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根元事象の確率が等しいとき

定理 2        標本空間が有限集合で, 根元事象の確率がすべて等しいとき, 事象$A$の確率は

\begin{displaymath}
p(A)=\dfrac{n(A)}{n(U)}
\end{displaymath}

で与えられる.ただし$n(\quad )$は集合の要素の個数を表す.

証明      標本空間$U$$N$個の要素からなるとし,

\begin{displaymath}
U=\{u_1,\ u_2,\ \cdots,\ u_N\}
\end{displaymath}

とする. またその確率を$p$とする.

\begin{eqnarray*}
1&=&p(U)=p(\{u_1,\ u_2,\ \cdots,\ u_N\})\\
&=&p(u_1)+p(u_2)+\cdots+p(u_N)
\end{eqnarray*}

そして $p(u_1)=p(u_2)=\cdots=p(u_N)$であるから結局

\begin{displaymath}
p(u_1)=p(u_2)=\cdots=p(u_N)=\dfrac{1}{N}
\end{displaymath}

となる. $A=\{u'_1,\ u'_2,\ \cdots,\ u'_r\}$をある事象とすると

\begin{eqnarray*}
p(A)&=&p(\{u'_1,\ u'_2,\ \cdots,\ u'_r\})\\
&=&p(u'_1)+p(u'...
...
&=&\dfrac{1}{N}+\dfrac{1}{N}+\cdots+\dfrac{1}{N}=\dfrac{r}{N}
\end{eqnarray*}

である. □

確認した現在の教科書の多くは, 「ある事象$A$の起こることが期待される割合を, 事象$A$の確率といい,これを$P(A)$で表す」 と,書いている.これはまったく経験的な言葉であり, 数学の定義にはなっていない.

そして,根源事象がすべて同様に確からしいときとの条件の下で, 定理2の式を確率の定義としている. そして,確率の定義1を,「確率の性質」としている. これは逆ではないだろうか.

例題 1       $n$本のくじの中に$5$本の当たりくじがある. $8$ 人の人が一本ずつ引く. その中に$3$ 本の当たりが出る事象を$A$とする.確率$P(A)$を求めよ.

解答

  1. くじも人も区別する場合:
    $n$本のくじから8枚を選び,8人にわたす. $n(U)={}_{n}\mathrm{P}_8$. 該当事象は,誰が当たるかを決め,そこに当たりくじを, 残る5人に外れくじをわたす場合の数だけある.

    \begin{displaymath}
P(A)=
\dfrac{{}_8\mathrm{C}_3\cdot{}_5\mathrm{P}_3 \cdot{}_{n-5}\mathrm{P}_{5}}
{{}_{n}\mathrm{P}_8}
\end{displaymath}

  2. くじは区別し,人は区別しない場合:
    $n$本のくじから8枚を選ぶ. $n(U)={}_{n}\mathrm{C}_8$. 該当事象は,当たりから3本,外れから5本を選ぶ場合の数だけある.

    \begin{displaymath}
P(A)=
\dfrac{{}_5 \mathrm{C}_3\cdot{}_{n-5}\mathrm{C}_{5}}{{}_{n}\mathrm{C}_8}
\end{displaymath}

  3. くじは区別せず,当たりか外れかのみを区別する場合:
    すべてのくじを並べ,端から8本とる.$n$本のどこに当たりがあるか, すべての当たりの配置を$U$とする. $n(U)={}_{n}\mathrm{C}_5$. 該当事象は,端の8本のうち3本当たり,残る$n-8$本中に2本当たりがある配置の数だけある.

    \begin{displaymath}
P(A)=\dfrac{{}_8\mathrm{C}_3\cdot{}_{n-8}\mathrm{C}_{2}}{{}_{n}\mathrm{C}_5}
\end{displaymath}

よって求める確率は次のようになる.

\begin{displaymath}
P(A)=\dfrac{3360(n-8)(n-9)}{n(n-1)(n-2)(n-3)(n-4)}
\end{displaymath}

途中の式はこのように当然異なるが,最後の確率は一致している.



Aozora 2017-09-13