整数係数で考えるときはまた別の問題であることには注意したい.
の多項式に対してでその次数を表すとする. の大きさをその次数とすると, この大きさに対して除法の定理が成り立つ.
証明 ならば でよい.
のとき,
とする. と の 次の項をそれぞれ
とする.
これが一組しかないことを示す.二組あったとする.
ところが一方, だから, .これは矛盾.
ゆえに等式(4.1)が成立するのは, のときのみである. このとき, となる.□
多項式の場合も割り算ができ, をに対して,をで割った商と余りが一意に確定することから,
がの倍数であることは, をで割った余りが0であることと同値である.
因数分解は
の中で,0でない定数は逆数もまた多項式であるから, では0でない定数が単数になる.
既約かどうかは,定数倍しても変わらない.
ここで注意. 既約かどうかは,係数をどこで考えるかによって異なる.
公約数や公倍数は整数の場合と同じである. 2つの多項式とに対し,その最大公約数とは, との公約数のなかで次数が最も大きいものをいう. 最大公約数が定数のとき,とは互いに素であるという.
最小公倍数とは,との公倍数のなかで, 次数が最も小さいものをいう. 簡単のために,やなどで多項式を表すことにする.
整数の場合の証明が,ほんの一部の手直しでそのまま使える. ここでは(1)を示す.
証明
の最小公倍数を
とし, を任意の公倍数とする.
を で割った商を ,余りを とすると
この定理の証明においても, 「除法の定理」が基本定理として用いられてることがわかる.
は異なる既約な多項式, は正の整数である.
このとき整数と同様に次の定理が成り立つ.
多項式の場合も素因数分解の一意性という. 基本的な定理である.
整数の因数分解の一意性の証明にならって, 多項式の場合についても,除法を用いないツェルメロの方法による別証明をしてみよう.
因数分解の一意性の別証明 相異なる因数分解をもつ多項式が存在するとする. 異なる因数分解をもつ多項式の集合を考える. この集合に属する次数が最小の多項式をとする. 次数の集合は自然数の部分集合なので,最小値が存在する. は相異なる2つの因数分解をもつ.それを
また, のいずれも のいずれとも異なる. なぜなら,もしなら, これを約せばより小さい次数で,異なる因数分解をもつ多項式が得られ, がそのような多項式のなかで次数最小であることに反する.
とする.
とすると,
適当な定数を
ここで多項式を
このの因数分解における因数 はの倍数ではない. なぜならもしの倍数ならがの倍数となり, 互いに異なる既約な多項式であることに反する. よってこの因数分解には現れない.
一方は
よっての2つの因数分解は相異なる因数分解である.
なので, が異なる2つの因数分解をもつ次数最小の多項式であることと矛盾した. したがって異なる2つの因数分解をもつ多項式は存在しない.□