数学的帰納法は証明すべき対象の性質そのものであると考えられている.それは正しいのだが,数学的帰納法の証明ですべての自然数で成り立つ根拠は,実は自然数の性質そのもののなかにある.このことは理解しておきたい.
を自然数 を含む何らかの命題とする. がすべての自然数で成立する, つまり真であることを証明するのに, 次のような論法を用いる.
(1)と(2)から(3)が結論づけられる根拠が, 自然数の性質(iii)なのである.それはどういうことか.
自然数の集合というのは,「1があってが要素であればも要素である」ような集合のうちでいちばん小さいものとして特徴づけられる.この自然数の性質(最小性)によって,がと一致する.条件が成立する の集合 が自然数全体となり,すべての自然数 でなり立つ,つまり(3)の成立がわかる.これが数学的帰納法の論証構造である.