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構成

今後の方向と構成について

この作業はもとより数学史自体を目的にするものではない.パスカルが実際にどのような証明をおこなったかということは,その精神の一端に触れ,今日への教訓と視座を得るうえで重要であり,可能なかぎり跡づけたい.しかしまた遺された資料からする限界もまたある.

大切なことは,パスカルの考え方を取り出すことである.『円錐曲線試論』そのものの読解をとおしてそれを行い,それを踏まえて射影幾何の再構成に進み,そして19世紀の代数幾何につながる段階まで進みたい.本稿は大きく四部とむすびの章で構成される.

第一は,パスカル十六歳の試論である『円錐曲線試論』を翻訳し解読する.『円錐曲線試論』の本文の検討をおこなったルネ・タトン(Runé Taton)の論文[12]がある.それをもとに読む.これを通して,今から350年前にパスカルが何を書き残したのか,それをつかむ.パスカルとデザルグによって現れた射影幾何を捉える.

そのうえで『円錐曲線試論』のすべての命題について,日本の高等学校の数学で届く範囲の証明をつける.その中にはパスカルの定理のパスカルによる証明も含まれる.そしてそれらの証明を吟味する.証明の根拠を考える.するとそこにいろいろな論理の欠陥が見つかる.典型的な問題は複比である.歴史的に複比は長さの比として定義された.しかしパスカルの時代に見出された射影幾何は長さから自由である.長さの比としての複比を用いた射影幾何の定理の証明は論理に陥穽がある.これはどういうことなのか.これらの証明を甦らせることは出来るのか.この問いを明確にする.

第二は,公理的な射影幾何の構成とパスカルの定理の証明である.ここで時空を越え,19世紀から20世紀初頭にかけて基礎が出来上がった公理の方法をとる.単純な公理系を立て,そこから射影幾何のすべてを再構成する.真理としての公理を立て,そこから論証することはエウクレイデスの『原論』以来の数学の方法であったが,今日においては,公理は真理であるということではなく,数学の構造を探求する方法として,公理を立て演繹を試みる.

このようにして構成された射影幾何のなかで改めて複比を定義し,複比を長さから解放する.そして円錐曲線を定義し,複比によるパスカルの定理を再構成する.これは19世紀の数学の基本課題であった.ポンスレによって大きく展開された古典的な射影幾何の方法を,この公理的に再構成された射影幾何の中で生かす.パスカルの定理のいくつかの別証明を行う.二次曲線は,双一次形式に由来する線型的な二次形式の側面と,代数幾何の対象である多様体の次数の低い場合としての側面とをあわせもつ.パスカルの定理でこれを確認し,証明をする.

第三は,ポンスレの定理である.ポンスレの定理の古典的な証明,射影幾何的証明,線型代数の証明,代数的証明,楕円積分による証明をすべて再構成する.

第四は,20世紀中葉になって再発見された,ポンスレの定理とケーリーの定理の楕円関数,また楕円曲線による証明の骨格をつかむ.これはリーマンやアーベルにはじまり現代につながる代数幾何の方法である.ここは研究ノートとして,再構成できたことを順次書いてゆく.

記号について

記述を簡明にするため,■で定義,定理,命題等の陳述の終わりを示し,□で証明の終わりを示すことにする.「系」とは定理からただちに導かれる命題,または定理の圏内にあって,関連する他の命題と結合することで示される命題を意味し,番号は「定理番号−系番号」となっている.公理も陳述文であるが,これには記号■はつけない.また主な定義は定義として立てるが,単に用語を定めるだけのときなど,文中においてなされることもある.
2014-01-03