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メビウスの反転公式

一般に自然数で定義されたふたつの関数 $F(n),\ G(n)$ に対して, 関数等式
\begin{displaymath}
\sum_{d\vert n}F(d)=G(n)
\end{displaymath} (2.23)

が成り立つとき,これを逆に解いて $F(n)$ を $G(n)$を用いて表すことができる.

そのためにメビウス(Möbius)の関数$\mu (n)$を次のように定義する.

\begin{displaymath}
\mu (n)=
\left\{
\begin{array}{ll}
1&(n=1\ のとき)\...
...数の平方で割り切れるとき)
\end{array}
\right.
\end{displaymath}

例 2.2.4  

\begin{displaymath}
\mu (1)=1,\ \mu (2)=-1,\ \mu (3)=-1,\ \mu (4)=0,\ \mu (5)=-1,\ \mu (6)=1,\ \cdots
\end{displaymath}

補題 2
     $n>1$ なら

\begin{displaymath}
\sum_{d\vert n}\mu (d)=0
\end{displaymath}

である.■

証明     $n>1$ であるから $n$ を素数のべきに因数分解して

\begin{displaymath}
n={p_1}^{e_1}{p_2}^{e_2}\cdots {p_k}^{e_k}
\end{displaymath}

とする.よって

\begin{displaymath}
\sum_{d\vert n}\mu (d)=\sum^x\mu ({p_1}^{x_1}{p_2}^{x_2}\cdots {p_k}^{x_k})
\end{displaymath}

ここで和は $0\le x_1 \le e_1,\ 0\le x_2 \le e_2,\ \cdots,\ 0\le x_k \le e_k$ の範囲内のすべての $x_1,\ x_2,\ \cdots,\ x_k$ を動く. この和の中で0になるもの,つまり各素数のべき指数が2以上のものを除くと,

\begin{eqnarray*}
\sum_{d\vert n}\mu (d)&=&\mu(1)+\{\mu(p_1)+\mu(p_2)+\cdots+\...
...\mathrm{C}_2-{}_k \mathrm{C}_3+\cdots +(-1)^k\\
&=&(1-1)^k=0
\end{eqnarray*}

この $\mu (n)$ を用いると $F(n),\ G(n)$ に関する問題を解くことができる.

定理 20 (メビウスの反転公式)

整数で定義された二つの関数 $F(x),\ G(x)$ について二つの命題:

\begin{displaymath}
\begin{array}{l}
\displaystyle \sum_{d\vert n}F(d)=G(n)\...
...um_{d\vert n}\mu \left(\dfrac{n}{d} \right)G(d)
\end{array}
\end{displaymath}

は同値である.■

証明     すべての $n$ に対して第一式が成り立てば,それを第二式の右辺に代入して

\begin{displaymath}
\sum_{d\vert n}\sum_{\delta\vert d} \mu \left(\dfrac{n}{d} \right)F(\delta)
\end{displaymath}

$\delta$ を固定し,$\delta|d|n$ であるように $d$ が動くと, $\dfrac{n}{d}$ $\dfrac{n}{\delta}$ の約数全体を動く. したがって和の順序を逆にして

\begin{displaymath}
=\sum_{\delta\vert n}\left[ F(\delta)\sum_{\delta'\vert \frac{n}{\delta}}\mu (\delta')\right]
\end{displaymath}

補題2 によってかっこ内の和で $\dfrac{n}{\delta}>1$ のものは0になり, $F(n)\mu (1)$のみが残る.

\begin{displaymath}
∴\quad \sum_{d\vert n}\mu \left(\dfrac{n}{d} \right)G(d)=F(n)
\end{displaymath}

つぎにすべての $n$ に対して第二式が成り立てば,同様に

\begin{eqnarray*}
\sum_{d\vert n}F(d)
&=&\sum_{d\vert n}\sum_{\delta\vert d}...
...lta'\vert \frac{n}{\delta}}\mu(\delta')\right]
G(\delta)=G(n)
\end{eqnarray*}

特に $F(n)=\varphi(n)$ のときは $G(n)=n$ である. この結果,整数で定義された関数で定理19の等式(2.22) がすべての $n$ について成り立つものは オイラーの関数 $\varphi (n)$ のみであることが示された. そして

\begin{displaymath}
\varphi(n)=\sum_{d\vert n}\mu \left( \dfrac{n}{d} \right)d
\end{displaymath}

となる.こちらから$\varphi (n)$を計算する. $n=p^{\alpha}q^{\beta}r^{\gamma}\cdots$ とすると

\begin{eqnarray*}
\varphi(n)&=&\sum_{d\vert n}\mu \left( \dfrac{n}{d} \right)d...
...\left(1-\dfrac{1}{q}\right)
\left(1-\dfrac{1}{r}\right)\cdots
\end{eqnarray*}
となり定理18と同じ結果が得られる.


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