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期待値の定義

定義 3        確率変数$X$$n$個の値 $x_i\ (i=1,\ 2,\ \cdots,\ n)$ を取り, その確率がそれぞれ $q_i\ (i=1,\ 2,\ \cdots,\ n)$であるとする.このとき

\begin{displaymath}
E(X)=\sum_{i=1}^n x_i q_i
\end{displaymath}

を確率変数$X$ の期待値という.

次の定義と同値である.

$(U,\ p)$を確率空間とし, $u_1,\ u_2,\ ,\ u_N$$U$の全ての要素,つまりあらゆる試行の結果とする. 期待値$E(X)$

\begin{displaymath}
E(X)=\sum_{u_j\in U} p(u_j)X(u_j)
\end{displaymath}

である.

証明

\begin{displaymath}
q_i=\sum_{l:X(u_l)=x_i}p(u_l)
\end{displaymath}

なので

\begin{eqnarray*}
E(X)&=&\sum_{i=1}^n x_i\left(\sum_{l:X(u_l)=x_i}p(u_l)\right)...
..._{i=1}^n \sum_{l:X(u_l)=x_i}X(u_l)p(u_l)=\sum_{u\in U} X(u)p(u)
\end{eqnarray*}

となる. □

同じ値をとるものをまとめて考えるのが最初の定義であり, これは,まとめないままで$U$全体にわたって和をとることと同じになる.

分配問題を解く

はじめに紹介したパスカルとフェルマの往復書簡中で議論されている問題を考えよう. 2人は,ド・メレという人から出された「分配問題」を議論し,いろんな方法で考えている. 一般的な解法はパスカルが出している. 例2を一般化しよう.

例題 2        今,A と B が互いに$c$円ずつ出して勝負している.Aが勝つ確率は$p$で Bが勝つ確率は$q$であるとする.$p+q=1$である. 1回勝つと1点もらえて,先に$N$点獲得した方が優勝し賭金$2c$円をもらう. A が$a$点獲得しBが$b$点獲得しているときに,やむを得ない事情で勝負を中止しなければならなくなった. $2c$円をどのように分配すべきか.

解答      Aが勝つためにはあと$N-a$点,Bが勝つためにはあと$N-b$点必要. これをもとに,この後引き続いて勝負をしたとして,Aの勝つ確率,$B$の勝つ確率を計算し, その比に応じて分配するしかない.

つまり,この時点でAのもらえる期待値,Bのもらえる期待値を計算するということになる. $r=N-a,\ s=N-b$とおいて計算する. 最大$r+s-1$回勝負すればいずれかの勝ちが決まる. そこで$n=r+s-1$とする. Aが$r$回勝つまでにBが$k$回勝つとすると, その事象は,$r-1+k$回中$k$回Bが勝ち,$r+k$回目にAが勝つ事象なので, その確率は

\begin{displaymath}
{}_{r-1+k}\mathrm{C}_kp^{r-1}q^kp
\end{displaymath}

である.よってAが勝つ確率は

\begin{displaymath}
p^r\left(\sum_{k=0}^{s-1} {}_{r-1+k}\mathrm{C}_kq^k\right)
\end{displaymath}

となる □


2では $r=1,\ s=2,\ p=q=\dfrac{1}{2}$なので,Aが勝つ確率は

\begin{displaymath}
\dfrac{1}{2}\left(1+\dfrac{1}{2} \right)=\dfrac{3}{4}
\end{displaymath}

AとBがもらえる期待値は

\begin{eqnarray*}
A&:&64\times\dfrac{3}{4}+0\times\dfrac{1}{4}=48\ (円)\\
B&:&0\times\dfrac{3}{4}+64\times\dfrac{1}{4}=16\ (円)
\end{eqnarray*}

であり,この金額を分配すればよい.


パスカルはこの計算をするのにいわゆる「パスカルの三角形」を使っている. パスカルの三角形は確率の計算で使われはじめたのだ.

確認問題 3       解答3

袋の中に赤玉4個と白玉5個が入っている. この中から,元に戻さずに1個ずつ球を取りだしていく. この試行に最初から1番,2番と番号をつける. 確率変数$X$を,最初に赤玉が出る試行の番号と定める. $X$の確率分布と期待値を求めよ.



Aozora 2017-09-13