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和の期待値

確率変数$X$ $x_1,\ x_2,\ \cdots,\ x_n$ の値を取り, その確率が $p_1,\ p_2,\ \cdots ,\ p_n$ であるとする. つまり $P(X=x_i)=p_i\ (i=1,\ 2,\ \cdots,\ n)$であるとする.

確率変数$Y$ $y_1,\ y_2,\ \cdots ,\ y_m$ の値を取り, その確率が $q_1,\ q_2,\ \cdots ,\ q_m$ であるとする. つまり $P(Y=y_i)=q_i\ (i=1,\ 2,\ \cdots,\ m)$であるとする.

定理 3        確率変数$X+Y$の期待値 $E(X+Y)$$E(X)+E(Y)$ と一致する.

証明

\begin{eqnarray*}
\sum_{i=1}^nP(X=x_i,\ Y=y_j)&=&P(Y=y_j)=q_j\\
\sum_{j=1}^mP(X=x_i,\ Y=y_j)&=&P(X=x_i)=p_i
\end{eqnarray*}

なので

\begin{eqnarray*}
E(X+Y)&=&\sum_{i=1}^n \sum_{j=1}^m (x_i+y_j)P(X=x_i,\ Y=y_j)\...
...)\\
&=&\sum_{i=1}^nx_ip_i+\sum_{j=1}^my_jq_j\\
&=&E(X)+E(Y)
\end{eqnarray*}

である. □

注意 3        $P(X=x_i,\ Y=y_j)$$X=x_i$かつ$Y=y_j$となる確率を表す.

注意 4        本定理は,$n$個の確率変数, $X_1,\ X_2,\ \cdots,\ X_n$に関する等式,

\begin{displaymath}
E\left(\sum_{k=1}^nX_k \right)=
\sum_{k=1}^nE(X_k
\end{displaymath}

に一般化される.証明は,数学的帰納法による.

このような性質を,線形性という. 期待値は線形性をもつ.

期待値は根元事象の全体にわたる和であるという観点から $E(X+Y)=E(X)+E(Y)$を示すこともできる. $X$の値が$x_i$であり,$Y$の値が$y_j$であるような事象を$A_{i,j}$とおく.すると標本空間$U$は 互いに排反な事象$A_{i,j}$の和になる.そして

\begin{displaymath}
P(X=x_i,\ Y=y_j)=p(A_{ij})=\sum_{u \in A_{i,j}}p(u)
\end{displaymath}

である.$u\in A_{ij}$に対して

\begin{displaymath}
x_i+y_j=X(u)+Y(u)
\end{displaymath}

なので

\begin{eqnarray*}
(x_i+y_j)P(X=x_i,\ Y=y_j)&=&(x_i+y_j)\left\{\sum_{u \in A_{i,...
...\right\}\\
&=&\sum_{u \in A_{i,j}}\left(X(u)+Y(u) \right)p(u)
\end{eqnarray*}

したがって

\begin{eqnarray*}
E(X+Y)&=&\sum_{i=1}^n \sum_{j=1}^m (x_i+y_j)P(X=x_i,\ Y=y_j)\...
...\\
&=&\sum_{u \in U}X(u)p(u)+\sum_{u \in U}Y(u)p(u)=E(X)+E(Y)
\end{eqnarray*}

確認問題 4       解答4

10円硬貨3枚,50円硬貨5枚を同時に投げる.確率変数$X$を表の出た硬貨の 金額の和とする.$X$の期待値を求めよ.

問題 5       [04北大前期理系]    解答5

ある人がサイコロを振る試行によって,部屋A,Bを移動する. サイコロの目の数が1,3のときに限り部屋を移る. また各試行の結果,部屋Aに居る場合はその人の持ち点に1点を加え,部屋Bに居る場合は1点を減らす. 持ち点は負になることもあるとする. 第$n$試行の結果,部屋A,Bに居る確率をそれぞれ $P_A(n),\ P_B(n)$と表す. 最初にその人は部屋Aに居るものとし(つまり, $P_A(0)=1,\ P_B(0)=0$とする),持ち点は1とする.

  1. $P_A(1),\ P_A(2),\ P_A(3)$および $P_B(1),\ P_B(2),\ P_B(3)$を求めよ. また,第3試行の結果,その人が得る持ち点の期待値$E(3)$を求めよ.
  2. $P_A(n+1),\ P_B(n+1)$ $P_A(n),\ P_B(n)$を用いて表せ.
  3. $P_A(n),\ P_B(n)$$n$を用いて表せ.
  4. $n$試行の結果,その人が得る持ち点の期待値$E(n)$を求めよ.

分散と標準偏差

ある確率変数$X$に対し,その期待値を$E(X)$とする. 期待値は同じでも,確率変数の値が大きく変化しているときや, 期待値の近くにかたまっている場合など,散らばり具合はいろいろある. それを数値化するために,

\begin{displaymath}
V(X)=E((X-E(X))^2)
\end{displaymath}

とおく.$(X-E(X))^2$は新たな確率変数であり,その期待値が$V(X)$である. この値を分散という. 各確率変数の値が期待値からどれだけ離れているかは $\vert X-E(X)\vert$である.その平方の期待値が分散である.

$V(X)$は期待値の線形性を用いて簡単にすることができる.

\begin{eqnarray*}
V(X)&=&E((X-E(X))^2)\\
&=&E(X^2-2E(X)X+ E(X))^2)\\
&=&E(X...
...(E(X)^2)\\
&=&E(X^2)-2(E(X))^2+ E(X)^2\\
&=&E(X^2)-(E(X))^2
\end{eqnarray*}

この式は分散の意味は見えにくいが,計算はこちらが便利である.

そして,平方の期待値の平方根,つまり

\begin{displaymath}
\sigma(X)=\sqrt{V(X)}
\end{displaymath}

標準偏差という.

Aozora 2017-09-13