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整数との差がの倍数であるとき,
と は を法として互いに合同であるといい,次のように記す.
ここで整数の部分集合を
とする.集合の要素の和・差・積はふたたびに属する.
合同という関係はこれを用いて
と集合論的にとらえることができる.
定理 9
整数
と
が
を法として合同であることと,
と
を
で割った二つの余りが等しいことは同値である.■
証明
整数とがを法として合同であるとし,とおく.
ここでとをで割った商と余りをそれぞれ,とする.
辺々引いてを用いると
つまり
もし
なら,
であるが,
右辺は で割った余りの差なので である.
これは矛盾である.
を法として合同な二数はで割った二つの数の余りが等しい.
逆にとをで割った余りが等しいとする.
より
である.つまりとはを法として合同である.
□
集合の要素の間に,成り立つか成り立たないかがつねに確定する関係が定義されているとする.要素との間にこの関係が成り立つことをと表す.
- (i)
- .
- (ii)
- なら.
- (iii)
- なら.
が成り立つとき,「〜」を「同値関係」という.
例 2.1.1
を整数とする.整数
について関係
を
で定める.〜は同値関係である.
同値関係があると,同値なものをひとつの部分集合にまとめることができる.
つまりの要素と同値な要素からなるの部分集合
が一意に確定し,
のすべての要素はいずれかただひとつの
に属する.
いいかえると,任意の
と
について
か
のいずれか一方が成立する.
の属する部分集合
をの同値類という.このようにして得られる同値類の集合
を,集合の関係〜に関する商集合という.
反射律,対称律は明らかである.推移律も
なら
より成立する.
つまり合同という関係は同値関係である.
において,を法として互いに合同な整数で一つの部分集合を作り,合同でないものは異なる部分集合になるようにして,を互いに共通部分のない,いくつかの部分集合の和にすることができる.その一つ一つの部分集合をを法とする類といい,類に分けることを類別という.を法とする類とは,を法として互いに合同なすべての数の集合である.いいかえるとで割ったとき余りの等しい整数の集合である.つまり整数をで割った余りで類別したのである.それぞれの部分集合を剰余類という.
剰余類の集合は,整数の集合の合同という同値関係による商集合である.これを
と表す.あるいはと表すこともある.を法とする類別では個の類に類別される.したがっては個の要素からなる集合である.
を法として 個に分けられた各集合から一つずつ代表を取り出したとき,それを
完全な代表の一組(または剰余系)という.
例えば
はいずれも7を法とする完全な代表の一組になっている.
定理 10
ならば
一般に
で
が
に関する整数係数の整式ならば
|
(2.2) |
が成り立つ.■
証明
仮定によって
ゆえに
は の倍数である.また,
も の倍数である.すなわち(2.1)が示された.
(2.1)から
なら任意の整数 に対して
および
ふたたび(2.1)から
すなわち (2.2)が示された.□
において整数の属する類をと表す.を明示する必要があるときは
と表そう.本定理の意味することは,における和と積を
で適切に定義することができる,ということである.つまりの各類からどのように整数を選んで演算を考えても同じ結果になる.選び方によらず類のみで定まる類と類の間の演算が定義される.そして,分配法則
も成り立つ.加法と乗法の単位元はとである.これによっては有限個(個)の要素からなる環である.
例 2.1.2
のとき.
演算:
ただし,
なので乗法の逆元が存在するとはかぎらない.
乗法の逆元が存在すれば環は体になる.有理数体,実数体,複素数体はすべて四則演算ができる体であった.これらの体は,無数の要素からなっている.それに対して有限個の要素からなる体が存在する.これはガロアの発見であるが,現代の代数学の扉を開けるものであった.
定理 11
を素数とする.
は
個の要素からなる体である.
■
証明
でない他のに積の逆元が存在することを示せばよい.として1からのいずれかをとることができる.このときとは互いに素になる.したがって
となる整数が存在する.ところが
であるから,
となりに逆元が存在した.よっては体である.
□
このように,剰余類という整数の部分集合を一つの要素と見なし,剰余類にあいだの演算を考える.ここが難しいところであり,また数学が現代に飛躍するところでもあった.今後,本質的なところではこの考え方で考察をすすめるが,必ずしも本質的でないところでは,古典的な考え方でいくようにしたい.
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