ポンスレは射影幾何をあくまで実数体上で考え,そのうえで複素数を巧みに用いた. それに対して,われわれははじめから複素数体上の射影幾何を考える. 実数体上の射影幾何はそのまま複素数体の射影幾何のなかに埋め込まれる. 実数体上の射影幾何の諸命題は,それを複素数体の射影幾何に埋め込むことで, 複素数体上で証明すれば,実数体上の射影幾何の命題としての成立も示される.
の射影変換がある. それに対応する3次行列が であるとする. 射影変換で二次曲線がに変換されるとする. 上の点が上の点に対応するとすれば, ,つまり .このがもとの関係式を満たすので, である. このを改めてととり直すことにより, の方程式は を用いて
二つの二次曲線とで定まる曲線束とは,
二次曲線の集合
係数体が代数的閉体の場合, これはまたとの4つの交点を通る二次曲線の集合でもある. で定まる二次曲線の行列は行列の属する類である.
また,その行列式 はとの3次同次式である. これによって3次曲線 が定まる.
ここで上記のように行列で定まる射影変換を施す. このときは に, とは と になる. また はそれぞれ になるとする.
比
では,二つの円錐曲線がどのような条件を満たせば, そのよう角形が存在するのか. ポンスレの閉形定理はそれには答えていない.
存在条件を線束不変量を用いて明示的に与えたのは,ケーリーであった. この条件は,『解析幾何学(円錐曲線)』(サーモン)[35]が,610頁の脚注で述べている. 記号を本書にそろえて紹介する.
この条件はケーレー(1853)が楕円関数論を用いてはじめた与えたるところなり(Philosophical Magazine,VI,99頁). の平方根をの巾について展開して, を得たりとせば,に内接しに外接する辺多角形が存在するための条件は, に対してはそれぞれ
にして, に対してはそれぞれ
なることを証明したり.
ケーリーの論文は 『The Collected Mathematical Papers of Arthur Cayley.Vol.2』[42]に収められている. このケーリーによる一方に内接し,他方に外接する角形の存在条件の証明,これが本書の最後の目標である. 定理16でなされる.
本節では,,の場合に,楕円関数によらない直接証明を試みる. さらに,線束不変量を用いて,ポンスレの定理の別証明を与える.
(ii)
1)
必要条件であることを示す.
二次曲線上に頂点をもち3辺がに接する三角形が存在するものとする.
3点を枠の3点にうつす射影変換を行うことにより,この3点の同次座標を
,,とできる.
この3点が上にあるので,
である.つまり
とを連立して
である.これは余因子で言えば
2) 十分条件であることを示す.
関係式(5.1)が成り立っているとする. このとき3点,,に対し, 三角形の3辺,,がに接し, とが上にあれば,も上にあることを示せばよい.
とが上にあり, ,,がに接することから
(iii) 二次曲線上に頂点をもち3辺がに接する三角形がひとつ存在すれば, 関係式(5.1)が成立する. 上の任意の点に対し,からに接線をひき, とからに接線と異なる接線をひき, その交点をとする.(ii)の十分性の証明と同様にしてもにあることが示され, 二次曲線上に頂点をもち3辺がに接する三角形が存在する. □
そのうえで実数体のなかだけでも証明されることを確認するため, 本証明では係数についての重根条件だけを仮定して計算した.
『解析幾何学(円錐曲線)』(サーモン)[35]や 『幾何学大辞典6』[46]の証明は, ここで注意した方法によって,係数を簡単にしておこなっている.
点は直線上にあり,点は直線上にある.
単位点を取りなおして,にする.
命題70の系70.1より
である.とすれば
この4点を通る円錐曲線の方程式は
一方,系93.1によって,三角形はの極三角形である.したがってその方程式は
の4辺は順に
をに代入して
一方
よってなら等式5.4が成り立つ. □
サーモン『解析幾何学(円錐曲線)』[35]はの場合のみ. 窪田忠彦『解析幾何学』(第一巻)[35]は必要条件として載せている. 『幾何学大辞典6』[46]は「条件」として書かれているが, 証明されているのはやはり必要条件のみである.
後に,二つの円錐曲線が異なる4点で交わっている場合, これが十分条件でもあることが示される. 注意5.3.6を参照のこと.
このとき上の任意のに対し, 上の点で 直線がに, 直線がに, 直線がに接するものが存在する. ■
条件を満たす3点が存在するとする.
そのときのを定める行列をとる.
その方程式をとおく.
射影変換を行い3点の同次座標を
,,とする.
については定理14と同じである.特に
3曲線
の方程式は,とは異なるので,
この曲線束に属するある二次曲線とその方程式を用いて
とを連立したとの方程式を
座標
を
にとりなおすことにより
関係式(5.5) は条件を満たす3点が存在するときに, ある との間で成り立つ関係式である.
をにかえるとは倍される. ,はそれぞれ,倍され, は倍される. よって関係式(5.5)の成立は不変である. をにかえるとは倍される. ,はそれぞれ,倍され, は倍される. よってやはり関係式(5.5)の成立は不変である. また行列による射影変換で両辺いずれもが倍される. よって関係式(5.5)が成立するか否かは, ととそれで定まる曲線束の3曲線 に 固有のことであり,さらにそのことは射影変換で不変である.
逆にとで定義される曲線束の3曲線 があり,それらを定める行列と係数を一組とるとき, との間に関係式(5.5)が成立しているとする.
このとき,別の三角形で, その3辺,,がそれぞれ曲線 に接し,かつとが上にあれば, も上にあることを示せば本定理の証明が完結する.
関係式の成立は射影変換で不変なので
3点の同次座標を,,にとる.
とが上にあるとする.これから
この について 関係式(5.5)が成立する.
,
とおく.
差をとって残る項はまたはで括ることが出来る. ところが でのうち0であるのは多くても1個である. の順序をとりなおしてとする. このとき である. よって差はすべてで括れる.
に関するこの関係式は, と,, の接点を , , とおくとき,このを決定する. したがっての方程式と見れば一つの解はである.
ところが二次曲線と直線の接点としては一意であり, これからと確定する. この結果 となり,.つまりも上にある.
よって関係式(5.5)はも上にあるための十分条件である. 定理15が証明された. □
定理15を線型代数で証明した. この結果,前小節の命題98の別証明が得られる. 命題98を再掲する.
曲線束に属する円錐曲線 がある. に対し, 上の点からに接線を引く. の点でとなるものをとる. このとき直線と接する曲線束の円錐曲線 が存在する.証明 曲線束がとで定まっているとし,その方程式を とする. またの方程式がそれぞれ とする. このとき関係式(5.5)はに関する2次方程式である. この根による方程式で定まる共線束の曲線をとすれば, このが条件を満たす. □
ポンスレの定理12は命題98から数学的帰納法で示されるので, これで定理15にもとづく定理12の証明が完結した.
1)
このとき必要条件の部分は次のような計算がなされる.
定理の証明前半と同様の考察から
2)
さらにまた,十分条件の証明でえられた関係式(5.6)の
残余項をで括るとき,残る因数部分がどのようになるのか,
が残るのか否かを含めてこの考察も未完である.
3)
曲線束が一般的でない場合,
例えばとが1点で接し2点で交わる場合などのときに,
本定理がどのように成り立つのかの考察も未完である.