. □

これは,$x$が1に近づくと$x$が少し動いても$y$が大きく動くことになり,区間によらない$\delta$がとれないのである.

閉区間ではこのようなことは起こらない.

定理 28       閉区間$I$で連続な関数$f(x)$$I$で一様連続である. ■

証明     背理法で示す.$f(x)$について一様連続の条件が成立しないとする.ある$\epsilon$をとるとすべての$\delta$に対しある$x,\ c\in I$が存在して,

\begin{displaymath}
\left\vert x-c \right\vert<\delta,\ \left\vert f(x)-f(c) \right\vert\ge \epsilon
\end{displaymath}

となる. $\delta=\dfrac{1}{n}$とし,$x$$c$$x_n,\ c_n$とする.数列$\{x_n\}$は有界数列なので,定理19によって収束部分列 $\{x_{\varphi(n)}\}$が存在する.その極限値を$\alpha$とする. $x_{\varphi(n)}$に対応する $c_{\varphi(n)}$からなる数列も, $\left\vert x_{\varphi(n)}-c_{\varphi(n)} \right\vert<\dfrac{1}{\varphi(n)}\le \dfrac{1}{n}$であるから同じ$\alpha$に収束する.$I$は閉区間なので$f(x)$$x=\alpha$で連続である.よって

\begin{displaymath}
\lim_{n \to \infty}\left\vert f\left(x_{\varphi(n)}\right)-...
...t) \right\vert
=\left\vert f(\alpha)-f(\alpha) \right\vert=0
\end{displaymath}

これは, $\left\vert f(x_{\varphi(n)})-f(c_{\varphi(n)}) \right\vert\ge \epsilon$と矛盾する.

ゆえに閉区間$I$で連続な関数$f(x)$$I$で一様連続であることが示された. □

関数列の一様収束

関数列$\{f_n(x)\}$とは自然数を添え字とする関数の集合である.

関数$f(x)$と関数列$\{f_n(x)\}$がある.$x$を固定したとき$\{f_n(x)\}$は一つの数列である.$x$が一定の区間にあるとき,動くのは$x$$n$である.ここで,収束関数列の一様収束性の概念が生まれる.これについて基礎的事項を示していこう.

定義 16 (関数列の一様収束)       区間$I$で定義された関数$f(x)$と同じ区間で定義された関数の列$\{f_n(x)\}$がある.任意の正数$\epsilon$が与えられたとき,$I$に属する任意の$x$に対して,$x$によらない自然数$N$で,$n> N$ならば

\begin{displaymath}
\left\vert f(x)-f_n(x) \right\vert<\epsilon
\end{displaymath}

となるものが存在するとき,関数列$\{f_n(x)\}$は関数$f(x)$に一様収束するという. ■

定理 29       区間$I$で定義された関数$f(x)$と同じ区間で定義された関数の列$\{f_n(x)\}$がある.関数列$\{f_n(x)\}$は関数$f(x)$に一様収束し,すべての自然数$n$に対して$f_n(x)$$I$で連続なら,$f(x)$$I$で連続である. ■

証明     任意の正数$\epsilon$が与えられたとき,$I$に属する$x$に対して,$x$によらない自然数$N$で,$n\ge N$ならば

\begin{displaymath}
\left\vert f(x)-f_n(x) \right\vert<\dfrac{\epsilon}{3}
\end{displaymath}

となるものが存在する.また$f_N(x)$は連続なので,区間$I$の任意の$c$に対し,正数$\delta$で, $\left\vert x-c \right\vert<\delta$ならば

\begin{displaymath}
\left\vert f_N(x)-f_n(c) \right\vert<\dfrac{\epsilon}{3}
\end{displaymath}

となるものが存在する.このとき

\begin{eqnarray*}
\left\vert f(x)-f(c) \right\vert&\le&
\left\vert f(x)-f_N(x)...
...c{\epsilon}{3}+\dfrac{\epsilon}{3}+\dfrac{\epsilon}{3}=\epsilon
\end{eqnarray*}

ゆえに$f(x)$$I$で連続である. □

数列の基本数列,あるいはコーシー数列といわれる収束数列の概念と同様に,関数列に対してもコーシー列が定義される.

定義 17 (コーシー関数列)        区間$I$で定義された関数の列$\{f_n(x)\}$がある.任意の正数$\epsilon$が与えられたとき,$I$に属する任意の$x$に対して,$x$によらない自然数$N$で,$m,\ n> N$ならば

\begin{displaymath}
\left\vert f_n(x)-f_m(x) \right\vert<\epsilon
\end{displaymath}

となるものが存在するとき,関数列$\{f_n(x)\}$コーシー関数列であるという. ■

定理 30       区間$I$で定義された関数列$\{f_n(x)\}$がコーシー関数列であれば,関数列$\{f_n(x)\}$$I$を定義域とするある関数$f(x)$に一様収束する. $f_n(x)\ (n \in \mathbb{N})$が連続なら$f(x)$も連続である. ■

証明     $x=c$を固定すると関数値の数列$\{f_n(c)\}$はコーシー数列である.実数の完備性によってある実数値に収束する.その値を$f(c)$とする.$c\to f(c)$によって関数$f(x)$が定まり$x$を固定するごとに収束する.ところが$m,\ n> N$ならば

\begin{displaymath}
\left\vert f_n(x)-f_m(x) \right\vert<\epsilon
\end{displaymath}

となる$N$が存在するので,この両辺を$m$の数列と見て$m\to \infty$とすると,

\begin{displaymath}
\left\vert f_n(x)-f(x) \right\vert<\epsilon
\end{displaymath}

が得られ,$N$$x$によらないので,関数列$\{f_n(x)\}$は関数$f(x)$に一様収束する.連続性に関する命題は定理30より従う. ■

関数を項とする級数 $\displaystyle \sum_{n=0}^{\infty}f_n$についても,実数を項とする級数と同様に,部分和 $\displaystyle S_N(x)=\sum_{n=0}^{N}f_n$によって定まる関数列$\{S_N(x)\}$の極限として定義される.関数列$\{S_N(x)\}$$f$に一様収束するとき,級数 $\displaystyle \sum_{n=0}^{\infty}f_n$$f$に一様収束するという.$f$をその和といい, $f=\displaystyle \sum_{n=0}^{\infty}f_n$と表す.

定理 31       $I$で定義された関数列$\{f_n(x)\}$からできる級数 $\displaystyle \sum_{n=0}^{\infty}f_n$が一様収束するための必要十分条件は,任意の正数$\epsilon$が与えられたとき, $x\ (\in I)$によらない番号$N$で,$N\le m<l$ならば

\begin{displaymath}
\left\vert f_m(x)+f_{m+1}(x)+\cdots+f_l(x) \right\vert<\epsilon
\end{displaymath}

となるものが存在することである. ■

証明     これは定理21からただちに従う. □

系 31.1       正項級数 $\displaystyle \sum_{n=1}^{\infty}M_n$が収束し,区間$I$で定義された関数$f_n$を項とする級数 $\displaystyle \sum_{n=1}^{\infty}f_n$について

\begin{displaymath}
\left\vert f_n(x) \right\vert\le M_n\quad (x\in I,\ n\in \mathbb{N})
\end{displaymath}

が成立すれば, $\displaystyle \sum_{n=1}^{\infty}f_n$ $\displaystyle \sum_{n=1}^{\infty}\vert f_n\vert$は一様収束し,和について

\begin{displaymath}
\left\vert\left(\sum_{n=1}^{\infty}f_n\right)(x) \right\ver...
...^{\infty}\vert f_n\vert\right)(x)
\le \sum_{n=1}^{\infty}M_n
\end{displaymath}

が成り立つ. ■

証明     $I$$x$について

\begin{eqnarray*}
\left\vert f_m(x)+f_{m+1}(x)+\cdots+f_l(x) \right\vert&\le&
...
...s+\left\vert f_l(x) \right\vert\\
&\le&M_m+M_{m+1}+\cdots+M_l
\end{eqnarray*}

が成り立つ. 定理31から従う. □

これらの定理は後に関数の級数展開,微分方程式の解の存在定理を論じる基礎になる.


next up previous 次: 初等関数 上: 関数の概念 前: 連続関数

2014-05-23