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多次元微分

多変数関数の微分

以下では$N=2$とし,平面$\mathbb{R}^2$の部分集合$D$で定義された関数$f$を考える. これを$N$次元に一般化することは難しいことではないが,ときには$N$次の線型代数を必要とする. $f$の従属変数を$x$$y$にとり$z=f(x,\ y)$のように表す.$f$が連続な場合, $z=f(x,\ y)$によって$(x,\ y,\ z)$を座標系とする三次元空間$\mathbb{R}^3$に置かれた曲面が定まる.

定義領域$D$の点$(a,\ b)$をとる. $y$$b$に固定し$x$の関数としての$x=a$における微分係数が存在するときそれを$f_x(a,\ b)$と書き, $(a,\ b)$における$x$についての偏微分係数という. $x$$a$に固定し$y$の関数としての$y=b$における微分係数が存在するときそれを$f_y(a,\ b)$と書き, $(a,\ b)$における$y$についての偏微分係数という.

\begin{displaymath}
f_x(a,\ b)=\lim_{h \to 0}\dfrac{f(a+h,\ b)-f(a,\ b)}{h},\ \ \
f_y(a,\ b)=\lim_{h \to 0}\dfrac{f(a,\ b+h)-f(a,\ b)}{h}
\end{displaymath}

である.

$f$$D$の各点で$x$についての偏微分係数をもつとき,$(x,\ y)$にその偏微分係数値を対応させる関数を $f_x(x,\ y)$と書き,$f_x$$x$についての偏導関数という.

\begin{displaymath}
f_x,\ \dfrac{\partial f}{\partial x},\ z_x,\ \dfrac{\partial z}{\partial x}
\end{displaymath}

などと書く.$f$$D$の各点で$y$についての偏微分係数をもつとき,$(x,\ y)$にその偏微分係数値を対応させる関数を $f_y(x,\ y)$と書き,$f_y$$y$についての偏導関数という.
\begin{displaymath}
f_y,\ \dfrac{\partial f}{\partial y},\ z_y,\ \dfrac{\partial z}{\partial y}
\end{displaymath}

などと書く. 偏微分$f_x(a,\ b)$は,$z=f(x,\ y)$で定まる曲面を$xz$平面に平行な平面$y=b$ で切った断面上の曲線上の点 $(a,\ b,\ f(a,\ b))$での接線の傾きを表す. $f_y(a,\ b)$についても同様である. これはまだ$z=f(x,\ y)$の微分可能性を特徴づけたものではない.

一変数の場合の微分係数を顧みる. $\mathbb{R}$の区間で定義された関数$y=f(x)$$x=a$における微分係数$f'(a)$とは, $y=f(x)$のグラフである曲線の点$(a,\ f(a))$における接線の傾きであり,

\begin{displaymath}
y=f'(a)(x-a)+f(a)
\end{displaymath}

が接線の方程式であった.$x=a$における微分可能性とは, 点$(a,\ f(a))$における接線の存在に他ならなかった. いいかえると$f(x)$$x=a$における微分可能性とは
\begin{displaymath}
\lim_{x \to a}\dfrac{f(x)-f(a)-\{A(x-a)\}}{x-a}=0
\end{displaymath}

となる($a$のみによる)定数$A$の存在と同値である. これを二変数の場合に拡張する.

定義 34 (微分可能)        $D\subset \mathbb{R}^2$の変数で定義された関数$f(x,\ y)$$D$の点$(a,\ b)$に対し,
\begin{displaymath}
\lim_{(x,\ y) \to (a,\ b)}\dfrac{f(x,\ y)-f(a,\ b)-\{A(x-a)+B(y-b)\}}
{\vert x-a\vert+\vert y-b\vert}=0
\end{displaymath}

となる($a,\ b$のみによる)定数$A ,\ B$が存在 するとき,$f(x,\ y)$は点$(a,\ b)$微分可能であるという. 関数$f$$D$の各点で微分可能なとき$f$$D$において微分可能であるという. ■

定義34の条件は次の表現と同値である.


$D\subset \mathbb{R}^2$の変数を $\mathrm{\bf x}$, 定点を$\mathrm{P}$とする.

\begin{displaymath}
\lim_{\mathrm{\bf x} \to \mathrm{P}}\dfrac{f(\mathrm{\bf x}...
...htarrow{\mathrm{P\bf x}}}
{d(\mathrm{\bf x},\ \mathrm{P})}=0
\end{displaymath}

となるベクトル $\mathrm{\bf c}=(A,\ B)$が存在する.ただし, $\mathrm{\bf c}\cdot \overrightarrow{\mathrm{P\bf x}}$は内積を表す. ■

注意 6.2       本定義における「微分可能」を全微分可能ということも多い. ここは『解析概論』の用語に従った.


$f(x,\ y)$が点$(a,\ b)$で微分可能であるとする. $\rho(x,\ y)=f(x,\ y)-f(a,\ b)-\{A(x-a)+B(y-b)\}$とおくと $\displaystyle \lim_{(x,\ y) \to (a,\ b)}\rho(x,\ y)=0$なので, $f(x,\ y)$は点$(a,\ b)$で連続である.さらに,

\begin{displaymath}
\lim_{x \to a}\dfrac{f(x,\ b)-f(a,\ b)}{x-a}=
\lim_{x \to a}\left(A+\dfrac{\rho(x,\ b)}{x-a}\right)=A
\end{displaymath}

なので$A=f_x(a,\ b)$,同様に$B=f_y(a,\ b)$である.一次式
\begin{displaymath}
f_x(a,\ b)(x-a)+f_y(a,\ b)(y-b)
\end{displaymath}

全微分,平面
\begin{displaymath}
z=f(a,\ b)+f_x(a,\ b)(x-a)+f_y(a,\ b)(y-b)
\end{displaymath}

を曲面$z=f(x,\ y)$の点$(a,\ b)$における接平面という.

定理 74        $D\subset \mathbb{R}^2$で定義された関数$f$が偏導関数$f_x,\ f_y$をもち, $f_x,\ f_y$$D$で連続ならば,$f$$D$において微分可能である. ■
証明     $D$の点$(a,\ b)$をとり
\begin{displaymath}
\rho(x,\ y)=f(x,\ y)-f(a,\ b)-\{f_x(a,\ b)(x-a)+f_y(a,\ b)(y-b)\}
\end{displaymath}

とおく.一変数の平均値の定理によって
\begin{displaymath}
\begin{array}{ll}
f(x,\ y)-f(a,\ y)=f_x(c_1,\ y)(x-a)&(c...
...-f(a,\ b)=f_y(a,\ c_2)(y-b)&(c_2はbとyの間)
\end{array}
\end{displaymath}

と表される.よって
\begin{displaymath}
\rho(x,\ y)=\{f_x(c_1,\ y)-f_x(a,\ b)\}(x-a)+\{f_y(a,\ c_2)-f_y(a,\ b)\}(y-b)
\end{displaymath}

となる. $f_x,\ f_y$は連続なので,正数$\epsilon$に対し
\begin{eqnarray*}
&&\left\vert x-a \right\vert<\delta,\
\left\vert y-b \right...
...silon,\
\left\vert f_y(x,\ y)-f_y(a,\ b) \right\vert<\epsilon
\end{eqnarray*}

となる正数$\delta$が存在する.よって
\begin{displaymath}
\left\vert\rho(x,\ y) \right\vert
\le \epsilon\{\vert x-a\vert+\vert y-b\vert\}
\end{displaymath}

つまり
\begin{displaymath}
\lim_{(x,\ y) \to (a,\ b)}\dfrac{\rho(x,\ y)}{\vert x-a\vert+\vert y-b\vert}=0
\end{displaymath}

ゆえに$f$$(a,\ b)$で微分可能. $(a,\ b)$$D$の任意の点であるから,$f$$D$で微分可能である. □

注意 6.3       本定理は$f_x,\ f_y$の存在と,いずれか一方の連続性のみを仮定すれば成立する. これについては『解析概論』定理26を参照のこと.

系 74.1        領域$D$で関数$z=f(x,\ y)$が微分可能であるとする. $D$内の微分可能な曲線 $C:(\varphi(t),\ \psi(t)),\ t\in [a,\ b]$がある. 関数 $z(t)=f(\varphi(t),\ \psi(t))$に関して
\begin{displaymath}
\dfrac{dz}{dt}
=f_x(\varphi(t),\ \psi(t))\varphi'(t)+f_y(\varphi(t),\ \psi(t))\psi'(t)
\end{displaymath}

が成り立つ. ■
証明     記号は定理74を用いる. 区間$[a,\ b]$内の点$c$をとる.
\begin{eqnarray*}
&&f(\varphi(t),\ \psi(t))-f(\varphi(c),\ \psi(c))\\
&=&
f_...
...phi(c),\ \psi(c))(\psi(t)-\psi(c))+
\rho(\varphi(t),\ \psi(t))
\end{eqnarray*}

と表せる.ここで$t\to c$のとき
\begin{eqnarray*}
&&\left\vert\dfrac{\rho(\varphi(t),\ \psi(t))}{t-c} \right\ve...
...rt\varphi'(c)\right\vert+\left\vert\psi'(c)\right\vert\right)=0
\end{eqnarray*}

となる.よって
\begin{eqnarray*}
&&\lim_{t \to c}\dfrac{f(\varphi(t),\ \psi(t))-f(\varphi(c),\...
...rphi(c),\ \psi(c))\varphi'(c)+f_y(\varphi(c),\ \psi(c))\psi'(c)
\end{eqnarray*}

である. これが任意の$c\in D$で成立するので命題が示された. □

陰関数定理

$xy$平面の開集合$G$で定義された連続関数$F(x,\ y)$がある. $G$の点$(a,\ b)$$F(a,\ b)=0$であるとする. このとき, $a$を含む実数のある開区間$J$で定義された連続関数 $y=\varphi(x)$
\begin{displaymath}
\varphi(a)=b,\ \quad F(x,\ \varphi(x))=0
\end{displaymath}

を満たすものを, 方程式$F(x,\ y)=0$が定める陰関数という.

陰関数の存在に関して,次の定理が成り立つ.

定理 75 (陰関数定理)        $xy$平面の開集合$G$で定義された連続関数$F(x,\ y)$がある. $G$の点$(a,\ b)$$F(a,\ b)=0$であり,かつ
\begin{displaymath}
F_y(x,\ y)=\dfrac{\partial F}{\partial y}が連続,\ \quad
F_y(a,\ b)\ne 0
\end{displaymath}

である.このとき, $a$を含むある開区間$I$で連続で,$\varphi(a)=b$かつ $F(x,\ \varphi(x))=0$となる関数$\varphi(x)$がただ一つ存在する.

さらに,$F_x$が連続なら$\varphi(x)$は微分可能で

\begin{displaymath}
\varphi'(a)=-\dfrac{F_x(a,\ b)}{F_y(a,\ b)}
\end{displaymath}

となる. ■
証明     $F_x(a,\ b)=c$とし,
\begin{displaymath}
H(x,\ y)=y-\dfrac{F(x,\ y)}{c}
\end{displaymath}

とおく.$H(x,\ y)$は次の条件を満たしている.
\begin{displaymath}
H(x,\ y),\ H_y(x,\ y)は G で連続.\quad
H(a,\ b)=b,\ H_y(a,\ b)=0
\end{displaymath}

$0<r<1$をとる. $G$が開集合であり,$H_y(x,\ y)$$G$で連続で$H(a,\ b)=0$なので,

\begin{displaymath}
R=\{(x,\ y)\ \vert\ \vert x-a\vert\le h,\ \vert y-b\vert\le k \}\subset G
\end{displaymath}

をとり,$(x,\ y)\in R$に対して
\begin{displaymath}
H_y(x,\ y)<r
\end{displaymath}

となる$h>0$$k>0$が存在する. さらに$H$が連続で$H(a,\ b)=b$なので,$k$を十分小さく, $\vert x-a\vert<h$のとき
\begin{displaymath}
\left\vert H(x,\ b)-b \right\vert<(1-r)k
\end{displaymath}

となるように,とることができる. 平均値の定理から $(x,\ y_i)\ i=1,\ 2$に対し
\begin{displaymath}
\left\vert H(x,\ y_1)-H(x,\ y_2) \right\vert\le r\left\vert y_1-y_2 \right\vert
\end{displaymath}

である.よって$(x,\ y)\in R$に対し
\begin{eqnarray*}
\left\vert H(x,\ y)-b \right\vert
&\le&\left\vert H(x,\ y)-H...
...\vert\\
&\le&r\left\vert y-b\right\vert+(1-r)k\le rk+(1-r)k=k
\end{eqnarray*}

となる.

次に閉区間$I=[a-h,\ a+h]$での連続関数空間$C(I)$において, $y_1,\ y_2\in C(I)$に対して, 距離を $d(y_1,\ y_2)=\max\{y_1(x)-y_2(x)\ \vert\ x\in I\}$ で定める.そして部分空間$E$

\begin{displaymath}
E=\{y\ \vert\ y \in C(I),\ \left\vert y(x)-b \right\vert\le k\ (x \in I)\}
\end{displaymath}

にとると,距離空間$E$$d$に関して完備である.

$y\ (\in E)$に対して $T(y)(x)=H(x,\ y(x))$とおく.

\begin{displaymath}
\left\vert T(y)(x)-b \right\vert=\left\vert H(x,\ y(x))-b \right\vert\le k
\end{displaymath}

であるから,$T$$E$から$E$への写像である.

さらに, $y_1,\ y_2\in E$に対して,

\begin{eqnarray*}
\left\vert T(y_1)(x)-T(y_2)(x) \right\vert&=&
\left\vert H(x...
...
&\le &r\left\vert y_1(x)-y_2(x) \right\vert
\le rd(y_1,\ y_2)
\end{eqnarray*}

である.よって
\begin{displaymath}
d\left(T(y_1)-T(y_2) \right)=\max
\left\vert T(y_1)(x)-T(y_2)(x) \right\vert
\le rd(y_1,\ y_2)
\end{displaymath}

が成り立ち,$T$は縮小写像である.

不動点定理72によって,$T$はただ一つの不動点をもつ. それを$\varphi(x)$とすると,

\begin{displaymath}
\varphi(x)=H(x,\ \varphi(x))=\varphi(x)-\dfrac{F(x,\ \varphi)}{c}\ (x\in I)
\end{displaymath}

が成り立つ.つまり
\begin{displaymath}
F(x,\ \varphi(x))=0\ (x\in I)
\end{displaymath}

である.

条件を満たす$\varphi$$R$の関数としてただ一つである. つまり,$(x,\ y)\in R$$F(x,\ y)=0$であるとするとき, $y=\varphi(x)$が成り立つ.次のように示される.

$F(x,\ y)=0$より$y=H(x,\ y)$なので,

\begin{displaymath}
\left\vert y-\varphi(x) \right\vert=
\left\vert H(x,\ y)- ...
...varphi(x))\right\vert\le r\left\vert y-\varphi(x) \right\vert
\end{displaymath}

が成り立つ. $0<r<1$より $y-\varphi(x)=0$.つまり$y=\varphi(x)$が成り立つ. とくに,$(a,\ b)\in R$$F(a,\ b)=0$なので$b=\varphi(a)$である.

さらに,$F_x$も連続なら定理74によって$F$は全微分可能である. よって $f(t)=F(a+th,\ b+tk)$について, 区間$[0,\ 1]$で平均値の定理を用いることにより, その系74.1から

\begin{eqnarray*}
&&F(a+h,\ b+k)-F(a,\ b)\\
&=&F_x(a+\theta h,\ b+\theta k)h+
F_y(a+\theta h,\ b+\theta k)k
\end{eqnarray*}

である.$k$ $k=\varphi(a+h)-\varphi(a)$にとると,
\begin{displaymath}
F(a+h,\ \varphi(a+h))-F(a,\ b)=0-0=0
\end{displaymath}

なので,
\begin{displaymath}
\dfrac{\varphi(a+h)-\varphi(a)}{h}
=-\dfrac{F_x(a+\theta h,\ b+\theta k)}{F_y(a+\theta h,\ b+\theta k)}
\end{displaymath}

$h\to 0$をとって
\begin{displaymath}
\varphi'(a)=-\dfrac{F_x(a,\ b)}{F_y(a,\ b)}
\end{displaymath}

を得る. □

系 75.1        関数$f(x)$が開区間で微分可能で, その区間内の$c$$f'(c)\ne 0$であり, $\gamma=f(c)$なら,$f(x)$$\gamma$を含む開区間で定義された逆関数$y=\varphi(x)$をもつ. そして,
\begin{displaymath}
\varphi'(\gamma)=\dfrac{1}{f'(c)}
\end{displaymath}

となる. ■
証明    
\begin{displaymath}
F(x,\ y)=x-f(y)
\end{displaymath}

とおく.
\begin{displaymath}
F(\gamma,\ c)=0,\ F_y(x,\ y)=-f'(y),\ F_y(\gamma,\ c)=-f'(c)
\end{displaymath}

であるから,$f'(c)\ne 0$のとき陰関数$y=\varphi(x)$が存在し,
\begin{displaymath}
F(x,\ \varphi(x))=x-f(\varphi(x))=0,\varphi(\gamma)=c
\end{displaymath}

である.

さらに

\begin{displaymath}
F_x(x,\ y)=1\ne 0
\end{displaymath}

なので,
\begin{displaymath}
\varphi'(\gamma)=-\dfrac{1}{-f'(c)}=\dfrac{1}{f'(c)}
\end{displaymath}

である. □
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2014-05-23