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存在条件の導出

存在条件

$Q_0$に内接し,$Q_1$に外接する$n$角形を ポンスレ$n$角形といおう. 以下,ポンスレ$n$角形を考えるときは$n\ge 3$とする. $Q_0$$Q_1$がどのような条件を満たせば ポンスレ$n$角形が存在するのか.

ケーリーはこれにも答えている. しかしケーリーは結果のみを書いている. 論文集第2巻[42]所収の第115論文の結果を第116論文で訂正している. おそらくケーリーは膨大な計算のなかから帰納的に結論を得たのだろう. そしてその証明は,あるいはケーリーにとっては余りに自明なことであったのかも知れない.

その結果に対して,1978年グリヒス(Griffiths) と ハリス(Harris)が代数幾何的な 証明をおこなった. それが『ON CAYLEY'S EXPLICIT SOLUTION TO PONCELET'S PORISM』[39] である.グリヒスとハリスは,「このような十分条件を当初は知らなかった. この結論をケーリーは煩雑な楕円関数の考察から得たのかも知れない. しかしいずれにせよあまりにも結論は簡明である. この結論に対して代数幾何的な証明ができる」とのべ,それを実行している.

19世紀中葉,複素函数論にはじまり楕円関数からさらにその先へと, リーマン,アーベル,ヤコビ,そしてガウスらによって解析的な代数幾何がきり拓かれ, 大きく展開した.それは代数,幾何,解析の交叉する古典数学の華であった. 同じ頃,ポンスレらによる射影幾何もまた大きく発展した. ポンスレの定理からケーリーのポンスレ条件の発見もまた,この時代のことであった. ヤコビ,ケーリーの仕事にその結びつきの端緒があった. 1970年代になって,この二つが深く結びつき, ポンスレ条件の代数幾何による証明がなされたのである. ここでその基本的な論の構成を行う. ここでは証明をつけることを主眼にするのではなく. 逆に根拠をたどる方向で構成する. 証明や演繹的な構成は参考文献『Poncelet's Theorem』[40], 『Poncelet Porisms and Beyond』[41]などを見てもらいたい.

双対曲線

$P^2$にある円錐曲線$Q$の接線は双対空間$P^*$の点である. 円錐曲線$Q$の接線の集合は双対空間$P^*$の曲線をなす. この曲線を$Q$の双対曲線といい$Q^*$と表す.

命題 107        円錐曲線$Q$を定める行列を$T$とする. このとき${Q}^*$$T^{-1}$で定まる$P^*$の円錐曲線である. ■

証明      $P^2$の座標を $(x)=(x,\ y,\ z)$$P^*$の座標を $(X)=(X,\ Y,\ Z)$とする. $Q$の方程式を${}^t(x)T(x)=0$とする. $Q$上の点 $(a)=(a,\ b,\ c)$での接線は ${}^t(x)T(a)=0$である. この接線は$P^*$の点$(\alpha)=T(a)$に対応する. よって $(a)=T^{-1}(\alpha)$であり,$T$は対称なので ${}^t(a)={}^t(\alpha)T^{-1}$である. ${}^t(a)T(a)=0$なので,
\begin{displaymath}
{}^t(\alpha)T^{-1}(\alpha)=0
\end{displaymath}

つまり,点$(\alpha)$は方程式
\begin{displaymath}
{}^t(X)T^{-1}(X)=0
\end{displaymath}

を満たす.逆も成り立つ.よってこれが$Q^*$の方程式である. □
系 107.1        $(Q^*)^*=Q$である.■

明らかである.

線束楕円曲線

命題 108        $Q_0$$Q_1$が一般の位置にあるとする. このとき, 行列式 $\left\vert sC+tD \right\vert$によって定まる曲線

\begin{displaymath}
u^2t=\left\vert sC+tD \right\vert,\ 単位点=(t,\ s,\ u)=(0,\ 1,\ 1)
\end{displaymath}

は,楕円曲線である.これを線束楕円曲線という.

証明     一般に,射影平面上の曲線で $x$の3次または4次式$f(x)$を用いて非斉次座標で$y^2=f(x)$ で表され,特異点をもたない曲線と曲線上の指定された点(単位点)の組を楕円曲線という.

複素数体上の射影幾何であるので, 射影変換によって$Q^0$$Q^1$の方程式を $Q_0:x^2+y^2+z^2=0$ $Q_1:ax^2+by^2+cz^2=0$として一般性を失わない.

この射影変換によって,変数の定数倍することで 曲線 $u^2t=\left\vert sC+tD \right\vert$

\begin{displaymath}
u^2t=(s+at)(s+bt)(s+ct)
\end{displaymath}

となる.

二つの二次曲線$Q_0$$Q_1$が一般の位置にあれば, $a$$b$$c$は相異なり, ワイエルシュトラスの$\wp $関数 といわれる非特異な楕円曲線である. □

ポンスレ対応曲線

${Q_1}^*$の点は$P$の直線に対応する.$P^*$の点と$P$の直線を同一視する. 2つの円錐曲線の直積集合 $Q_0\times {Q_1}^*$の部分集合$E$を次のように定める.

\begin{displaymath}
E=\{(p,\ l)\ \vert\ (p,\ l)\in Q_0\times {Q_1}^*,\ p \in l \}
\end{displaymath} (5.20)

次の事実が成り立つ.

命題 109        $E$$Q_0$$Q_1$で定まる線束楕円曲線と双有理同型な 楕円曲線である.

これをポンスレ対応曲線という. ■

証明      複素数体上の射影幾何であるので, 射影変換によって$Q^0$$Q^1$の方程式を $Q_0:x^2+y^2+z^2=0$ $Q_1:ax^2+by^2+cz^2=0$として一般性を失わない. このとき楕円曲線$E$は方程式

\begin{displaymath}
y^2=(x+a)(x+b)(x+c)
\end{displaymath}

で定まる$\mathbb{C}^2$におかれた楕円曲線と双有理同型であることを示す.

${D}^{-1}=\left(
\begin{array}{ccc}
\frac{1}{a}&0&0\\
0&\frac{1}{b}&0\\
0&0&\frac{1}{c}
\end{array}\right)$であるから${Q_1}^*$は方程式

\begin{displaymath}
\dfrac{X^2}{a}+
\dfrac{Y^2}{b}+
\dfrac{Z^2}{c}=0
\end{displaymath}
で定まる円錐曲線である. よって集合$E$
\begin{displaymath}
E=\{(x,\ y,\ z,\ X,\ Y,\ Z)\ \vert\
x^2+y^2+z^2=0,\
\dfrac{X^2}{a}+\dfrac{Y^2}{b}+\dfrac{Z^2}{c}=0,\
xX+yY+zZ=0\}
\end{displaymath}

と表される.

$zZ=-(xX+yY)$より

\begin{displaymath}
\dfrac{z^2X^2}{a}+\dfrac{z^2Y^2}{b}+\dfrac{(xX+yY)^2}{c}=0
\end{displaymath}

これから
\begin{displaymath}
\left(\dfrac{z^2}{a}+\dfrac{x^2}{c}\right)X^2+\dfrac{2xy}{c}XY+
\left(\dfrac{z^2}{b}+\dfrac{y^2}{c}\right)Y^2=0
\end{displaymath}

$\left(\dfrac{z^2}{a}+\dfrac{x^2}{c}\right)$をかけて平方完成して
\begin{displaymath}
\left\{\left(\dfrac{z^2}{a}+\dfrac{x^2}{c}\right)X+\dfrac{x...
...dfrac{z^2}{ab}+\dfrac{x^2}{bc}+\dfrac{y^2}{ca}\right)z^2Y^2=0
\end{displaymath}

を得る.以下計算を簡明にするため非同次座標で考える. $W=\dfrac{X}{Y}$とする.

$t=\dfrac{i}{z}\left\{\left(\dfrac{z^2}{a}+\dfrac{x^2}{c}\right)W+\dfrac{xy}{c}\right\}$とおく.

$x^2+y^2+z^2=0$ $x=s^2-1,\ y=2s,\ z=i(s^2+1)$という媒介変数表示をもつので,

\begin{eqnarray*}
t^2&=&\left(\dfrac{z^2}{ab}+\dfrac{x^2}{bc}+\dfrac{y^2}{ca}\r...
...ight\}
=\dfrac{1}{abc}\left\{(a-c)(s^2-1)^2+4(b-c)s^2 \right\}
\end{eqnarray*}

つまり適当な平方根をとって
\begin{eqnarray*}
\left(\sqrt{\dfrac{abc}{a-c}}t \right)^2
&=&(s^2-1)^2+\dfrac...
...(s^2+\dfrac{2b-a-c}{a-c} \right)^2+\dfrac{4(b-c)(a-b)}{(a-c)^2}
\end{eqnarray*}

を得る.ここで
\begin{displaymath}
s=\dfrac{v}{\sqrt{2}u},\
\sqrt{\dfrac{abc}{a-c}}t=u-\left(s^2+\dfrac{2b-a-c}{a-c} \right)
\end{displaymath}

と置き換えると
\begin{displaymath}
u^2-2\left(\dfrac{v^2}{2u^2}+\dfrac{2b-a-c}{a-c} \right)u=\dfrac{4(b-c)(a-b)}{(a-c)^2}
\end{displaymath}

これから
\begin{displaymath}
v^2=u\left\{u-\dfrac{2(b-a)}{a-c} \right\}\left\{u-\dfrac{2(b-c)}{a-c} \right\}
\end{displaymath}

となる. $\dfrac{a-c}{2}u$$u$ $\left(\dfrac{a-c}{2}\right)^{\frac{3}{2}}v$$v$にとり直すことによって
\begin{displaymath}
v^2=u(u-b+a)(u-b+c)
\end{displaymath}

最後に$u-b$$X$にとり直して.
\begin{displaymath}
v^2=(u+a)(u+b)(u+c)
\end{displaymath}

を得る.

ところが

\begin{displaymath}
(u+a)(u+b)(u+c)=
\left\vert
\begin{array}{ccc}
u+a&0&0...
...&u+c
\end{array}
\right\vert
=\left\vert uC+D \right\vert
\end{displaymath}

である. $Q_0$$Q_1$が一般の位置にある場合, $a$$b$$c$は相異なり, その結果, $v^2=(u+a)(u+b)(u+c)$は非特異な楕円曲線である. □

以上は,『代数幾何学』[38]による代数的な計算にもとづく証明である. この証明はまた,『Poncelet's Theorem』[40]にあるように, $E$に解析構造を入れ,リーマン面としこれが楕円曲線であることを示す, という方向でもなされる.これは後におこなう.

ポンスレの定理と線束楕円曲線

以下,楕円曲線の点の間の和と差は加群としての演算である.

接線$l$$Q_0$との他の交点を$p'$とする.これによって 写像

\begin{displaymath}
\iota_1:E\to E\ ;(p,\ l)\mapsto (p',\ l)
\end{displaymath}
が定まる.点$p'$を通り$Q_1$に接する他の接線を$l'$とする.これによって 写像
\begin{displaymath}
\iota_2:E\to E\ ;(p',\ l)\mapsto (p',\ l')
\end{displaymath}

が定まる.これらはそれぞれ$E$上の対合である. その合成をとり
\begin{displaymath}
\varphi=\iota_2\circ\iota_1
\end{displaymath}

とおく. これを用いると, ポンスレの定理は次のように表される.
命題 110        自然数$n$に対して,$x_0\in E$ $\varphi^n(x_0)=x_0$となるものが存在すれば, $\varphi^n$$E$の恒等写像である. ■

このようにとらえることで, ポンスレの定理を$E$とその上の対合の合成に関する命題としてとらえることができる. この命題そのものは,われわれもさまざまの方法で証明してきた. さらに次に示すような代数群としての$E$の演算を用いる証明が出来る.

ポンスレ条件

どのような条件を$Q_0$$Q_1$が満たせば, ポンスレ$n$角形が存在するのか. ポンスレ$n$角形の存在条件をポンスレ条件といおう.

ここでケーリーからグリヒスに引き継がれた考え方を用いる.

     $Q_0$$Q_1$の4つの交点を $p_i\ (i=0,\ 1,\ 2,\ 3)$ とし$p_0$における$Q_1$の接線を$l_0$とする. $E$の単位元として $\mathfrak{o}=(p_0,\ l_0)\in E$をとる. そして $\underline{x}=\varphi(\mathfrak{o})=(\underline{p},\ \underline{l})$ とおく.

これを用いるとポンスレ条件は次のように表される.

命題 111        自然数$n$に対して, $E$の任意の元$x(\in E)$にはじまるポンスレ$n$角形存在するための 必要十分条件は, $n\underline{x}=\mathfrak{o}$となることである. ■

この命題は次の事実から示される.

命題 112        対合の合成である$E$の自己同型$\varphi$は,ある定点$y_0$を用いて

\begin{displaymath}
\varphi(x)=x+y_0
\end{displaymath}

と表される. ■

これは代数的にも解析的にも証明される.『代数幾何学』[38]等参照.

ところが

\begin{displaymath}
\varphi(\mathfrak{o})=\mathfrak{o}+y_0=y_0=\underline{x}
\end{displaymath}

より $\varphi(x)=x+\underline{x}$となる.この結果
\begin{displaymath}
\varphi^n(x)=x+n\underline{x}
\end{displaymath}

となる.よって$\varphi^n$が恒等写像であることと $n\underline{x}=\mathfrak{o}$が同値となる.

ポンスレの定理110の証明

以上の考察は,ポンスレ条件を求めるために準備として行ったのであるが, この時点でポンスレの定理110そのものは証明される. $\varphi^n(x_0)=x_0$となる$x_0$が存在すれば,

\begin{displaymath}
\varphi^n(x_0)=x_0+n\underline{x}=x_0
\end{displaymath}

より $n\underline{x}=\mathfrak{o}$が結論され, $\varphi^n(x)=x$がすべての$x$で成立する. □

これが楕円曲線によるポンスレの定理の証明である.

n分点

$n\underline{x}=\mathfrak{o}$となるような $\underline{x}$$n$分点という. $\underline{x}$$n$分点となる$Q_0,\ Q_1$の条件, それがポンスレ条件である. それを具体的に記述するために,$E$にあわせて さらにこれと同型な二つの楕円曲線, 線束楕円曲線と複素平面のトーラスで定まる楕円曲線を導入する.

線束楕円曲線との同型

ここで,線束楕円曲線とポンスレ対応曲線の同型を, 具体的な対応まで含めて,解析的方法で証明する.

定義108で定義された線束楕円曲線を$S$とする. $S$を非斉次座標で考えその方程式を

\begin{displaymath}
y^2=\left\vert x C+D \right\vert
\end{displaymath} (5.21)

とする.$Q_0,\ Q_1$が一般の位置にあるので,系91.1より 3次方程式 $\left\vert x C+D \right\vert=0$は相異なる3根 $a_i\ (i=1,\ 2,\ 3)$をもつ. $x \ne a_i$のときは$x=\lambda$に対して$S$の2点
\begin{displaymath}
(\lambda,\ \pm\sqrt{\left\vert\lambda C+D \right\vert})
\end{displaymath}

が対応する.$x =a_i$のときは1点$(a_i,\ 0)$が対応し, $x =\infty$のときは1点 $(\infty,\ \infty)$が対応する.

次に$E$の点と複素数$\lambda$の対応を次のように定める.

曲線束の曲線$Q(\lambda)$$p_0$を通る接線を引き, その接線と$Q_0$の交点のうち$p_0$でないものを$p(\lambda)$とする. $Q(\infty)=Q_0$$Q(0)=Q_1$なので, $p(\infty)=p_0,\ p(0)=\underline{p}$である. また$Q(a_i)$は退化二次曲線,つまり4交点を通る2直線であるから,

\begin{displaymath}
\{Q(a_i)\}=\{p_i\}
\end{displaymath}

である.

したがって $\lambda \ne a_i,\ \infty$$\lambda$に対しては, $E$の2点が対応し, $\lambda = a_i,\ \infty$に対しては1点が対応する.

$\mathbb{C}$$E$の対応において, $\lambda=0$に対応する$E$の2点 $\underline{x}=(\underline{p},\ \underline{l})$ $(\underline{p},\ l_0)$のうち$\underline{x}$をとる. $\mathbb{C}$$S$の対応において, $\lambda=0$に対応する$S$の2点 $(0,\ \pm\sqrt{\left\vert D \right\vert})$のいずれかをとる. ここでは $(0,\ \sqrt{\left\vert D \right\vert})$をとるものとする. $\lambda$に対応する$E$$S$のそれぞれ2点のうち, ここからの解析接続で定まる方をとる. これによって$E$$S$の間の一対一対応$\psi$が定義される.

命題 113        対応$\psi$は, 定義5.20で定まる楕円曲線 $(E,\ \mathfrak{o})$と, 方程式5.21で定義された線束楕円曲線 $(S,\ (\infty,\ \infty))$の 同型対応である. ■
注意 5.3.4        私は当初,ケーリーの第113論文と『代数幾何学』[38]を学んだ段階で, 命題109に続く証明のような形で同型を示した. しかしこれは点の対応まで見通せていないものであり, このままではポンスレ条件の導出はできなかった.

ワイエルシュトラスの$\wp $関数

線束楕円曲線$S$はまた,複素平面から作られるトーラスをリーマン面とする楕円曲線と同型である.

$\omega_1$$\omega_2$を比が実数倍でない二つの複素数とする.

\begin{displaymath}
\Lambda=\{m \omega_1+ n\omega_2\ \vert\ m,\ n \in \mathbb{Z}\}
\end{displaymath}

をこれらで張られる格子とする. このとき商集合 $\mathbb{C}/\Lambda$はトーラストなる.

次にこの格子に対してワイエルシュトラスの$\wp $関数を次の無限級数で定義する.

\begin{displaymath}
\wp(z)=\dfrac{1}{z^2}+\sum_{\omega\ne 0}\left(\dfrac{1}{(z-\omega)^2}-\dfrac{1}{\omega^2} \right)
\end{displaymath}

和は$\omega\ne 0$である$\Lambda$全体にわたる.定義から$\wp $
\begin{displaymath}
\wp(z+m \omega_1+ n\omega_2)=\wp(z),\quad (m,\ n \in \mathbb{Z})
\end{displaymath}

という二重周期関数である. 次の命題が成り立つ.
命題 114  
i)
級数$\wp $$\Lambda$と交わらない任意のコンパクトな領域で一様に収束する.したがって$\wp(z)$$\Lambda$を除く$\mathbb{C}$のうえで解析的である.そして$\Lambda$の各点で2位の極をもつ.
ii)
すべての$z$に対して $\wp(-z)=\wp(z)$である.
iii)
$\wp(z)$$\omega_1$$\omega_2$を周期とする楕円関数である. ■
この基礎のうえに次の事実が成り立つ.
命題 115  
i)
$\wp'(z)$$\Lambda$の各点で3位の極をもつ楕円関数である.
ii)
$\wp(z_1)=\wp(z_2)$は, $z_2\equiv \pm z_1\ \quad (\bmod.\ \Lambda)$と同値である.
iii)
$\Lambda$で定まる2定数$g_2,\ g_3$
\begin{displaymath}
g_2=g_2(\Lambda)=60\sum_{\omega\ne 0}\omega^{-4},\
g_3=g_3(\Lambda)=140\sum_{\omega\ne 0}\omega^{-6}
\end{displaymath}

とおくと

\begin{displaymath}
{\wp'}^2(z)=4\wp^3-g_2\wp-g_3
\end{displaymath}

が成り立つ.
iv)
3次方程式 $4t^3-g_2t-g_3=0$は相異なる3根をもち, それは

\begin{displaymath}
e_1=\wp\left(\dfrac{\omega_1}{2} \right),\
e_2=\wp\left...
...ight),\
e_3=\wp\left(\dfrac{\omega_1+\omega_2}{2} \right)
\end{displaymath}

で与えられる. ■

また$\wp $は次の形の加法定理をもつ. これは加法定理(5.12)からの直接の帰結でもある.

命題 116        $\wp $関数の加法公式:
\begin{displaymath}
\wp(u+v)+\wp(u)+\wp(v)
=\dfrac{1}{4}\left\{\dfrac{\wp'(u)\mp \wp'(v)}{\wp(u)-\wp(v)} \right\}^2
\end{displaymath}

が成り立つ.■

命題 117        3次方程式 $4t^3-c_2t-c_3=0$が重根をもたないとき, つまりその判別式 $D=-\dfrac{1}{16}\left({c_2}^3-27{c_3}^2\right)$に関して ${c_2}^3-27{c_3}^2\ne 0$が成り立つとき, 格子$\Lambda$
\begin{displaymath}
g_i(\Lambda)=c_i, \quad (i=2,\ 3)
\end{displaymath}

となるものが存在する. ■
系 117.1        $e_1+e_2+e_3=0$である相異なる3数に対して 命題114のiv)となる$\wp $関数が存在する. ■

線束楕円曲線と$\wp $関数の同型

3次方程式 $\left\vert\lambda C+D \right\vert=0$は相異なる3根 $a_i\ (i=1,\ a_2,\ a_3)$をもつ.行列$C$$D$は定数倍の同値類の代表であるから,$\vert C\vert=1$にとれる.このとき線束楕円曲線$S$の方程式(5.21)は
\begin{displaymath}
y^2=(x-a_1)(x-a_2)(x-a_3)
\end{displaymath} (5.22)

と因数分解される.このとき$S$ $S(a_1,\ a_2,\ a_3)$と表す.
命題 118        $S(a_1,\ a_2,\ a_3)$に対して格子$\Lambda$が存在し, $S(a_1,\ a_2,\ a_3)$は楕円曲線 $\mathbb{C}/\Lambda$と同型になる. 逆に任意の格子$\Lambda$に対し $\mathbb{C}/\Lambda$ $S(a_1,\ a_2,\ a_3)$が同型となる $a_1,\ a_2,\ a_3$が存在する. ■

この対応は次のようになされる. $a_1,\ a_2,\ a_3$に対して$s=a_1+a_2+a_3$とし, $e_i=a_i-\dfrac{s}{3}$とおくと$e_i$の和は0なので, 系117.1より格子$\Lambda$でその$\wp $関数が

\begin{displaymath}
{\wp'}^2=4(\wp-e_1)(\wp-e_2)(\wp-e_3)
\end{displaymath}

となるものが存在する. $z\in \mathbb{C}$に対して
\begin{displaymath}
\varphi(z)=\left(\wp(z)+\dfrac{s}{3},\ \dfrac{\wp'(z)}{2} \right)
\end{displaymath}

とおくと,この$\varphi$ $\mathbb{C}/\Lambda$から $S(a_1,\ a_2,\ a_3)$ への同型を与える.

この二つの同型で$E$の点$\underline{x}$に対応する $\mathbb{C}/\Lambda$の点を $\tau$とする.

\begin{displaymath}
\begin{array}{ccccc}
E&\sim&S(a_1,\ a_2,\ a_3)&\sim&\mat...
...&:&(0,\ \sqrt{\left\vert D \right\vert})&:&\tau
\end{array}
\end{displaymath}

したがって,ポンスレ条件111は この$\tau$に関して

\begin{displaymath}
n\tau\equiv 0\quad (\bmod.\ \Lambda)
\end{displaymath} (5.23)

が成り立つ条件と言いかえることが出来た.

楕円関数

ここで楕円関数に関する古典的な事実を用いる. $\mathbb{C}/\Lambda$上の有理型関数を楕円関数と言った. 次の命題が成立する.

命題 119        $f$を周期 $\omega_1,\ \omega_2$をもつ定数でない楕円関数とする.
i)
$f$は極をもつ.
ii)
極における留数の和は0である.
iii)
重複を考えた$f$の零点の個数の和と極の個数の和は等しい.
iv)
$a_1,\ a_2,\ \cdots,\ a_n$で零点をもち, $b_1,\ b_2,\ \cdots,\ b_n$で極をもつ楕円関数$f$が存在するための 必要十分条件は

\begin{displaymath}
a_1+a_2+\cdots+a_n\equiv b_1+b_2+\cdots+b_n\quad (\bmod.\ \Lambda)
\end{displaymath}

である. ■

楕円関数で,0において高々$n$位の極をもつものの集合を$V_n$とする.

命題 120        $V_n$$\mathbb{C}$上の$n$次元ベクトル空間である. $V_n$の基底として

\begin{displaymath}
1,\ \wp,\ \wp',\ \cdots,\ \wp^{(n-2)}
\end{displaymath}

をとることが出来る. ■

ポンスレ条件5.23は 命題119のiv)の条件において

\begin{displaymath}
a_1=a_2=\cdots=a_n=\tau,\ b_1=b_2=\cdots=b_n=0
\end{displaymath}

としたものである.命題119のiv)から, ポンスレ条件5.23は, $V_n$の楕円関数$f$で,$f\ne 0$かつ$\tau$$n$位の零点をもつものが存在すること, と同値である. このとき,$f$は必然的に0で$n$位の極をもつ.

命題 121        $f_1,\ f_2,\ \cdots,\ f_n$$V_n$の基底とする. $f\ne 0$かつ$\tau$$n$位の零点をもつものが存在する条件は,

\begin{displaymath}
W(f_1,\ f_2,\ \cdots,\ f_n)=\left\vert
\begin{array}{cccc...
...1^{(n-1)}&\ &\cdots&\ &f_n^{(n-1)}
\end{array}
\right\vert
\end{displaymath}

とおくとき, $W(f_1,\ f_2,\ \cdots,\ f_n)(\tau)=0$となることと同値である. ■

注意 5.3.5        $z$の関数$f(z)$$z=\tau$で解析的で$m$位の零点をもてば$a_m\ne 0$

\begin{displaymath}
f(z)=a_m(z-\tau)^m+\cdots
\end{displaymath}

と展開される. ここで$u=g(z)$$u$$z=\tau$で解析的で$g'(\tau)\ne 0$とする. つまり$c_1\ne 0$

\begin{displaymath}
u=g(z)=g(\tau)+c_1(z-\tau)+\cdots
\end{displaymath}

と展開されたとする.$f$$u$の関数と見たとき,$u=g(\tau)$$l$位の零点をもつとする.このとき

\begin{eqnarray*}
f(u)&=&b_l(u-g(\tau))^l+\cdots\\
&=&b_l(c_1(z-\tau)+\cdots)^l+\cdots
\end{eqnarray*}

となるので,$l=m$である.

     したがって$z=\tau$で位数$n$の零点をもつ関数の存在条件である, 条件 $W(f_1,\ f_2,\ \cdots,\ f_n)(\tau)=0$は, $f_1,\ \cdots,\ f_n$$u$の関数と見たときの 条件 $W(f_1,\ f_2,\ \cdots,\ f_n)(g(\tau))=0$と同値である.

ケーリーの定理

以上の準備のもとにポンスレ条件を$Q_0$$Q_1$ の行列$C$$D$で書き表すケーリーの定理が証明される.

線束楕円曲線 $S(a_1,\ a_2,\ a_3)$と. トーラスで出来る楕円曲線 $\mathbb{C}/\Lambda$が同型となる格子$\Lambda$ をとり,それによって定まる関数$\wp $をとる. $\mathbb{C}/\Lambda$から $S(a_1,\ a_2,\ a_3)$への同型を $\varphi(z)=(x,\ y)$とすると

\begin{displaymath}
x(z)=\wp(z)+\dfrac{s}{3},\ y(z)=\dfrac{\wp'(z)}{2}
\end{displaymath}
となり,この同型で
\begin{displaymath}
\varphi(0)=(\infty,\ \infty),\
\varphi(\tau)=(0,\ \sqrt{\vert D\vert})
\end{displaymath}

となるのであった.

定理 16  
\begin{displaymath}
y=\sqrt{\left\vert xC+D\right\vert}=\sqrt{(x-a_1)(x-a_2)(x-a_3)}
=\sum_{k=0}^{\infty}A_kx^k .
\end{displaymath}

とする.このときポンスレ条件は,
i)
$n=2m+1\ (m\ge 1)$のとき

\begin{displaymath}
\left\vert
\begin{array}{ccccc}
A_2&\ &\cdots&\ &A_{m+...
..._{m+1}&\ &\cdots&\ &A_{2m}
\end{array}
\right\vert=0 .
\end{displaymath}

ii)
$n=2m\ (m\ge 2)$のとき

\begin{displaymath}
\left\vert
\begin{array}{ccccc}
A_3&\ &\cdots&\ &A_{m+...
...m+1}&\ &\cdots&\ &A_{2m-1}
\end{array}
\right\vert=0 .
\end{displaymath}

と同値である. ■

証明      $x(\tau)=0$であり $x'(\tau)=\wp'(\tau)\ne 0$である. したがって注意5.3.5によって, 条件 $W(f_1,\ f_2,\ \cdots,\ f_n)(z=\tau)=0$は 条件 $W(f_1,\ f_2,\ \cdots,\ f_n)(x=0)=0$と同値である.

$V_n$の基底として

\begin{eqnarray*}
1,\ x,\ \cdots,\ x^m;y,\ xy,\ \cdots,\ x^{m-1}y,\ &&(n=2m+1)\\
1,\ x,\ \cdots,\ x^m;y,\ xy,\ \cdots,\ x^{m-2}y,\ &&(n=2m)
\end{eqnarray*}

をとる.この基底を用いて $W=W(f_1,\ f_2,\ \cdots,\ f_n)$を計算する.

$n=2m+1$の場合に示す.$n=2m$の場合も同様である. 非負整数$j,\ k$に対して

\begin{displaymath}
\dfrac{d}{dx^j}x^k\biggr]_{x=0}=
\left\{
\begin{array}{cc}
0,&(j\ne k)\\
j!&(j=k)
\end{array}
\right.
\end{displaymath}

また$0\le j\le m-1$に対して

\begin{displaymath}
x^jy=\sum_{k=j}^{\infty}A_{k-j}x^k
\end{displaymath}

であるから $m+1\le l \le2m$に対して

\begin{displaymath}
\dfrac{d}{dx^l}x^jy\biggr]_{x=0}=l!A_{l-j}
\end{displaymath}

となる.これより$W$

\begin{displaymath}
W=\left\vert
\begin{array}{cc}
A&B\\
O&C
\end{array}
\right\vert
\end{displaymath}

と分けられる.ここで $A$ $(m+1)\times(m+1)$の対角行列式で,成分は $1,\ 1,\ 2!,\ \cdots,\ m!$である. $B$$(m+1)\times m$の行列式,$O$$m\times(m+1)$の零行列式である.そして$C$

\begin{eqnarray*}
C&=&\left\vert
\begin{array}{ccccc}
(m+1)!A_{m+1}&\ &\cdo...
...\vert\\
&&(複合は並べ替えの回数で決まる.)
\end{eqnarray*}

これより$W=0$ $\left\vert
\begin{array}{ccccc}
A_2&\ &\cdots&\ &A_{m+1}\\
\cdots&\ &\cdots&\ &\cdots\\
A_{m+1}&\ &\cdots&\ &A_{2m}
\end{array}
\right\vert=0$の同値性が示された. □

例 5.3.1        命題99の記号を用いると
\begin{displaymath}
y
=\sqrt{\left\vert xC+D\right\vert}
=\sqrt{x^3\left\vert C \right\vert+x^2\Theta_1+x\Theta_2+\left\vert D \right\vert}
\end{displaymath}

である. $f(x)=x^3\left\vert C \right\vert+x^2\Theta_1+x\Theta_2+\left\vert D \right\vert$とおく.
\begin{eqnarray*}
A_0&=&\sqrt{f(0)}=\sqrt{\vert D\vert}\\
A_1
&=&\dfrac{d}{d...
...eta_1\Theta_2\vert D\vert+3\Theta_2^3}{8D^2\sqrt{\vert D\vert}}
\end{eqnarray*}

これより得られる$n=3,\ 4$の結論が, 定理14と命題100に他ならない.
注意 5.3.6        すでに, 線型代数を用いる証明の中で$n=3$$n=4$の場合を示した. そこでは$n=3$のときは必要十分条件であることまで示せたが, $n=4$の場合は注意5.1.2に書いたように, 十分性しか示せていなかった. ところが上記定理によって,$Q_0$$Q_1$が一般の位置にあるという条件の下で, $A_3=0$が必要十分条件であることが示された.

課題について

当初考えた課題のうち,次の二つがまだ出来ていない. 一つは,ケーリー条件の代数的証明をめざす,ことである. もう一つは,退化した場合のポンスレの定理を,統一して扱うことである.

後者については,『Poncelet's Theorem』[40]でなされている. 時間が許せば,ここで再構成したいと考えている. ポンスレの定理は,さらに空間の二次曲面や,多くの展開がある. 『Poncelet Porisms and Beyond』[41]には,現在の到達点まで述べられている.

前者については,代数幾何のさらに深い構成が必要で, 現在の力に余る.

このような課題を確認して,とりあえず一区切りとしたい.


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2014-01-03